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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
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258.休みの日というものを、久しぶりに感じている。

休みの日というものを、久しぶりに感じている。

市内にあるスキー場、"スノークルーズ・ローンズ"の山の山頂から、遠くに見える海の景色を眺めながら、私はフーっと白い息を吐き出した。

今日は女子会…穂花と楓花と、ジュン君と共に日帰りのスキー旅行…みたいなもの。

4月も直前で、所詮は春スキーというやつだが、山には思ったよりも雪が残っていて、覚悟していたよりかは大分滑り易い状態だ。


「溶けるの早いかな?って思ったけど、何だか普通ね」

「そうなのです。ちょっとベタ雪ってくらいなのです」


並び順の関係で、先にリフトから降りて景色を眺めていた私の元に、ジュン君と穂花、楓花がやって来た。

リフトから私の元まで滑ってきて、案外普通に滑れる事に驚く3人…

さっき、私が1人で「ふーん…」と呟いていた時と似た様な感想を言い出すものだから、私は思わずクスッと笑ってしまう。


「どうしたのよ」「いいや、別に?」

「沙月の事だから、アタシ達と同じことを思って1人ブツブツ言ってたハズなのですよ」

「ぐ…どうして分かるのさ」

「顔に書いてるのですよ」「……」


ジュン君は、どうも私の表情を読む力がありすぎる…

というか、最早心を読めるのでは無いだろうか。

私は苦笑いを浮かべてジュン君をジトっとした目で見ると、彼女は「ふふん」と胸を張って、そして眼下に広がるゲレンデの方にストックを指した。


「さてと…どのコースで降りますか?」

「そうね…皆、一応スキー授業のクラスは一番上だったものね」

「なら、中級コースで良いんじゃない?上級コースはホラ、コブとかあるし」

「流石にコブ斜面は無理だしなぁ…楓花に賛成~」

「なら、中級にしましょっか」「はいなのです!」


リフトの降り口からやや離れたところで滑るコースを決めると、私達は中級コースの入り口(と言って良いのだろうか?)までやってくる。


「降り切っちゃう?それとも途中で止まる?」

「一発目だし途中で止まりたいわね。あの木って言って分かる?あの、何か巻かれてるの」

「あぁ~…コース外ギリギリの、そこで一旦止まるか」

「そうしましょ。丁度半々って感じに出来るしね」

「OKなのです!なら、早速行くのですよ!」


滑る気満点だったジュン君が斜面に突っ込んでいき…

それに私が続いて、穂花、楓花と続いてきた。

そこそこの急斜面、そしてベタ雪らしい雪の重さを感じながら、スーッと大きな円を描きながら斜面を下っていく。


(ジュン君、上手いなぁ…)


