260.なごり雪というには、強すぎる。
なごり雪というには、強すぎる。
雪女の手によって、辺り一面は"先の見えない"程の猛吹雪…
私達は彼女の手から飛んできたつららの銃撃を交わし、車の裏に逃げ込んだ。
「埋まったらJAFを呼ばないとですね」
「こんな背の低い車に乗ってるからさ。北海道で」
「趣味なんです!そこは譲れません!」
軽口を叩き合いながら、コートのポケットから呪符を取り出し念を込める私達。
そう言ってる間にも吹雪の勢いは増していき、既に足首まで埋まるほどの雪が周囲に積もっていた。
「そぅら、さっきまでの勢いはどうした!?わらわを捕まえるのでは無かったか!?」
家の方からは、吹雪の風の音に紛れて雪女の嘲る声が聞こえてきて…
彼女が放つ、つららの銃撃が車に当たって砕けていく。
パリン!と音を立てて車のガラスが砕かれた時、真横で身を屈める沙絵の表情が一瞬で怒りに歪んだ。
「手足は捥いで良いですよね?」
「任せた。とりあえず…反撃と行こうじゃないのさ!後ろは任せた!」
車を傷つけられて怒りに震える沙絵より前に、私が身を上げて動きだす。
呪符をパッと吹雪の中に飛ばすと、吹雪の中を舞い散った呪符がパッと光を放ち…
一瞬だけ周囲が真っ暗闇に染め上げられた。
(確保だものなぁ…)
車のボンネットを滑って再び敷地内に飛び込んだ私は、手近な納屋の裏に身を隠す。
雪女も視界が利かず、私の行動は認知できなかったようだ。
「勢いが減ってんだよ!その程度でイキがって良い事はないなぁ!」
そのまま彼女の懐に入ろうと、私は2枚目の呪符に光を宿して物陰から顔を覗かせた。
「はっ!急ぐのはわらわでは無いわ!」
売り言葉に買い言葉…顔を覗かせた瞬間、私の隠れた物置につららの銃弾が突き刺さり氷が砕け散っていく。
どうやら、向こうは玄関に立ったまま動くつもりがないらしい。
私は眼前を通り抜けて行ったつららを見て背筋を文字通り"凍らせる"と、口元に嫌な笑みを浮かべて、コートに手を入れ、使うつもりの無かったお面を取り出して顔にくっ付けた。
「除雪費だなんだって、テメェの口座から引き落としてやるよ」
そう言いながら、妖の力を得た私は、雪が積もった物置の上へと飛び上り、手にした呪符を投げつけて再び漆黒の中に空間を閉じ込めると、即座に呪符を3枚取り出して念を流し、雪女がいるであろう玄関口に投げつけた。
赤い光を宿した軽い"ジャブ"代わりの呪符。
派手な爆発音がなった刹那、私の背後にいた沙絵も動き出して私の元までやってくる。
「畳み掛けろ!」「了解!」
沙絵の叫び声を受け、私は吹雪の中に飛び込んでいく。
目指すは家の玄関口…手にした呪符に真っ黒の光を纏わせて、玄関を破壊する前提で呪符を投げつける。
「吹き飛べ!!」「!!!」
吹雪の中を切り裂いていった呪符は、思った通りの軌道を描いて玄関に吸い込まれていき、派手な爆発を起こした。
私はその爆風の中に飛び込んでいき、雪女の身柄を捕らえようと室内を見回す。
(居ない…?)
だが、さっきまでは玄関口に居座っていた雪女の姿は何処にも見えず…
吹き飛ばされた先であろう、玄関から直に繋がってる居間を見ても、爆発で物が散乱している様しか見えなかった。
「どこに消えた?…沙絵!どっかに消えたぞ!外かもしれない!」
兎に角、有り得ないと思っても沙絵に一言。
そして私は古く、今にも崩れそうなボロ家の中に土足で上がって探し回るが…
遂に雪女の影すら見つける事が出来なかった。
「何処に消えやがった!煽るだけ煽って逃げるだけかよ!」
狭い家…直ぐに全ての部屋を見回した私は居間のテーブルを蹴飛ばして怒鳴り散らす。
外の吹雪が収まらない所を見ると…間違いなく近くにいると思うのだが…いない。
私は沸騰しかけた頭を冷やして、居間のド真ん中で可能性を考え始める。
(ここが異境に繋がってるとか、言わないよな…?)
真っ先に思いついたのは、この"ボロ家"をわざわざ根城にしてるせいで有り得そうな案。
そうなれば、玄関先から逃げずにいた理由も説明が付くが…流石に私達の監視網に引っ掛からない筈がない。
「!!」
幾つかの可能性を考えていた私は、外ではなく中で聞こえた物音に敏感に反応して、物音の方へと急ぐ。
そこは、お風呂場の方…と言うのだろうか?
お風呂として使われてないせいでそうは見えないが、そこからの物音に反応して居間を飛び越え、廊下の扉を開けてみれば、私の首先に鋭い刃の切先が飛んできた。
「うわっ…!!」
私の顔を切り裂かん勢いで飛んできた切先を交わして居間の方へと後退する。
「……アンタはっ」
はらりと真っ二つに切られたお面…クリアになった視界の先には、雪女と、もう一人の女の姿があった。
「全く…遅かったのぅ…ゴミの中に飛び込む羽目になったんだぞ?」
「まだ使えそうな良い道具ばかりじゃないか。まぁいい、逃げな。外に迎えが来ている」
雪女の声に軽口を返すのは、私と全く同じ声。
「沙月様!外には居ませ…ん?」
沙絵も入ってきて、家の中には4人が揃ったが…
沙絵が入って来た刹那、派手な爆発音がもう一度この家を揺らして、雪女の背後に巨大な風穴が開いてしまった。
「お前達の相手は私がすることにしよう。彼女にはもう少し用が有るのでね?」
「アンタは…」「さ、沙月様…」
外の吹雪は既に止んでいて、雪女は私達の相手を目の前に現れた私のそっくりさん…
先代の入舸沙月に託すと、一目散に外へ逃げていく。
「少しだけ、アンタ方の相手を務めようか」
私達が先代沙月と微妙な間合いの中で対峙していると、曇り模様ながらも、穏やかさが戻った外の方から、けたたましいエンジン音が耳に届く。
間違いない…鬼沙だ…鬼沙が雪女を車に匿い何処かへ連れ去ったんだ。
メノウやニッカに頼もうにも、さっきまでの雪や雲が邪魔でそれどころではないだろう…
「沙絵か。随分と強くなったんだねぇ…そしてそっちのは、私のひ孫かな?」
「えぇ、なので名前は沙月です」
「どうしてこんなことを…?アンタも防人じゃなかったの?」
表行きの格好をした私達と違い、"素"の白菫色の髪と藍色の瞳を堂々と晒した先代沙月。
彼女は季節外れで古さを感じる白いワンピースを着て…古めかしい日本刀を手にして、堂々と私達の前に立ちはだかった。
「防人だったさ。もう大分前の話だがね。今は…そんな防人に裏切られた…哀れな人妖だ」
彼女は私達の前で、そう吐き捨てると、手にした日本刀をヒュッと振って私達の方に切先を向ける。
「地獄から這い上がって来た。さぁ…来な…5分だけ相手してやる!!」
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