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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
259/300

259.思いがけぬ所から事件が動く…よくある話だ。

思いがけぬ所から事件が動く…よくある話だ。

振り返ってみても、最初は何てことの無い他愛の無い問題だった事がどれ程あっただろう。

そういう小さな綻びが徐々に大きな問題に発展していく様を見て来たのだから、今回みたいなことだってそうなるだろうと思っていたのだけど…思い通りに行くと、何故か不安になってしまう。


「偶々にしては出来過ぎてる気がしますが…他所のスキー場はバックカントリースキーの対策を結構ガチガチに固めてたようですね」

「なるほど?それで、緩そうなローンズに来て探ってたって訳だ」

「そう見るのが普通かと。昨日の客は皆、マナーの良い客だけだった様ですね」

「コースから外れるのが常識みたいに言われても困るけどもね。勝手に死ねっていうと不謹慎だけどさ」

「まぁ、私も沙月様と同意見ですよ」


沙絵の運転する車の助手席で、向かっているのは余市の方…

昨日、スキー場で見つけた"妖"の監視をしていたメノウが、棲み処まで突き止めてくれたので、早速そこへ向かっているわけだ。


「で、家の持ち主とか…洗ったりしたの?」

「はい。借家の様でして、家主は老夫婦でした。札幌の老人向けマンションにいる様です」

「なるほど、そこまでで時間切れだったわけだ」

「そうですね。私達と並行して、そっちは警察の人が出向いてくれてます」

「優秀だこと」

「えぇ、後はスピード違反の記録さえ消してくれれば完璧なのですがね…」

「それはそれ、これはこれさ」


沙絵の冗談に軽い調子で返すと、沙絵は僅かに口元を綻ばせた。

レモン街道を通って余市まで抜けて、目指すは余市駅の周辺にある古びた一軒家。

昨日の夜に、メノウから送られてきた写真を元に調べてみれば、元は何だったのだろうか?川近くの、空き地の中にポツリとある一軒家で、敷地は背の高い木に囲まれていた。


「鬼沙の件は?」

「あぁ、先代の沙月様と一緒にいるって話ですよね。そちらは特に何も」

「そう。そっちは…母様任せじゃなくて沙絵も関わって欲しいんだよね」

「え?嫌ですけど」

「沙絵?」

「あぁ、すいません…つい…分かってます。でも、車は覚えてますし、メノウやニッカにも指示は出しているのでしょう?」

「まぁね。でも、目立つ車の癖に見つからないのさ。何処に隠れたんだか…」


その家に着く直前、鬼沙の事を話すと、僅かに車内の緊張度合いが増していく。

今回はその問題とは無関係…なはずなのに、何故か私達の背中はゾッと寒くなってきた。


「そろそろだと思うのですが…微妙に入り組んでて、案内お願いできますか」

「はいはい…とりあえず、このまま真っ直ぐね」


レモン街道を越えて、余市の市街へ入っていく。

ずっと真っ直ぐ…踏切を越えた交差点を更に真っ直ぐ行って…

住宅街を進み、小さな小川を越えた先、雑草が生い茂っている空き地の中に背の高い木が見えてきた。


「あぁ、あれだ」

「みたいですね…」


傍から見れば異質な光景…川の近くで、荒れた空き地の近く…川が増水すれば直ぐに流されてしまいそうな所に、ポツリと背の高い木に囲まれている四角い敷地があった。

沙絵は途中から砂利道になった狭い道をゆっくりと走らせ、家の敷地の前に車を止める。


「あれは…学校か。でも、意外と遠いのかな」

「真っ直ぐ行けば近いんでしょうけどね。行くならぐるっと遠回りですよ」


車を降りて、まだぬかるみ気味の砂利道の上で辺りを見回しながら感想を言い合う私達。

背の高い木に囲まれた敷地の真ん中に、ポツリと大昔に建てられたであろう古びた平屋が1軒建っていて…あとは物置だろうか?そこそこしっかりした作りの車庫や物置が家の周囲に、無造作に建てられていて、そこから漂っているであろう変な匂いが鼻に付く。


