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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
257/300

257.雪女という存在も、居ると言われればそうだよなと思ってしまう。

雪女という存在も、居ると言われればそうだよなと思ってしまう。

この場合は個人ではなく種族を指す…と言えばいいのだろうか。

今回の"外国人連続怪死事件"の主犯として捜査線上に上がって来たのは、"雪女"だった。


「雪女?はぁ…なるほど?ソイツが今回の犯人って訳か」

「うん。沙絵みたいに人に化けてるのを見つけなきゃならないってわけさ」

「沙絵さんですら人そのものだってのに…そんなのをどう探せって言うんだ?」

「"匂い"で分かるのさ。犬みたいだけど…こればかりは説明しようが無いなぁ」


6人の"前科持ち"達を全て隠した次の日も、私は正臣と一緒に街へ出かけていた。

今日も正臣は"悪霊祓い"の仕事を兼ねていて、私は急展開を見せた事件のお手伝い。

昨日までで、ウチの妖と警察側の"妖事情を知ってる"刑事の活躍によって、怪死事件を引き起こした種族が"雪女"だという事が掴めたので、その"雪女探し"に出ているのだ。


「正臣は昨日と同じくで良いけど、経路とかは昨日と同じく私に合わせてくれると…」

「OK…全然大丈夫。何か、悪霊の中で俺の噂が立ってるらしいから」

「噂…?」

「こう、浄化してあの世に連れてってくれるっていう」

「駆け込み寺みたいな扱いされてる訳か…」


私は正臣の言葉に笑いつつ、彼に近づく悪霊たちの方に目を向ける。

私もその手の存在を見る事は出来るが…どれもこれも靄にしか見えず、今すぐにでも呪符でお祓いしてやろうか?としか思わない。


「なんか情報無いの?どうしてまた大量発生してるんだ?って聞いてよ」

「聞いてるさ。おっかなオヤジみたいなのから"んなもん、前の事なんて知るわけねぇべさ!"って怒鳴られたよ」

「アハハ…仰る通りで」


正臣はそう言いながらも、次々に悪霊を取り込んでは祓っている。

器用なものだな…と思いながら、私は周囲を見回して妖の"匂い"を探っていた。


(ま、種族が分かっただけで顔は割れてないからなぁ…)