前をいくジュン君に離されぬよう…かといって近づきすぎない様についていくが、彼女は水を得た魚の如く、如何にも熟練者と言った動きで右に左に滑らかにターンしていた。

必死で追ったけれど…あの手の上手い人は速度が増してもゆっくりに見えるものだ。

余裕がありそうな動きで滑っていくジュン君の後ろをついて行っても、私は既に一杯一杯…

結局、待ち合わせの木まで滑っている間に、大分ジュン君から離されてしまった。


「やっぱジュン君には付いていけないなぁ…」


ザザっと彼女の下で止まってそういうと、彼女は「ふふん!」と満足げに胸を張る。

別に速さを競うわけでは無いのだけど…なんか悔しいのは何故だろうか。


「2人共速いって~!」「流石ね…ふー…中々ハードな1日になりそう…」


それから少し遅れて、穂花と楓花がやってくる。

2人共1発目ながらも少し疲れた表情で息を整えると、ニヤニヤしている私とジュン君を見てジト目を向けてきた。


「次からはペースを落とすのですよ。空いてたので…つい…」

「そうしてくれると助かるわ…見失っちゃいそうだもの」


大きな木の脇に並んで休憩している間にも、上から次々に人が滑り降りてきて…

遠くに見えるリフトには、気付けば結構な人が乗っていた。

私達が上がる頃はまだ全然空いていたのだが、丁度、人が来始める時間帯だったらしい。


「さぁ!そろそろ行きましょう!もう半分!リフト乗り場で待ち合わせです!」


穂花と楓花が落ち着いた頃、待ちに待っていた感じのジュン君がそう言って滑り始めた。


「元気だねぇ…それじゃ、行こうか」


呆れ顔で見送りつつも、ウズウズしていた私も後に続き…穂花と楓花も後から付いてくる。

さっきほどのハイペースではなく、寧ろスローペースで、ジュン君は周囲を見回して上手く進路を取り、安全で楽しい道を私達に示してくれた。

私達は付かず離れずの適度な距離感でジュン君に付いて行き、混雑してきたゲレンデの中をストレス無く降りていく。


「これ位のペースが良いわね」

「了解なのです!」

「もう一回、今のコースで良いんじゃない?混んできたけど…まだマシでしょ」

「そうね」


下まで降りてくると、私達はリフト乗り場の方まで惰性で滑って止まり、スキーを外して肩に担ぐ。

ここからもう一度上がるまで…暇な時間だと思うだろうが、スキーのこういう無駄な時間も楽しいもの。

私達は他愛ない雑談をしながらリフト待ちの列に並ぶ…どうやら今度は、ちゃんと4人乗りリフトに4人で乗れそうだ。


「沙月もさ、たまには良いんじゃない?こういうの」

「そうだね。去年みたくずっと休みだったとしても楽しいけどさ」

「働きづめからのこれってのも結構良いかもって?」

「そうそう。疲れるなぁって思ってたんだけど、結構気分転換になってるのさ」

「でも沙月、頑張りすぎはダメなのですよ?適度に休まねばバタンキューってなるのです」

「アハハ…そうだね。違いないや」


リフト待ちの列はそこそこの渋滞で、乗るまでには暫くかかりそう。

雑談しつつ、周囲を見回してみれば、結構な数の外国人が私の周囲にいる様だ。

どこから来てるかは知らないが…皆、それなりに裕福層な外人ばかり。

外人とくると、どうもこの間の1件を思い出したり怪死事件の事を頭に過らせてしまうが…

今日はそんなことを気にするのはナシにしたい。


「このペースなら、お昼までに4回位滑れるかしらね」

「そうですね。丁度良いペースだと思うのです」

「お昼はどうする?ここの食堂混むけど、時間ずらす?」

「そうね…ちょっと早くするってのも手かしら。遅くしても被りそう」

「なら、あと3回わりしたらお昼にするってのは?それなら、11時前くらいだと思う」

「賛成なのです!」


リフトの待ち時間でお昼の相談を進める私達。

そうしている間にも人の数は増え続け…私はふと、変な"匂い"を感じて僅かに目を細めた。


「ん?沙月、どうかした?」

「いや、ちょっと雪の反射が眩しくなってきて…」


穂花に違和感を感じられるが、それを誤魔化しゴーグルをかけて、"匂いの主"を目で探す。

結構"強く、近く"に感じた妖の匂い。

私は3人の話に相槌を打ちながら探すと、匂いの主は直ぐ近くにいる様だ。


(あの女かな?…)


リフト乗り場近く…スキーを掛けておく場所で1人、スキーを入れ物から出している女。

顔を見る限り日本人…の様だが、髪色は独特で、何色かで染めているのだろうか?生え際から、黒→紫→白→黄色と変なグラデーションになっていた。


(1人…にしちゃ、変だよね。若そうに見えるし)


彼女はスキーを取り出して立てかけると、誰とも交わらずにロッジの方へと歩いていく。

私はそんな姿を見送ると、3人の会話に意識を戻した。


「クラス替えもさ、皆理系クラスでしょ?それなら、別れる心配は無いよね」


クラス替えの話題になっていた3人に、そう言って自然と混ざった私はシレっとスマホを取り出して時間を確認するフリをしながらメノウにメッセージを打ち込む。

明日の仕事は、このメッセージでメノウが"分かってくれるか"にかかっていた。


(髪色がグラデーションになってて孤立してる女を見張って。妖かもしれない)


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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