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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
255/300

255.問題が積み重なってくると、何かが始まったんだなと思う。

問題が積み重なってくると、何かが始まったんだなと思う。

元々あった連続怪死事件の捜査に加えて、前科持ちの妖達の襲来に、鬼沙の登場…

不穏な空気を感じながらも、見た目上は普段と変わらない市街を歩き回った私は、家に帰る前に適当な喫茶店に立ち寄っていた。


「沙月様、お疲れ様です」「あぁ…お疲れ様…」


そこはウチの妖達がよく使っているという、天狗がマスターを務める喫茶店。

何だかんだ暫く顔を出していなかったので行ってみようと扉を開ければ、中には休憩していた防人絡みの妖がいた。


「ブレンド一つとドーナツ一つ。そっちは?収穫があった?」


寡黙な老紳士風の装いをしているマスターに注文を入れつつ、正装をして"警察官"に扮している妖の隣に座る私。

彼は…名前は知らないのだが、この手の警察協力案件では"毎度毎回"街を歩き回ってくれる働き者。

若い…そう、ドラマとかでは主役を張れそうな爽やかな青年。

その実は人の噂話には目が無く、色々と"知らなくていいことも知っている"鴉天狗で、昔は色々と"やんちゃしてた"らしいのだが…

まぁ、今では"防人側"の妖だけあって、色々とわきまえる事は出来る妖だ。


「俺の方は収穫無しですよ。ただ、この近辺ではない妖の匂いは感じます。それを辿ってるんですが…なんか、こう、繋がらなくって」

「そう。この間から、死体は上がって無いの?」

「そうですね。行方不明者の数と一致して以降はピタリと…怪しい所はウチで掘り起こして見てるんで、もう上がらないと思います」

「ふむ。このままなら、見知らぬ第3勢力か。厄介なもんだね…ん…はぁ…」


そう言いながら、私はマスターがシレっとテーブルに置いてきたドーナツを一齧りして、ブレンドコーヒーを一口飲んで一つ溜息をついた。


「そっちでも何かあったとは聞きましたが」

「あぁ、去年私が相手した妖組織の妖が、結託して小樽に来てるのさ」

「それはそれは…でも、何かがあるまでは放置でしょう?」

「いや、他所で暴れてて"隠すには十分"だったから、見つけ次第隠すよ。6人来てて、さっき3人隠したさ。残り3人も…近いうちに消すよ」

「流石です」


鴉天狗はそう言って苦笑いを浮かべながら私の姿をジッと見つめてくる。

彼にとっては"コッチの姿"が見慣れぬ姿だからだろうか、普段よりも目付きが鋭かった。


「あと、また後で連絡するけど。鬼沙が小樽に居る」

「え!?」


そのまま何気ない流れで鬼沙の情報を伝えると…

彼はコーヒーカップに手を伸ばしかけた手を止めて目を見開いた。


「昔、消える前、最後に乗ってた車覚えてる?」

「あぁ…スカイラインですね。限定車だかなんだかって自慢してましたっけ」

「それに乗ってた。隣に、私によく似た人を乗せてね」

「沙月様に…よく似た人…ですか…?」


鴉天狗は私の言葉を聞いて表情を徐々に真剣なものに変えていく。

最早、ちょっとしたコーヒーブレイクではなく、真面目な情報交換の場になっていた。


「そうだ。どれだけ昔から"入舸家"に使われてるんだっけ?」

「それは…もう、大分経ちますね。それこそ、北海道に来る前からです」

「ならさ、見覚え無い?私をちょっと大人にした様な防人の女。鬼沙とセットで誰か…」

「そ、そんな人は…一人しか思いつきません」

「え?思いつくの?」


何気なく聞いてみて、いるわけないじゃないですかと言われると思っていた私は、鴉天狗の言葉に眉を上げる。

彼は私の事をじっと見つつも、どこかその答えを言い辛そうにしていたが、やがて諦めた様に口を開いた。


「先代の…沙月様です」

