280.既に虫の息だと思うが、トドメは念入りに刺してやる。
既に虫の息だと思うが、トドメは念入りに刺してやる。
"少しだけ"残した心臓のお陰で虫の息程度に"とどめた"のだ。
敢えてそうしてやった…その理由は、言わなくたっていいだろう。
「鬼沙ハ、耐エタ。私モ…耐エタ。オ前ハ…耐エラレルカナ?」
白目を剥いて、空気を求め喘ぐ先代を掴んで上空に飛び上った私は、血まみれの腕の感触に笑みを浮かべながらそう呟くと、ピタリと上空で動きを止めた。
「コノ高サ…ドウダロ…ビル、12階ッテ感ジカナァ…?」
この手の妖の体というものは、自らも知らぬうちに無意識のうちに"妖術"をかけて"強化"されているらしい。
それが、妖が"丈夫"で"死なない"秘訣なのだと…この冬、以津真にそう教わったのだが…
今の先代を見ている限り、その術を上手く"無効化"出来ていそうだ。
彼女は空気を求めて喘ぎ…私の手が突き刺さった腹部を抑えて、私の手を剥がそうと藻掻いている。
「マ、スグニ、ワカルサネ」
上空でピタリと止まった私は、藻掻く彼女を冷たい目で見てそう呟くと…
一気に地面目掛けて急降下を始めた。
「!!!」
バサッ!と翼を広げて…翼から抜けた羽をその場に置き去りにして…
一気に視界は狭くなり、妖の状態をもってしても"速い"と感じる速度で墜ちていく。
「キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」
空気を切り裂く音を隠すかの如く先代が悲鳴を上げるが、彼女に出来る事は何一つ無い。
数瞬の後、目線の先にはさっきまで斬り合いを演じていた地面が迫り…
地面の割れ目がクッキリ見えたと思った刹那。
私は先代を下敷きにしたまま地面に激突した。
「……………………」
流石に、私もノーダメージというわけにはいかないが…
まぁ、直ぐに"回復"する程度でしかない。
「やれやれ。直ぐに治るなら、骨の1つや2つ、簡単に折れないで欲しいんだけどもねぇ」
気の抜けた調子で呟くと、思った以上に派手に抉れたクレーターの真ん中に立ち尽くす。
私の背丈以上に深く抉れた地面…
車一台分の通りの、端から端までを綺麗に抉って出来たクレーターのド真ん中。
やれやれと言いたげな様子で立ち尽くした私の眼下には、全身から血を噴き出して、虫が潰された後みたいな…無残な姿で横たわる"入舸沙月"の姿があった。
「…!…!…!」
苦痛に歪んだ顔、動かそうにも殆ど動く気配は無く…口から言葉が紡がれる事も無く。
体から留めなく漏れ出る血には、どこかの臓物が潰れてジュースみたいになった気味の悪い液体も混じり出していて、それはもう、目を覆いたくなる様を晒していた。
「良い様さ。異境の地から"戻ってこれた"のが運の尽きだった」
私はそんな彼女の傍にしゃがみ込むと、着物が彼女の体液で濡れるのも気にせず、死にかけの顔にそっと顔を近づけていく。
「言っただろう?人生2度目の命日だって。後5分と持たないだろうな?だから、冥途の土産に教えてやる。妖になった者が死を迎えるとどうなるのかを」
敢えて殺さなかった理由。
それは、防人元から告げられた…"妖が死ぬとどうなるか"という話を、最期に伝えたかったからだ。
「きっとまた何処かで"会う"だろうからねぇ…次は"争い"たく無いのさ」
死を迎えても、何度迎えても、人と違って"次がある"。
異境の何処かで"姿かたちを変えて"再誕する…
妖になる…"なれる素質がある"という事は、異境で永遠に暮らす権利を得られたという事。
つまり、何かの切欠で"妖になれてしまう"防人の家系は皆、死ねばこうなるのだという事。
それを伝えて、"また今度"と言いたかったのだ。
好きか嫌いかは置いておくとして、どうせ何処かで"顔を合わせる"のだから…
「防人元が突き止めたのさ。妖は"死んでも死なない"とね。寿命も馬鹿みたいに永けりゃ死んでも死に切れない。異境の地で"再誕"する。姿かたちは変わるみたいだが…そんなもの、術で誤魔化せば変わらないも同然だろう?」
死にかけの先代沙月にそう語りかけると、彼女の顔がピクッと動いた。
どうやら、聴覚はしっかりしているらしい。
反応を返そうにも返せる状態では無いが、兎に角、最期に言葉が通じるだけ良しとしよう。
「アンタも鬼沙も…その事実は突き止められなかったみたいだね。仕方がないさ。防人元は…おっと、これは秘密にしておくんだった。いや、言おうとしても口ごもるか」
防人元を鬼沙と"同期"だと思っている…彼らに共通する根本的な"誤解"。
それを解こうにも、私の口から解くことは出来ない。
出来るのは匂わせるだけ…防人元は、思っている以上に"昔の人間"なのだと思わせるだけ…
「兎に角、防人元は鬼沙と同期の鬼なんかじゃない。もっと古の存在さ。鬼沙も知らないだろうがね」
死にかけの彼女に、"間違え"を持ち越させぬ様に語りかける私。
彼女の表情は私の言葉にピクピク動いており…まだ彼女が"死んでいない"事を伝えてくる。
「だからさ、元々、アンタ方の理想なんてのは"余計なお世話"なのさ。妖なんて、どうせ死んだら異境行きなんだ。それまでは、"コッチ側"で生きれるだけ生きたって構いはしないだろう?妖ってのはね、アンタ方が思ってる以上に"しっかりしてる"。必要なのは、人との境界線を必要以上に"犯さない"事だけなのさ」
もう、限界という頃合いだろう。
それでも、言う事は全て言えた。
私は死にゆく彼女の顔をジッと見下ろしながら…最期の最期に"優しい"笑みを浮かべると、彼女の頬に手を当てて、ボソッと一言、最期に投げかけようと決めていた言葉を投げかけてやる。
「先に行って待っててね。あと10年ちょっともすれば、おばあちゃんが…沙月の"娘"がそっちに行くだろうからさ。それじゃあ、また今度!」
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