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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
283/300

283.思っていた通りで嬉しいと思うべきか、悲しむべきか分からない。

思っていた通りで嬉しいと思うべきか、悲しむべきか分からない。

異境の地に作られた"過去の日本"を模した通り…

そこに建つビルの中に作られた"現実と繋がる扉"を全て調べて回った結果。

が思っていた通り全国各地へと繋がっている様で、近頃の"事件"は全てこの異境を拠点としていたという事が濃厚になってきた。


「となれば、この辺りの妖は"隠した"から…もう安心という事ですかね?」

「どうじゃろうな。隠しても"戻って来る"例もあるんじゃろ?」

「まぁ…この間で言えば77号の妖とか、それこそ先代もか…」

「となれば、何処かへ隠されても"戻る手立て"は確立されておると見た方が良いだろう」


入って来た裏路地で、以津真達の事を待ちながら…

入道と言葉を交わし、今やっていることが"その場しのぎ"にしかならない事を思い知る。

どれだけ妖を隠しても、隠した妖が"戻ってこれてしまう"のであれば…

私達のやっている事、防人が今までやってきたことは、全くの"無意味"というわけだ。


「鬼沙がそういう手を見つけたとか…?」

「まさか。あの鬼は力こそあれど、妖術の類は苦手なはず…」

「……まぁ、ですよね」

「それに、沙月は気付いておらぬのか?扉から感じる妖力に」

「気付きましたけども、その…鬼沙以外に厄介なのが居るのはなぁって…」

「見て見ぬふりをするもんじゃない」

「いてっ…」


入道との会話の中で、軽くお道化てみれば彼から拳骨が飛んでくる。

そういうことをしている場合ではないのは重々承知だが、私の頭はもう"一杯一杯"だった。

扉の事、異境から"戻ってこれる"事…そして、正臣を連れ去った鬼沙の事…

私一人で考える事では無いのだろうが、兎に角、あやふやな事が多すぎるのだ。


「お主は鬼沙の事だけ考えておれば良いのさ。そこから先は我々の領分だからな」

「でも…」

「でもじゃない。防人の在り方から変わりそうなのだからな…少しは他所を頼らんか」


諭す様な声色でそう言われて、私は何も言えずに押し黙る。

すると、スーッと胸の中につっかえていた何かが消えていくような感覚を覚えた。


「何でも抱え込み過ぎるのは、お主の悪い癖じゃな」


胸の中では思っていても出来なかったこと…

人に任せるとどうしても惨めに思えてしまって、それが嫌で…自分が自分が!ってなり過ぎていたのだと思い知った今、私の気持ちは綺麗に浄化され、何一つ解決していないのに、不思議と清々しい気持ちになっていく。


「じゃが、その責任感の強さは褒めてやる」


入道は、何も言わぬまま"勝手に抱え込んで"、"勝手に追い詰められて"、"勝手に解決した"私にそういうと、私は恥隠しに苦笑いを浮かべて目を逸らし、腰に下げていた刀に手を当てた。


「待たせたな」


そんなことをしていると、私達の背後にある扉のノブが回されて、現実から以津真達が戻ってくる。

私と入道は以津真の声に反応してソッチ側に体を向けると、驚いて目を僅かに見開いた。

以津真や風吹、自覚の他に後2人…沙絵と八沙が"素の姿"でやって来たのだ。


「2人共…向こうは良いの?」

「良いって訳じゃねぇだろうが、以津真の爺さんに呼び出されたのさ」


私の尋ねに、久々に見る"紫髪の大男"と化した八沙が答える。

この姿の彼は所作が粗暴な所があるのだが…以津真達は格が違うのか、少々"控えめ"な様に見えた。


「"引率"を任せたくってな」


以津真はそう言うと、私達の前に出てきて裏路地を進み…通りのど真ん中に立ち止まる。

そして、私達の方へと体を向けると、彼はスマホを取り出して私達にそれを見せつけた。


「沙月、お前は沙絵と共に"向こう側"に戻って鬼沙を追え。奴の痕跡が向こう側で見つかった。ここが"こうなった"以上、奴が異境に来る手立てはもう無いだろうからな」


彼が最初に告げたのは、私への指示…

それに合わせて、沙絵がシレっと私の隣にやってきて、チラリと視線を向けてくる。

彼女の目を見返して小さく頷くと、沙絵は少し安心した様な顔を浮かべた。


「後の連中は"この異境を掃除"するぞ。今からこの場を徹底的に調べるんだ。八沙は風吹と入道と共に"防人の護衛"を頼む…じきに扉から防人が来るからな。それも、子供ばかり…」

「え!?どういうこと!?」


以津真が言った言葉に反応したのは、私一人。

自分が関係無い事に突っかかっても仕方が無いのだが…防人の"子供が来る"と聞いては、声を上げずにいられなかった。


「沙月、何も修行していたのはお主だけではないだろう?」

「そうだけど!こんな危険な場所の調査をさせるって…」

「だからこその"護衛"だ。危険は承知の上。それにな、悲しい事だが、今となっては大人連中よりも、お主の様な年頃の連中の方が"妖力が強い"んだ。こういう事態になっては"出し惜しみ"も出来んのさ」

「……そ、そう……」


以津真の言葉に納得してしまう私…

最も、拒否権などあるはずも無いのだが。


「だからな沙月、百鬼夜行だけは使わないでくれ」

「それを知ってて使わないですよ…」

「よろしい。そして、この場でやることは扉の消滅とこの空間にかけられた妖術の解除だ。術者が何処かに居る以上、ここを消しても意味が無いが、残しておると別の妖に悪用されるやもしれぬからな。ここの"後片付け"をしつつ、向こうの手口を調べる。それが分かれば現実への帰還だ。良いな!」


以津真はそう叫んで私達の顔を見回すと、私達は異論も無く頷き…

そして、自然と散開してそれぞれの"仕事"に取り掛かる。

私は沙絵と共に裏路地を戻っていくと、扉を出る前に1度、"消滅予定"の異境の方に顔を向けた。


「大変ですよ、帰りはここから見たいですから…」

「じゃ、小樽に皆来るわけだ。とんだ北海道旅行だね」

「子供達ばかりの…ですね。さて、私達も仕事にかかりましょうか」


異境の懐かしい景色を眺めて言葉を交わした私達は、ゆっくりと扉の方に足を踏み出す。


「鬼沙の手掛かりはもう掴んでるって思っていいの?」


ノブに手を掛けて沙絵にそう尋ねると、彼女はコクリと頷いて好戦的な笑みを浮かべた。


「えぇ、掴んでいます。今度は逃がしませんよ」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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