278.1度だけでいい、肌を斬り裂けばそれで終わる。
1度だけでいい、肌を斬り裂けばそれで終わる。
以津真達を探索に行かせて先代沙月の処理を引き受けた私は、ヒリつく感覚に高揚感を感じていた。
「楽しませろと言われても、前までは得物も無かったから仕方がないでしょうに」
私は彼女に向かって強気な声色でそういうと、スーッと頭に生えた異物を消していく。
対峙している"先代沙月"のやり口は、もう2度の遭遇で頭の中に入っていた。
妖術で翼や狐耳、鬼の角を隠して"人の姿"に戻った私は、唯一妖らしさが残っている緑色の目を光らせ、彼女をジロリと見据える。
「今日が人生2度目の命日だ。その覚悟は出来てる?」
「さぁ…どうだかね!!」
短いやり取りの後、トン!と足を踏み出したのは先代の方。
彼女は一瞬のうちに間合いを詰めてくると、そのまま刀を振るってきた。
前回までと違うのは、私が"妖"になっているという事。
この間までは目で追えなかった太刀筋がしっかりと見え、私は難なく彼女の攻撃を躱す。
キン!と鉄が弾ける音が響いた刹那。
そこから壮絶な打ち合いが始まった。
「……!……!!」「ッ!!…!!」
薙ぎ払われ、それを返す…
突いて返せば身を引っ込められて切先が届かず。
その切先を弾き返されれば、トン!と足を踏み抜いて後方へ跳んで追撃を躱す。
1本道のど真ん中から始まった斬り合いは、前にも進まず…
だからといって後退せず、一進一退の様相を呈してくる。
「くっ…!?」「…ラァ!!」
足元のヒビに足を掬われて体勢を崩した刹那。
彼女の太刀筋は、体勢を崩した足元目掛けて薙ぎ払われたが…
間一髪、出鱈目な姿勢のまま強引に後ろに身を反らす。
ヒョイと足を上げてなんとか刀を躱し、そのまま後ろに1回転。
片手だけでそれをこなした私は、即座に迫ってくる追撃を腕一本で凌ぐと、再び詰まった間合いを嫌って足蹴りを繰り出した。
「ぐっ…!!」
鳩尾を貫いた足蹴りは彼女の体を3m程吹き飛ばし…
私はそこで体勢を立て直して、再び刀を構えて彼女の出方を待つ。
「剣道の試合とは違うのさ。死ねば終わり…"入舸沙月"として終わるんだから、何でもアリだよね?」
「随分と含んだ言い方をするもんだね。人間風情、死ねばそこで終わりじゃないか」
「それがそうでもないって訳さ。死ぬ間際に教えてあげる」
「偉そうに…」
そう言ってる間に再び間合いが縮まって、彼女はジッと私の目を見つめてきた。
今の私は爬虫類の様な目をしている事だろう。
瞳孔が縦に長い、人の身についていれば不気味にしか見えない瞳。
無意識の内にキョロキョロ動いているそうだが、見ているコッチからすれば、人の時と見え方に変化は無い。
「気味の悪い姿だこと」
「アンタ方の御先祖様が節操無かっただけでしょうに」
もう少しで刀の間合い…ボソッとした呟きに煽りで返すと、彼女の顔色が僅かに赤くなる。
それを見ても尚、私は表情を変えずに彼女の出方を待っていたが…
暫く私達の間で刀が交わることは無かった。
「……」「……」
静寂、ピリピリとした空気のみが張り詰める。
どちらかが動けば、また打ち合いが始まる。
そうわかっているからこそ、初動で主導権を握りたい。
きっと、ここまで思っていることは、向こうと全く同じなのだろう。
打ち合って、刀を交わらせると良く分かる…彼女はちゃんと"入舸の人間"なのだと。
「!!」
この空気を打ち破ったのは、私の方だった。
トンと足を踏み出し、斬撃を繰り出す…手前で腕を引っ込めて、相手の出方を見る。
彼女は私の動きに"思った通り"の反応を見せたが、私が腕を引っ込めた刹那、ヒュッと身を後退させて元の姿勢に戻ってしまった。
そう簡単に騙されてはくれないらしい。
だが、均衡を破るには、丁度よかった。
再び開いた間合い…私はその間合いを1歩で詰めると、これまで上から打ち付けていた刀を横から下から薙ぎ払う様にして彼女に襲い掛かっていく。
静寂に包まれていた通りに、再び刀の打ち合う金属音が響き渡った。
低い姿勢から責める私に対して、彼女は防戦一方という状態…
刀が交わる度に火花が散って、その度私達の姿勢は大きく変わっていく。
ヒュン!と風を斬る音と共に責め続ける私。
先代は私の動きを冷静に見据えて対処している様だったが、段々とその腕には疲労の色が見え始めていた。
きっと、もう少し攻めを強くすれば綻びが出て来るだろう…
だけど、敢えて"攻め込み"はしない。
性格の悪い私は、この打ち合いを楽しむが如く…
兎に角、適当に刀を振るって相手の反応を観察していた。
チマチマ攻めて弱らせる気は無く、ここぞという時の一撃で勝負を決めたいのだ。
激しい打ち合いの最中。
ふと、彼女が大きく後ろに跳んだ。
私が振るった斬撃は空を斬って間合いが開き、そこで私達は再度"休戦"する。
「御老体には辛かった?」
距離が開いた直後。
まだまだ息も上がっていない私は、少々疲れが見える先代に向かって声をかける。
彼女は肩で息をしつつも、不敵な姿勢は崩すことなく私の言葉を一笑に付すと、手にしていた刀を捨てて、新たな刀を"虚空"から取り出した。
「刃こぼれしただけさ。疲れた訳じゃない」
そう言って、新たに"取り出した"刀を構える先代沙月。
「どこから取り出した…?」
有り得ない光景を目の当たりにした私は、彼女の妖術に意識を奪われてしまう。
思わずという形でポツリと疑問を呟くと、彼女にニヤケ顔が戻ってきた。
「さぁねぇ…異境は"不思議"に塗れてるのさ。現実に縛られてるお嬢ちゃんには、一生分からないだろうがね!」
叫び声と共に間合いが詰められて…
さっきよりも一段と速くなった彼女の斬撃がこちらに伸びてくる。
それを手にした刀で弾いてみれば、刀の先端がへし折られ、ビルの壁に突き刺さった。
「!!」
刀の先端を折られた私は、次々に迫ってくる斬撃を寸での所で躱しつつ…
手にした刀を納刀してもう一本…脇差の方を抜いて応戦する。
キン!と、さっきまでとは違う音色が道に響いた刹那。
私達は鍔迫り合いの格好になってお互いに顔を見合わせた。
「そろそろ終わらせないとね?」
「あぁ、こっちの台詞だよ。そろそろ消えて貰わないとなァ!」
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