284.木を隠すなら森の中というが、目立ちすぎると意味がない。
木を隠すなら森の中というが、目立ちすぎると意味がない。
沙絵と共に現実へ戻って"人に戻り"、素の姿のまま行動し始めた私達だったが…
白髪で着物姿の若い女2人組みというのは良く目立つもので、行く先々で奇異な視線を向けられた。
「着替えてる暇は無いって言うんでしょ?」
「そうですね。鬼沙が何をするか分かりませんので」
現実に戻って沙絵の運転する車に乗り、積丹方面へと移動する道すがら、適当なコンビニに立ち寄って軽食と飲み物を買って…今は車の中でそれを突きながらの移動中。
何処へ行こうとしているかは分からないが、沙絵から感じる雰囲気からして"今日でケリを付けたい"というのは良く伝わって来た。
「で、何処に行ってるのさ」
「この間行った廃墟の近くです。そこに古いトンネルがあるの知ってます?」
「えー、新しいトンネルが出来て使わなくなった様な?」
「はい。そのトンネルを"鬼沙達"が占拠しておりまして…先程、偶々鬼沙の車を見つけたメノウから連絡があって気付いたんです」
「なるほど…」
沙絵に尋ねてみれば、これからの行き先は鬼沙の"拠点"だそうだ。
積丹の端の方にある古いトンネル…確か、子供の頃は通れたはずの狭いトンネルが目的地。
鬼沙はそんな場所を"不法占拠"し、彼と手駒となる妖達の拠点にしていたらしい。
言われてみれば私達でも気付けそうなものだが…沙絵曰く、あの異境とよく似た"偽装"が成されていたそうで、メノウが偶然見つけられなかったら今も見つからぬまま、鬼沙の捜索は困難を極めていたそうだ。
「それにしても、鬼沙の術じゃないなら…誰の術なんだろうね?」
「さぁ…見知らぬ存在が居るのでしょう。そっちは異境の方に任せましょう」
「コッチ側に居たらどうする?」
「捕獲出来れば良いですが、無理そうなら隠すしか無いでしょう。その場しのぎですが…」
話題は、私達の様な"妖力が強い者"ですら気付かぬ"偽装"を施した妖について。
そんな妖が鬼沙側に居るとなれば、このまま鬼沙を消したとしても、その妖が"主犯"となって何かちょっかいを掛けて来るやもしれない…
もし、その妖が鬼沙の"思想"にハマっていれば、第二の鬼沙となって再びこの世界に危害を加えるかもしれないという危険があった。
「兎に角、そっちの事は一旦置いて…今は正臣君の身柄のみに集中しましょう」
「そうだね」
気になる事は気になる…だが、今"一番"の懸念事項はそこじゃない。
敢えて"意識しない"様にしていた正臣の事…
沙絵から正臣の名前を出された瞬間、落ち着いていた私の表情は一変し、運転していた沙絵の横顔が険しいものに変わった。
「……」
私に何かを言おうとして口を開き…だけども、何も言ってこない沙絵。
私はそれを横目に見つつ、据わった目をガラスの向こう側に向けたまま、車の行く先をジッと見つめる。
今はもう、美国の街中を過ぎる頃…
お寿司屋さんの見えるカーブを曲がって上り坂を登って行けば、左手側に美国の街を望みながら、道は再び北海道らしい自然の中へと入っていった。
「あと30分もしないよね?」
「はい。20分程度ですかね」
"飛ばせる"道に入り、沙絵の右足に力が入る。
車こそ沙絵のそれとは違い、ウチが"仕事"で使うセダンなのだが…
沙絵の乗ってるスポーツカーと遜色ない速度で片側1車線の道を駆けて行った。
「こう言う日に限ってネズミ捕りしてたりしてね」
「大丈夫です。雪女の件で"借り"は出来てますし…何より、今は私達の事を"見ない"様に要請してますので」
「イケナイ組織だこと」
「今に始まった事じゃないですよ」
窓の周囲には"自然"しか見えなくなった頃。
私がボソッと冗談を飛ばすと、沙絵がそれに返してくる。
返しに苦笑いを浮かべると、手元に置いていた刀に目を向けて「あぁ」と声を漏らした。
「どうかしましたか」
「刀、先代に折られてたんだった」
そういえば手にするだけして、状態の事を忘れていた。
刀を抜いてみれば…打刀は真ん中辺りから、脇差は先端付近から綺麗に"無くなって"いて、刀としては使い物にならないという状態。
「後ろに投げといて良いですよ」
「そうしよっか」
なんとか誤魔化せないか?と思っても、そんなものは無駄な努力。
沙絵の言葉に素直に従った私は、折られた刀を鞘に収めるとヒョイと後部座席の方に投げ置いた。
「そろそろです」
「みたいだね」
そうこうしてる間に、既に良い所まで進んでいて…目の前には海が見えてくる。
突き当りの信号を左に折れて、更に進んで行き…
余別の手前にある2つのトンネルの間辺りで、沙絵はハザードを出して車を歩道の上に止めた。
「ここです」
そう言って彼女が指したのは、新しい方の広いトンネルの隣にポツリとある、古びたトンネルの廃墟。
その方を見てみれば、ガードレールが破壊されて車1台分が通れそうな程のスペースが作られ…トンネル前の、朽ちた舗装には確かに車が通った痕が見える。
「なるほど…でも、こうなってしまったのは鬼沙の誤算かな」
車を降りてその様子を見た私は、廃トンネルの前にズラリと並んだ一般車両の姿を見てニヤリと笑う。
丁度車1台が通れるスペースでトンネル前の舗装に車が止められるとなれば、止める輩が出て来るに違い無いのだ。
今も、余り教育の行き届いていないであろう"釣り客"がそこに入り込んで車を止めて、釣り道具を出しながら談笑している様子が見えた。
「計算通りかもしれませんよ?夜になれば捌けるでしょうし」
「それもそうかな」
車を降りてきた沙絵と共に、車を路肩の歩道上に放置して車道を渡り…
談笑していた釣り客は、私達の"異様"な姿を見て言葉を失う。
「すみません…この場所から少しの間、避けておいて貰えませんか?」
奇異な視線を向けてきた彼らに、沙絵は笑顔で話しかける。
その手に宿っていたのは、どんなに鈍い人にもわかる"真っ赤な"光。
逆らった場合は、少しの間"夢を見てもらう"事になる…そんなことは、彼らに言わなくても伝わった様で、彼らは沙絵の行動を見て驚き、反論する威勢を失った。
「物分かりが良いですね」
沙絵はいい笑顔で釣り客たちの車を見送ると、歩道に置いた、乗って来た車に目を向ける。
「塞いじゃいますか」「そうしよう」
さぁ、これでトンネルへ…という訳なのだが、またこのような"不躾"な輩が来ないとも限らない。
沙絵は再び道を渡って車まで戻ると、こちら側に車を持ってきて、フェンスを塞ぐように車を止めた。
「では、行きましょうか」
車を降りてきて傍に戻ってきた沙絵の言葉に頷くと、廃トンネルの方に足を進めていく。
この位置からでも、何の変哲もない廃トンネルから"異様な妖気"が感じ取れ…
私達はその妖気を感じて表情を引き締めた。
「中でコソコソ動いてる"卑怯な"鬼を退治しに行きましょうか…これで"最期"にしてやる」
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