254.思っていたのとは違うけれど、仕事は果たさねば。
思っていたのとは違うけれど、仕事は果たさねば。
市内上空を見回っていたメノウからの連絡で、お尋ね者になっていた6名のうちの3名を見つけた私は、妖にしか見えぬ"呪符の光"を彼らに見せつけて人知れぬ所へと追い込んだ。
「道を間違えましたか?随分と、お急ぎの様ですが…どちらにおいでで?」
下種い笑みを浮かべながら、どす黒い光を宿した呪符を3枚見せつける私。
今の私は"表行き"の格好…黒髪眼鏡の地味な女子高生。
でも、妖なら妖気で"実力差"が分かるだろう。
彼らは皆、私を前にして顔を青ざめさせて、一様に騒めき立っている。
市内にある、古く狭い立駐の最上階まで逃げ込んできた妖達は、目当ての車が無かったのか…焦った顔を浮かべて何かを言い合った後、私が手にした呪符を見て沈黙した。
「そんなことはどうでもいいのだけどもね?私が直々に出向いた理由、わかるでしょ?」
そう言って手にした呪符を差し向けると、妖は奥歯を噛み締めて私の方へと足を踏み出す。
パッと見る限り、バランスよく6号、28号、77号の妖が揃っている様だ。
6号の…"骨信者"が手足を鋭い骨に変形させて突貫し…
28号の妖が辺り一面をあっという間に濃霧で染め上げ、77号の妖は、手にした何かから放たれる赤いレーザー光を私の目元目掛けて向けてきた。
「ヒュー」
何をしてくるだろうか?と、少しワクワクしていた私は、彼らの"彼ららしい"攻撃に頬を綻ばせて6号の斬撃を軽々といなし、呪符を手にしたまま器用に6号の股を蹴り上げて宙に浮かせると、その場で一回転…回り蹴りを食らわせて来た方向へと弾き返す。
「その程度の"手品"なら、もう驚かないのさ…もう、そこまで、馬鹿じゃあないのでね!」
6号を吹き飛ばし、妖の姿が見えなくなった濃霧の中。
私は"見せかけの濃霧"の向こう側で、私の目くらましをして逃げようとしている28号と77号の妖の方を"睨みつけながら"そう言うと、手にした呪符をヒュッと彼らの方へ投げつける。
「「!!」」
ただの紙にしては、嫌に鋭利で鋭い…フリスビーの様に飛んで行った呪符。
それは、28号と77号の妖の足元に突き刺さり、パッと込められた妖力を解き放ち辺り一面をどす黒い闇へと染め直した。
「爆発なんてさせないさ。"こんな街中で"な?騒ぎなんて起こすものじゃないでしょ?」
真っ暗闇な空間…
何も見えず右往左往する3匹の妖達は、人に化ける事も止めて逃れようと必死だった。
「ちょっとばかり、ここじゃなくて…どこか遠くへ"隠居"してもらうよ。アンタ達は、少々"やりすぎた"らしいからね…やりすぎたものは消される。"妖の掟"を教えてあげよう」
だが、そんな彼らの行き先に光は見えない。
私はカラーコンタクトの中でエメラルドグリーンに光る双眼を妖達に向けると、弱った彼らに向けて"金色の呪符"を差し向けた。
「防人は決して妖を殺さない。ちょっと遠くに隠すだけさ」
その一言の直後、妖達は眩いまでの光に包み込まれ…
悲鳴も上げられぬまま何処かへ隠されていく。
やがて、呪符によって創り出した"妖の目に効く"暗闇も消え失せて元の立駐の寂しい光景が戻ってくると、私はフーっと一つ溜息を付いた。
「半々か…駐車場で喚いてたってことは、ここから何処かに移動する気だったのかな?」
人のいない駐車場で独り言。
周囲を見回して"残留物"が無いかを確認すると、私は沙絵とメノウにメッセージを送り、依頼されていた数の"半分"を既に隠した旨を伝える。
2人からは直ぐにスタンプの返信が戻ってきて、私は再び"市内の警邏"に出るために立駐を後にした。
(半々なら、行き先は積丹の方か…いや、"外人絡み"の火種が残ってるならニセコ?)
頭の中に渦巻くのは、彼らが小樽へとやってきた理由。
どの組織も、去年、私達に"茶々"を入れてきた組織…
その報復に小樽へと来たのならまだ分かるが、彼らは私達を見てもそれらしい反応をしめさなかった。
ならば…まだそういう情報はないけれども、最近何だかんだで面倒ごとに発展している"外国の妖"絡みで何かあるのだろうか?とも思ってしまう。
(…まぁ、"純粋な"妖の考える事なんて分からないけどもさ)
彼らは皆、人から変化した妖ではなく、元々異境に故郷を持つ妖だ。
そんな彼らの考えは、人の考えを凌駕しているというか…常識が違うというか…
どこか動物的で、どこかサディスト系?な、残酷極まりない思考をしているのが常だ。
(異境だけで過ごしてれば、少しは分かるかな?)
そんな気持ちは、幾ら妖に近づいたと言えど分かりたくも無いのだが…
妖化した直後…"私"が制御不能だった頃の思考を思い返せば、少しは想像できるだろうか?
(いやいや…もう、カニバリズムはゴメンだね)
ロクでも無い考えが頭を駆け巡り、私は僅かに顔を青くしながら小樽の街中を歩いていく。
ここまで…もうそろそろ、運河が見えてくる?という所まで来てしまったから、このまま、港にでも行って"漁酒会"の妖にも通達を出しておこう。
"神岬漁酒会"…八沙の組織だから大なり小なり話は行ってると思うのだが…念の為。
(後の3人、これが中々面倒だったりするんだよなぁ…)
一仕事終えて、少し気分が軽くはなっている。
だが、終わってはいないから気を抜き切れないという…少しもどかしい感じ。
そんな感情を頭の中でグルグルさせていた私の耳に、ふと、"聞いた事がある様な"低音が聞こえてきた。
「…?」
小樽運河から程近い、観光客向けの店が並んで、観光客達で賑わう小路…
その歩道を歩いていた私の背後から近づいてくる低いエンジンの音。
ただの車じゃないその音に、ふと振り向いた時…私の眼は大きく見開かれた。
「……!?」
何でもないという風にスーッと私の横を通り抜けていく青いスポーツカー。
その中にいたのは、鬼沙ともう一人、白菫色の髪をした"私によく似た"女。
向こうは観光客達に紛れた私に気付いていない様で、私のことを一瞥もせずに通り過ぎて行ったが、私は僅かに体を震わせながら車の後をジッと追い続け、丸いテールランプが消えるまでその姿を目に焼き付けた。
(あれは…一体?)
あの車が…鬼沙が小樽に現れただけでも驚きなのに、更に驚くのは助手席に乗っていた女。
その姿は、まるで防人の人間そのもの…いや違う、その姿は…毎朝鏡越しに見る私と瓜二つだったのだ。
「……!!」
鬼沙の車が交差点を曲がって姿を消したところで、私はようやく我に返って歩道脇に逸れてスマホを取り出す。
これは、メッセージでは済まされない…沙絵に電話をかけた私は、彼女と通話が繋がった瞬間には、こう叫んでいた。
「沙絵!?思ってたよりヤバいかもしれない!!今、鬼沙の車を見たの!!」
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