昨日の今日で新たな妖が見つかるワケがなく、そんな無理も承知の上でのお手伝い…

余計な気を利かせた沙絵やら母様のお陰で、こうして正臣と2人で街を歩いている。


先代入舸沙月の事やら消した妖達と鬼沙の関係やら…

洗わねばならぬ事柄は数多くあったが、その辺りは「こっちで調べておくから今は楽しんでなさい」との事で、私はその辺りの捜査からは外されているのだ。

最近は特に修行詰めだったから、この辺で一度ガス抜きをしておけとの事だろうが…

ガス抜きが終わる前に何か一波乱がある気しかしない。


「去年の秋だっけ?その時も、悪霊騒ぎから何かが起きたよな」

「そうだね」

「今回も何かヤバい事が起こる予兆かな?」

「どうだろう。他の事が先に起きてるから、単に偶然だと思うんだけど」

「そうだと良いけどな。何か、そうでも無さそうなんだ」


適当な路地を歩いている最中…正臣が私の方を見て何とも言えない表情をこちらに向けた。

彼の顔を見返して首を傾げて見せると、正臣は憑いていた悪霊を祓って僅かに気分が悪そうな顔になる。


「一旦、休憩しようか」「あぁ、そうしよう」


午前は部活動で午後はもう15時を過ぎる頃だが、これまでずっと歩き詰め…

丁度良く目の前に、この間鴉天狗と情報交換をした喫茶店が見えたから、私達はそこで一休みすることにした。


「どうも…いらっしゃい…っと…そちらの方が噂の?」

「あぁー…正臣も"こっち側"だから素のままで良いよ」

「分かりました。いらっしゃいませ、正臣様」

「あ、よろしくお願いします…羽瀬霧正臣です…」

「2人ですが…そうですね、奥の席にどうぞ。お仕事中…ですよね?」

「流石。ちょっと長居するかも」

「全然構いませんよ」


扉を開けてすぐマスターが正臣の姿を見て目を丸くしたが、すぐに元通りになって優しい笑みを浮かべ、奥のこじんまりとした席まで案内してくれた。

店の奥で、外からは見えず…店にいたとしても気付かれ無さそうな席だ。


「ブレンドとドーナツ4つで」「じゃあ…俺はココアで」「かしこまりました」


注文を終えて一つ深い溜息を付く私達。

これまで歩き詰めだったが…こうして休んでみると、思った以上に疲れているものだ。


「明日、正臣は来れないんだもんね」

「あぁ、親の実家の片付けに駆り出されるんだ。楽しんで来いよ」


明日は穂花達と日帰りでスキー…なのだが、この疲れ具合でスキーが出来るのだろうか。


(帰ったらこっそり妖化して回復しようかな…?そうしよう…)


ふくらはぎを揉みながらロクでも無い事を考えつつ、注文したものが運ばれてくるまでの間、正臣とは"仕事に関係のない"雑談を楽しむ。


「正臣の親はどこの出身なんだっけ?」

「父さんが知床で、母さんが根室。明日は知床の方だな。父方のじいちゃんが物を片付けらんない人でさ…半年に1回はあるんだよ」

「そういえば、前もそんなことあったっけ。でも不思議だよね。正臣とか綺麗好きなのに」

「そこは母さん似。父さんはガサツだけど…ホラ、何だかんだ母さんに矯正されてっから」

「なるほどなるほど…」

「それに、じいちゃんは定年してから芸術家?ってやつになってさ。画材とかでもう…」


正臣は苦笑いを浮かべながら、はぁ…と呆れが多分に混じった溜息をつく。

何となくだが、田舎の古い家の中が画材やら中途半端に使われた絵具やらでぐちゃぐちゃになってる光景が想像できた。

本人はどこに何があるか分かってるけど、周囲から見たらゴミ屋敷にしか見えぬであろう光景…


「でも、知床は遠いね!1泊2日じゃ無理でしょ」

「そう。今回は3泊4日かな。移動でほぼ2日使う様なもんだし」


正臣の言葉が途切れる辺りで、そっとマスターが注文したものをテーブルに置いてくれる。

私達はさり気無い気づかいにお礼をいうと、一旦会話を中断してそれぞれ飲み物に手を伸ばした。


「ふぅ…あ、ドーナツは1人2個ね」「サンキュー」


ドーナツを突くには良い時間…

それぞれドーナツを1つ取って、一口食べると、話を真面目な話に戻していく。


「で、なんだっけ。悪霊から情報でも得られたの?」

「あぁ、さっき祓った奴なんだがな、ソイツはしきりに"殺された"って喚いてたよ」

「へぇ…誰に?」

「知らない男だそうだ。ただ、沙月を見て怯えてたな。雰囲気が似てるんだとさ」

「なるほど…」


私は正臣からの数少ない情報を得て、脳裏に鬼沙の姿を鮮明に思い描いた。

だが、解せないのは…あの鬼は決して人に手を出す鬼では無かったはずだ。

成り立ての頃は知らないが…力を理解してからは妖にしか喧嘩を吹っ掛けないはず…


「知り合いに居るのか?そんなことしそうな奴」

「丁度、思いつくのが1人居るね。死んだと思ってたら、生きてたのが1人…」


正臣に尋ねられた私は、思わせぶりにそう答えると、正臣はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「正臣は覚えてるか分からないけど、沙絵の"前の"私の付き人、覚えてない?」

「さぁ…沙絵さん以外に居たっけか」

「そうだよね。幼稚園の頃からの付き合いだけど、その頃は"こんな間柄"じゃなかったし」


私はそう言いながら、スマホを取り出し、過去の鬼沙の写真を彼に見せてやる。

在りし日の鬼沙…笑顔で幼い頃の私を抱きかかえ、恐らく納車されたばかりの青いスポーツカーの前で写った写真だ。

私は正臣にその写真を見せながら、彼には言ってなかった"懸念事項"をボソッと伝えた。


「死んだはずの鬼なんだけど。生きてたの。死を偽装して、何処かに潜伏してたのね」


冷たい口調…正臣の表情が俄に硬くなっていく。


「去年、私の心臓が止まった時の主犯はコイツさ。コイツは、この写真に写ってる車に乗って、再び小樽にやってきてるんだ」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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