「先代の…?あ、あぁ…」


気まずそうに答えを告げられて…

覚悟していたよりも"普通"な答えを貰ってキョトンとした顔を晒して…

私と彼の間には、何とも言えない空気が流れてしまった。


「先代の沙月って事は…ひいおばあちゃんだ」

「そうですね。もう、100年前…ですかね。そういう時代のお方でした」


入舸家の長女には、一定の命名規則がある。

沙月→沙千→沙雪→沙月…という感じで名付けられていく。

母様は沙雪だし、おばあちゃんは沙千…ひいばあちゃんは沙月だが会った事は無い。

私が誰かと結婚して子を生んで、それが女の子であれば…沙千と名付けることになるのだ。

おばあちゃんの名前を娘に付けるというのも変な話だが…そんな慣わし。


「その先代の沙月様が…沙千様が丁度沙月様の年頃だった時に"妖化"して、本家から直々に指令が出て、異境へ隠されています」

「そういえば…いつだったか、おばあちゃんが言ってくれたっけか。似てるんだ?私と」

「それはもう…妖力から、雰囲気から瓜二つでして」


鴉天狗はそういうと、ゴソゴソと何かを探し始めた。

そして取り出したのはスマートフォン…昔の写真がその中にあるとは思わなかったが…

彼は慣れた手つきで何かを探し求めると、私に画面を見せてくる。


「沙千様が生まれた時の写真です」「……」


なんでそんなものをスマホに入れているのかと疑問に思ったが…

その辺りは深く考えずに、私はスマホを見ておばあちゃんを抱いて写真に映った先代入舸沙月の姿を見て「あぁ…」と声を上げた。

そこに映っていた先代入舸沙月は、鬼沙の隣に座っていた女で間違いない…

私は声を上げつつ、口元を引きつらせると、鴉天狗に話しかける。


「幾つ位?」

「丁度30歳です。入舸の人間って不思議なもので、30歳で子を成し90歳で死ぬんですよ。なので…じつは、沙月様が生まれた年、沙月様が生まれる数か月前に先代の沙月様は死んでいる…ハズなのですが…」

「さっきも言った通り、この写真の数年後に隠されたと」

「はい。妖化して暴走しまして…一般人へ被害が出てしまったのです。戦時中で妖絡みの混乱は1つも起こしたくないピリピリした時期でし…隠すという決定まではそう時間が掛からなかったと記憶しています」


鴉天狗の言葉を受けて、私は引きつった顔に苦い笑みを付け足した。


「時代が違えば、私もそうなってたわけだ」

「そうですね…」

「妖化したっていうけど、見た目に変化はあったの?私みたいになるとかさ」

「沙月様程"混ざっては"いない様でした。ただ、鬼の特徴が色濃く出ていましたね」

「鬼か…それだけで済んでれば良いんだけど」


この先"対峙する羽目"になるであろう先代入舸沙月の情報を得て、私は背中に薄ら寒いものを感じる。

この鴉天狗が言った通り"鬼"だけであれば、鬼沙と大差が無い存在と見て良いだろうが…

そこは入舸家…色々な妖の血が混ざり合ってきた"混ざり者"。

どういう訳で鬼沙と行動をしているかは知らないが…隠された異境の地から、"姿を変えず"に戻ってこられたという事は、向こうの妖力で更に"強化"されていることは容易に想像出来てしまう。


「何かアレだね、バラバラになってる件が裏で繋がってそうに思えてきたんだけど」


そこまで話して、テーブルのドーナツに再び手を伸ばした。

ドーナツが半分になり…やがて無くなり…その間、私達は黙って各々の脳内で色々な可能性を巡らせる。


「ふぅ~……」


私はドーナツを食べきって、コーヒーの残りを一気に飲み干すと、深い溜息を1つついてから、机に頬杖を付いた。


「怪死事件が解決しても、まだまだ動くネタは出来そうだね。このままだとさ」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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