282.少しずつ、相手の外堀を削って行けばいい話だ。
少しずつ、相手の外堀を削って行けばいい話だ。
先代を消し…"手駒"をも隠して回った今、鬼沙の"持ち点"は大きく減った事だろう。
それでいい…ジワリジワリと削って、今に私の元に引きづり出してやる。
鬼沙の目的は、私なのだから…
「連れ去られた…?」
正臣が鬼沙に連れ去られた。
それを聞いた途端、私の目は大きく見開かれ表情が一変する。
目の前にいた千羽君は、そんな私の表情を見るとガタガタと震えだして、遂にはフッと気絶してしまった。
「沙月、落ち着け…兎に角、この子達は連れ戻さないとダメだろう。話はそれからだ」
そこに入って来たのは風吹で、真顔になったまま固まった私にそういうと、倒れかけた千羽君を抱えて人質の方に体を向ける。
「よし、出口は近くにあるんだ!もう大丈夫。行くぞ!」
そして、人質にそう声をかけると、風吹は千羽君を背負ったまま部屋の外へ出ていく。
人質になっていた皆は、そんな風吹の言葉にホッとした表情を浮かべると、ゾロゾロと風吹の後をついていった。
「沙月、入道と残って調べ回ってくれるか?ワシ等は彼らのお守りをせねばならん」
「分かりました」
以津真と自覚が最後尾についていく…
その直前、以津真から指示を受けた私は、硬い表情のまま指示に従うと、部屋に残った入道の方に顔を向けた。
「人質探しから優先したって感じですか」
「あぁ、じゃが…ここに至るまでに"他所へ繋がる"であろう扉を見つけてるんだ」
「なるほど?」
入道に尋ねてみれば、私と彼が残されたワケが良く分かる。
入道はこの空間に"薄く透けて"いた。
彼はその特性を活かして空間を把握するのに長けているし…私は私で、"動きやすい"のだ。
となれば、求められているのは、この異境の"地図作り"だろうか。
「どこがどう繋がってるか…それを調べて回れと。そういう事ですかね」
「あぁ、ワシの方で"扉"の位置は大体把握できておる。所で…携帯持ってるか?」
「あー…置いて来てます。どうせ持ってても壊すだけですし」
「それもそうだ。ならば…ほれ」
入道はそう言いながら、着物の裾からタブレット端末を取り出して私に渡してきた。
まさかそんなものを持っているとは…なんて表情を浮かべていると、入道がニヤリと笑う。
「ワシは"壊さぬ"からな」
ポツリと言われた一言に、どことなく"無茶するからそうなるんだ"と言いたげな感情を感じると、私は引きつった笑みを浮かべて後頭部に手を回した。
「…で、これで扉を撮って、何処に繋がるかメモでもしておけというわけですか?」
「あぁ、如何にも。扉の位置は概ね入ってる筈だ。新たに見つけたのが有れば…まぁ、ワシがやる。兎に角、扉が何処に繋がっているか、それだけを調べてくれ。妖が付近に居たとしても深追いするなよ?」
「分かりました…」
「この近辺だけだ。20個も無いから、2人で30分とかからんだろう。沙月は向かい側の通りのビルにある扉を頼む。終わったら、ワシ等が入って来た扉の前に居てくれ」
「はい」
私はコクリと頷くと、タブレットのスイッチを入れてロックを解除し、画像フォルダの中に入った写真の確認から始めていく。
写真には画像編集がなされており、手書きのメモが一緒に記されていた。
(ほぅ…これは、楽かもしれない)
入道らしい、細かくも分かりやすく記された位置情報…
私はそれを見てニヤリと口元に笑みを浮かべると、入って来たビルの窓から飛び出して宙に舞って地面に降り立ち、早速目の前のビルに入っていった。
「……」
正臣の行方が気になって仕方が無いが…今は今できる事を優先せねば…
ビルの中に入った私は、"現実味"のありすぎる光景に気味の悪さを感じつつ、入道のメモに従って"扉"がある場所まで歩いていく。
最初の扉は、ビルの1階…
惣菜屋になっている1階の奥、従業員の休憩スペース?の様な場所に設けられた扉。
パッと見る限りではビルの裏手に繋がっていそうにも見えるし、こんな所に扉があるのはおかしくも見える…
そんな所にある扉を開けて外に出てみると、私は思わぬ光景を目にして目を点にした。
「なるほど…」
思わずそう呟いてしまう程の場所。
最初の扉が繋がっていた先は、この間、ニュースで見た覚えがある通りだった。
正確には、通りに面している家の勝手口…とでも言えば良いだろうか。
まさか事件現場からこんな近くに異境へ繋がる扉があったとは…
「これは…凄いや…」
扉の向こう側に出てみて、扉に手を触れ、施された妖術の"凄さ"をまざまざと観察する。
防人達が"感知出来る筈も無く"…並みの妖でも、それこそ、入道達でも見逃すかもしれぬ程に"馴染んだ"扉。
私は扉に手を触れて…微かに感じる妖力から"施された偽装術"を脳内で組み立てていくが、これ程までに精密な術は、今の私にはとてもじゃないが扱えるモノでは無かった。
「鬼沙じゃない…なら、誰だ?」
この妖術を施したのは、鬼沙では無いだろう。
扉から感じる妖力は、鬼沙のそれではない…全く別の妖のもの。
見知らぬ存在…これ程の能力を持った妖を知らないのだという恐怖に、背筋がピリピリと凍り付いた。
「……」
ゾクゾクする感覚…私はそこで一度首を振ると、当初の目的を果たす為に、扉の外の景色を写真に撮って、画像編集モードにしてメモを書き込む。
なにはともあれ、これで1つ目…
私はふーっと一つ溜息をつくと、異境のビル内に戻って2つ目の扉の元へと歩きはじめた。
「鬼沙を消せば終わり…とは、いかないかな。尻尾を表してくれれば良いのだけども」
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