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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
281/300

281.考えてみれば、妖が死ぬところを初めて見る気がする。

考えてみれば、妖が死ぬところを初めて見る気がする。

道の中央を派手に抉ったクレーターのド真ん中。

そこに倒れていた先代の入舸沙月は私の言葉を聞き終えると、静かに息を引き取った。


「これを知っていたならば"嘘だ"と気付けた訳だ。そして"次"への疑念にもなると」


亡骸になったその姿…普通の人間の様に"眠った様に"なるのではなく、何から何までが抜けてしまっていて、まるで"抜け殻"の様になっている。

急激に萎れて干乾びて、急激な速度で"皮だけ"になっていく。

その気持ち悪さに顔を歪めつつも、フッと鼻で笑って見せた。


「考えてみれば、妖が死ぬだなんて事は"滅多にない"からなぁ…直近だと、あぁ、焼きそば焼いてたあの鬼か。でも…真面な死に方はしてなかったものね…」


1人になってしまった所でボソボソと独り言を呟く。

妖の死というものは、滅多に目にする者では無いし…その処理が回ってくることもない。


「骨だけ"再利用"されたから…言い方は悪いけども、"真面に死んでくれれば"、早めに鬼沙の死に疑問符が付いたのかもしれないな…」


皮だけになり、最早人とも言えなくなった姿を晒す亡骸の前で独り言を呟き続ける私。

やがて、亡骸はスーッと"白い粉"となって風に紛れて飛んで消え…

その場には、彼女が着ていた着物だけが残されていた。


「…さて、以津真さん達はどうなったのかな?」


亡骸が"塵と消えた"所でクレーターから道路の上に戻って、人質探しに出た以津真達を探し始める。

先代のいう事を信じるのであれば、人質は…正臣達は、この通路の左右に立つビルのどれかに幽閉されているという事だったが…


「"当たり"のビルを引いた所で、中身は複雑そうさね」


道路の上…以津真達が向かった先に足を進めながらポツリと呟く。

ハズレの建物の中身は"ハリボテ"も良い所な作りだが…

アタリの建物であれば、もしかしたら"複雑怪奇"な昔のビルらしい内装をしていてもおかしくはない…そう思った。


なにせ、この空間の作成を主導したのは鬼沙なのだから。

彼の"趣味趣向"を考えるならば、彼は余計な所に手間をかけたがるものだった…

そういう所があるのだから、ビルの中の作りに"手が込められていても"おかしい話では無いと思う。


「余り遠くに行っていない事を祈ろうか」


ダメージが無い訳ではない私の体。

受けた傷は既に癒えていて、痛みだけしか残っていない。

再び妖術をかけて手足だけを人のそれに戻すと、人足の感触に懐かしさを感じつつ、頭についた翼を広げて異境の空に飛び立った。


「上から探そうね」


不思議な高揚感…ビルの高さ付近まで一気に飛び上った私は、フヨフヨと適当に空を飛んで以津真達の姿を探し求める。

クレーター近くのビルは全て"ハズレ"だったようで、飛びながら窓から中を覗いてみれば、何も無い"ハリボテ"のビルの様子が見て取れた。


「……」


クレーターから500m位進んだだろうか。

気付けば、私達が出てきた"裏路地"がある辺りまでやって来た。

私は相変わらず空を漂いながら、ビルの中を覗き見る…という事をしていたが、どうやらこの辺り"裏路地周辺"のビルは、ちゃんと中まで作り込まれている様で、"探し甲斐"が有りそうだ。


「なるほど…灯台下暗しって?」


裏路地の脇に建った灰色のビルの中を見て"中身がある"事を確認した私は、ポツリと呟く。

裏路地の扉以外にも、もしかしたらビルの中の扉が全国の何処かへと繋がっている…なんてこともあるかもしれない。


「しっかしまぁ…"良い趣味"してるねぇ。変な所に拘る所はあったけどもさ、ここまでしっかり作り込むかね?普通」


中身のあるビルを見て、その"密度の高さ"に呆れる私。

ビルの中の意匠は"様々"だったが、単なるオフィスになっているというだけではなく、カラオケやゲームセンター等の"遊戯施設"を模したフロアや、何かの工作を行えそうな"工場の一角"を模した様なフロアもあった。


驚くのは、その全てが"モノを置いて終わり"というわけでは無く、小道具?の類までちゃんと置かれている事だ。

その場その場に合う文具だったり食器だったり…その場所が"現実にあった"かの如く、いや、"さっきまで人が過ごしていた"かの如く、現実感のある場所として作り込まれている。


「……」


現実感はあるのに、そこは現実ではなく…人も居ない。

そのせいか、見ていて少し気味が悪いというか…そういう嫌な気持ちを覚えた。

ループする通路にせよ、このビルの中にせよ…悪夢の中に出てきそうだ。


「に、しても居ないなぁ…」


ビルの中を覗き回りながら、既に結構な時間が経っている気がする。

未だに以津真達には出会えていないが、兎に角、虱潰しにするしか無いだろう。


「何処行った?」


裏路地近くの赤いビルの方に調査対象を変えて、そのビルの窓を覗き込もうとした。

その瞬間。


「!?」


私が見ようとしていた階層より上のフロアの電気がパッと点く。

突然の出来事に驚きはしたものの、すぐさまそのフロアまで上昇してゆき、窓越しにフロアの様子を探った。


「あ!居たぁ!!」


結果はビンゴ。

何も家具類が無い"だだっ広いフロア"に人質となっていた学校の面々が居て…

そこに、丁度彼らを発見したであろう以津真達が声をかけている所だった。


「見つけた!終わりました!」


窓の外から声を張って手を振って、以津真や自覚、風吹や入道の誰かの気を引こうとする。

すると、入道が私に気付いてギョッと驚いた様子を見せると、すぐさまコッチ側にやってきてビルの窓を開けてくれた。


「沙月。驚かせるもんじゃないぞ」

「コッチの方が早いと思いまして」


呆れ声の入道に、お道化て返す私。

中に居た人質達は、"私の姿"を見て悲鳴にも似た声を上げたが…


「あぁ、違う違う!お主たちを襲った女じゃない!それとは別人だ!安心せい!」


以津真の声を受けて悲鳴が止み…

"都市伝説研究会"の面々が私の"正体"に気付くと、一様に驚きの声を上げた。


「入舸さん…!?その姿って…!!」「やっぱり、そうだったんだな」


私はそんな彼らに何も言わず、苦笑いを浮かべて肩を竦めるが…

人質の中に正臣の姿が無い事に気付くと、表情を豹変させて千羽君に詰め寄った。


「正臣は?一緒じゃないの?」


首根っこを掴んでの詰問…彼は怯えた表情になったが、正臣の名を聞いて目を泳がせると、やがて言い辛そうな声色でこう答えた。


「つ…連れて行かれたんだ!スーツ姿の、ガタイのいい男に…!!」


お読み頂きありがとうございます!

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