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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
261/300

261.相手は人と言って良いのだろうか、妖なのだろうか。

相手は人と言って良いのだろうか、妖なのだろうか。

目の前で日本刀を振り回している女は、人技とは思えない早さで刀を振るい、最初の数撃は私の"表行き"の髪を幾つか切り落としていった。


「チィ…」


狭い室内から外に飛び出して2対1。

私達は手に呪符を握って先代沙月を"爆破"しようと試みるが…

彼女は呪符が効果を発揮する前に呪符を斬り捨ててしまい、何もできない。


「遅い、遅いねぇ…最近の若いのは、怠惰なんじゃないかなぁ?」


攻撃をを浴びせようと、何枚もの呪符に念を纏わせたが、今の所は全て見切られて斬り捨てられている。


「クソ!」


私は彼女に対しての攻撃を諦めて、適当に真っ赤に染め上げた呪符を空に飛ばした。

沙絵諸共になってしまうのだが…気にせず目くらましを仕掛けてやる。

流石の先代沙月も突然の"閃光"に視界を失い怯んだが…

乱雑に振り回す日本刀をかいくぐる自信は無く、私は近場にあった鉄パイプを抜き取ってそれを構えた。


「沙月様!無謀です!」

「無理なのは分かってる!5分だけ年増と遊んでやろうじゃないか!手を出すなよ?」


視界が戻ると、沙絵の傍に位置を戻していた私は彼女の前に出て、鉄パイプを構えて日本刀を振り回す女を見据える。


「失礼な。35の時に消されてるから、この見た目は未来の35になったアンタだぞ?」

「は、そこまで生きられればとか言い出すんだろ?」

「良く分かってるじゃないか。この刀は人の血に飢えてるのさ!」


そう言って私の元に突っ込んでくる"過去の私"。

手にした日本刀は妖しく黒光りしていて、振るった際の"匂いの残響"だけでその刀がどれだけの血を吸って来たかは想像出来てしまう。


(異境からここに戻って来るまでで…どんだけ斬り捨ててきたんだこの女…)


鉄パイプを構えたまま、女の猛攻を交わし続ける私。

時折パイプを突き出して女の動きを崩そうとするのだが、女はそれすらも"計算済み"という様な動きで、私の仕掛けに動じない。


「なぁ、斬り捨てていく気なら冥途の土産話を何かしなくていいのかい?」

「別に。まだ沙絵もいるし…沙千もいる。冥土に送る奴はまだまだいるんだ」

「チェ、釣れない奴め…」


ジリジリと微妙な間合いになってしまった時に言葉を交わしたが…

目の前の"私"は何も教えてくれるつもりは無いらしい。

私は彼女の手にする刀の切先をジッと見て、彼女の姿勢をよく観察して…

どういう動きが来るのかをパッと頭の中に思い浮かべると、それを崩すために今度はこっちから攻撃に出た。


「!!」


ヒュッと風を切る音が聞こえてくるが、兎に角鉄パイプの尖った先端をあの女に突き刺してやろうと、私は鉄パイプを振るう事はせずに槍の要領で刺突を繰り返す。

そこそこ分厚い鉄パイプ…だが、日本刀で斬れないことは無いだろうから、斬られぬように細心の注意を払いながら攻撃を繰り出した。


狙うは胸から上。

首を突き刺せれば最高だが…

そんな簡単な話じゃない。


「く…!!」「っ…!!」


私は呪符を使わずに、単純に自らの技量で目の前の女を倒したかった。

どういう訳で戻ってたかは知らないが…遠い昔、防人に隠された"裏切り者"。

防人元の意思はどうあれ、この世界で人に仇なす者を放置しておくわけにはいかない。


何度か鉄パイプの切先が先代沙月の服を掠め…

何度か鉄パイプと日本刀が絡んで火花を散らした頃。


「ふむ…」


先代沙月は急に刀を振るわなくなると、私から距離を取って切先を横に逸らす。


「防人元と面会した噂は本当らしいな」

「あ?何を急に…」

「いやぁ、独り言さ。時間なんでね…便利な世の中になったものだよ」


そう言いながら、先代沙月は手首に巻いていた腕時計を見せつけてきた。


「5分を振動で知らせてくれるモノなんだと。初めて使ったが、ちゃんと動いた」


さっきまでの殺気溢れる顔はどこへやら。

柔らかい顔つきになった彼女は、壊れた家の方を見て溜息を付いて、私の方に向き直る。


「それじゃあ…消えるとしよう。鬼はせっかちなんでねぇ…遅れると何を言われるか…」


苦笑いを浮かべながら、彼女は日本刀を納刀し、代わりに服の袖から呪符を取り出した。

真っ赤に光ったその呪符は、私達が使っているものと全く同一の呪符だ。


「それじゃあ…っ!!」

「逃がすかよ!!!!」


赤く光った呪符で"目くらまし"をしようとした彼女に対抗して、私はドス黒く光った呪符を空高く放り投げる。


「!!」


先代沙月の目が見開かれた瞬間、その呪符はパッと黒い光を放ち敷地内は一瞬だけ漆黒の闇に包まれた。


「テメェの行き先は"京都"さ!!」


そう叫びながら、目の前に居たはずの先代沙月の首を狩らんと鉄パイプを構える。

今度はタダの鉄パイプじゃない。

先端に、黒く光る念を流し込んだ呪符を貼り付けた"即席武器"だ。


「ふん…」


暗闇の中で、女の輪郭が見せた刹那。

私は思いっきり右腕を伸ばして鉄パイプを首筋に突き立てんとする。


刹那。


ぐにっという肉を切り裂いた嫌な感覚と…

何か紙で指を切った時の様な嫌な痛みが襲ってきた。


黒い闇が消え失せた時、目の前に見えたのは肩を鉄パイプで貫かれ…

先端に込めた呪符の効果で"化けの皮"が剥がれかけた先代沙月の姿と…


「!?」


右腕が、肩の先から斬り落とされて血を噴き出す私。

噴水の様に吹き出る血が、彼女の白いワンピースを鮮血で染め上げ…

私達の決闘で踏み固められた雪の上に転がった腕は力なく転がっている。


「はっ…!!化けの皮が剥がれれば…テメェも大した年増ババァじゃないのさ」

「ぐ…畜生…!!」


斬られた腕の事等気にせず煽ってやると、先代沙月は若々しい女の姿を変えていった。

呪符が当たった箇所からシュゥゥゥ…と煙が立ち込めていて、その煙は奴の"人の部分"を削り取っていく。

瞬く間に若々しい姿は無くなり醜い老婆に変化し…額の上には私が妖化したときの様に鬼の角が生えてきた。


「本性は鬼の老婆か。お似合いだな…?」


煽りを入れた刹那…

老婆の手から真っ赤に輝く呪符が放たれ、辺り一面は真っ赤に染まった。


「勝負は預けたよ。次は無いと思いな!!」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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