「失礼ですが、行政と揉めそうなお家ですね」

「そもそも住むなって言われそうな場所だよね」

「その手の御触れが出る前から住んでたんでしょうね」


小声で少し失礼な感想を言い合うと、私達は車を置いて敷地の中へ。

人気を感じない中…出てくるとしたら、それこそ悪霊がワッと出て来そうだと思うのだが…

そんなことはなく、すんなりと家のチャイムの前までやってきてしまった。


「声をかければ通りそうなものですが」

「まぁ、押してみれば良いさ」


これまた古い…入舸の方の家に付いてる様なチャイムのスイッチを押す。

すると、古めかしくも、お洒落な電子音が鳴り響いた。


「……」「……どうでしょうね」


チャイム音の後、シンと静まり返った中で反応を待つ私達。

家の場所を探ってくれ、今も上から監視しているメノウ曰く、まだ外には出ていないとのことなので中にいると思うのだが…

中からは物音もせず、シンと静まり返ったままだった。


「もう一回押してダメなら出直そうか」


そう言ってもう一度チャイムを押すと、その刹那。


「!?」


俄に周囲の気温が下がって行って、周囲が徐々に暗くなっていく。


「沙月様!家から離れてください!」「あぁ!」


パッと玄関扉の前から、敷地内の広い場所に離れて様子を見回す私達。

空を見上げれば、さっきまでの晴天が嘘のように曇り始めて、遂には雪まで降り出した。


「だぁれぇ…?そろそろ夏眠の時期だっていうのにぃ…」


そして、カラカラと扉が開き…中からは、昨日見かけた妖が姿を見せる。

彼女は私達を認めると、眠たげだった目をカッと開いて身構えた。


「お、お前達は!!」

「防人です。何故尋ねたか…分かりますよね?」


臨戦態勢に入った雪女を、沙絵と私は手にした呪符の光を見せて牽制し、対話を試みる。


「攫った外人を雪山の下に埋めたのは貴女ですね?」

「な、何よ!い、言いがかりだわ!証拠があるっていうの!?」


沙絵の言葉に、ヒステリーな返しをする雪女。

昨日は不思議な髪色にしか目がいかなかったが、30半ばの中年女といった見た目だ。

元々は美人だったんだろうなっていう名残がまだあって、化粧やら何やらで努力して誤魔化している系の見た目…

私達を見てガクガクと足を震わせている辺りに恐怖心はあるらしいが、それでも彼女からは"不思議な自信"を感じられた。


「証拠は無いです。いうならば、手口ですかね。今年は何度か"災害級"の吹雪の日がありましたっけ。その時じゃないですか?スキー場でバックカントリースキーをしてる外人を攫って雪山の下に埋めたのは。雪女は夏眠をしなければならない種族…起きた後は"食糧"に困りますものねぇ…」


沙絵はそう言いながら、手にした黒光りする呪符を適当な納屋の入り口に投げて爆破する。


「!!!」


扉を吹き飛ばす程度の爆発…パラパラと破片と煙が晴れれば、その中には何人かの人の死体が転がっていた。


「やはり…警察には上がってない被害者もいる様ですねぇ。どうですか?あれは"非常食"ではなく、縄張りを示す行為だったんでしょう?雪女って、そういうものらしいですよ?」


沙絵は何もしゃべらない雪女にそう言いながら近づいていく。

そう言ってる最中にも、降り始めた雪の威力は強まっていき…遂に雪女はパッと手を上げて高笑いを始めた。


「ハハハハハハハハハ!!!未開の地の妖如きがよく調べ上げたものだな!!!」


そう言って、雪女は開いた手を握って私達の方に腕を突き出し、手を開く…


「だが、わらわの力を知らない間抜けだな!!!貴様等も非常食にしてくれるわ!!!」





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