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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
253/300

253.隠すだけなら、もう取るに足らない仕事と言える。

隠すだけなら、もう取るに足らない仕事と言える。

沙絵の車から降りた私は、寒さをしのぐために駅構内に入ると、上空で見張っている筈のメノウとニッカにメッセージを送り、彼女達からの返信を待った。


(早い…これはずっとこの辺を見てたのかな?…流石)


直ぐに返信が返ってきて、メノウもニッカも"それらしい影はまだ見ていない"という。

私は彼女達のメッセージにスタンプで返信を返すと、駅構内のコンビニで適当におにぎりとお茶を買って、ベンチでそれを突きながら妖の到着を待つことにした。

来ていないというのであれば、まず間違いなくここを通るはずと、そう思ったのだが…


「……」


おにぎり二つをペロリと平らげ、お茶が無くなる頃になっても、妖の気配を感じない。

ダラダラと食べている間に、部活終わりのウチの生徒やら何やらが通り過ぎていき…

札幌から来たであろう観光客の姿も多く見えたのだけど、妖の姿は何処にも見えなかった。


(もうそろそろ1時間…小樽築港か南で降りたとしたら…?動いた方が良いな…)


駅構内の隅、人目につかぬベンチに座ってジッと人通りを見つめる女子高生。

駅員さん以外は不審に思わないだろうけども、このまま長居するのも癪だ。

私はメノウとニッカにメッセージを打ち込んで、メノウの方を街の監視に割り振ると、スッと立ち上がってゴミ箱にゴミを捨てて、小樽の街中へと歩き出した。


妖が小樽駅ではなく、その前の駅で降りて来ている可能性も十分にあり得る。

もう一度手にしたファイルを見直した私は、とりあえず街中に根城を持つ妖達に"協力"してもらおうと、アーケード街の方へと出向くことにした。


「どうも。今、ちょっと良い?」

「これはこれは沙月様…はい。大丈夫です何でしょうか?」


駅前の中央通りを海側に歩いて、都通りのアーケードへ…

中央通側の所に店を構えた妖を捕まえた私は、手にしていたファイルを見せながら妖に頼みごとをしていく。


「この顔を見たら知らせてほしいの。妖でねお尋ね者なのさ」

「なるほど…6人ですかい。それもまぁ…特徴のない。大学生みたいですね?」

「写真でこれなら、現物は結構"紛れる"と思うけど"匂い"はキツイ筈。血の匂いでね」

「確かに…分かりました。この辺の奴等には連絡しておきますので…写真取っても?」

「あぁ、大丈夫」


最初に入ったのは、時計店を営む妖…この辺りでは古株で、情報屋な一面もある。

そんな彼に話を通しておけば、とりあえずこの辺の妖には話が伝わるだろう。

私は周囲を気にしつつやり取りを終えると、店を後にしてアーケード街から離れて行った。


次に出向くのは、アーケードと運河周辺の間にある、個人商店や飲食店に潜む妖の元…

少々歩くが、大した距離ではない。

周囲の人々の顔をよく気にしながら歩き、ほんの10分ほどで目当ての店に辿り着いた。


「ごめんくださーい」


そこは、人通りの少ない所に店を構えている老舗の和菓子屋…

店内に入ると、甘い香りが私の鼻を擽り、私の声に反応した店主が奥からいそいそと出向いてくる。


「はいはーい!って沙月様!?どうしたんです、制服で…学校ですか?」

「部活帰りでね。急に家に呼ばれて仕事中なの」


私達2人以外には誰もいない店内。

私はガラスケースに並んだ、飾り気のない和菓子に目を奪われつつも、仕事の方を優先して話を進める。


「ちょっとお尋ね者が出てるのさ。このファイルに出てる6人、見つけたら知らせて欲しいの。手は出さなくていい。結構危険な奴等だからね」

「あー、分かりました…」

「この近辺の妖に伝えてくれない?アーケードの方はもう回したからさ」

「はいはい…これ、写真を取っても?」

「うん。大丈夫。あと、おはぎ3つ…お腹空いててさ」


そう言いながら、カウンターの上にファイルとおはぎ3つ分のお金を出す私。

妖は少し驚いた顔を浮かべたが、すぐに優しい笑みになり、おはぎを4つ包んでくれた。


「ははは…沙月様は、今が食べ盛りで、動き盛りでしょう。1つオマケしときますよ」

「ありがと」


店主の妖は、気の良いおじさんといった風貌の鬼なのだが…

彼はファイルを一旦机に置くと、先に会計を済ませてくれる。


「食べて行きます?」「そうしよっかな」


歩き続けていたし、お昼はあれで足りる筈も無いから…

少し休憩がてらここでおはぎを食べていくことにした。


「コイツ等はあれですか?最近ニュースになってる…」

「いやぁ、そっちじゃないのさ。別件でね」

「はぁ~…物騒ですねぇ」


休憩スペースにおはぎとお茶を持ってきてくれた店主と軽い雑談。

店主はスマホを弄ってファイルの中身の写真を取ると、そのファイルを私に渡してくる。


「ニュースの方は?沙月様は関わりないので?」

「あぁ、そっちは警察と動くからね。ほら、こう見えても私、現役の高校生だからさ」

「そういえばそうでした。今年に入ってから、また一段と大きく見えるものですから」

「お世辞だな~…そっちも難航してるみたいだけどね。妖の仕業ってのは確定みたい」

「はぁ~…なら、この辺りの者の仕業ではないでしょうな」


雑談の中身は、今私が関わっている件とはまた別の、少し以前から現実のニュースおも賑わせている事件について。


「この辺の山はウチの息がかかってるからね。他所から来るにせよ…って思うけども」

「何かがあるのは間違い無さそうです。私達の間でも話題には上がってるんですが…」

「深追いはしていない…と。それが賢明さね」


それは3月中頃の事…今年は少々早く雪解けが進んでいたのだが…

雪解けが進むと、冬の間は雪に隠されていたゴミ等が出てきて、砂まみれになった汚い雪の光景も相まって少々"ばっちい"光景を晒すのだが、今年はそんなゴミの中に、とんでもない物が混じっていた。


溶けた雪山の中から出てきたのは、人の死体…

それも、落雪事故に巻き込まれたとかそう言うのではなく、単にその辺の道端の雪山から出てきた者ばかりで…

出てきた死体は、近隣のスキー場で"行方不明"になった外国人観光客ばかりだったのだ。


「そっちもあるのに、こっちでまた問題。やっぱ小樽は人気だね。外からの人には」

「そこはホラ、小樽は観光地ですから。住んでると気付きませんけど…」


おはぎを食べながら愚痴る私。


件の事件は、スキー場の場外に出てスキーしていた外国人が忽然と姿を消したという"一冬には何回も聞く"ありきたりさと、そんな外人が街中の雪山から"発掘された"という異常性も相まってニュースとなったのだった。

まぁ、毎日の様に溶けていく雪の中から、連日どこかで外人の遺体が見つかるのは、どう考えても不自然だから注目を浴びて当然なのだが…


問題は、それがとても人間技とは思えないのだ。

それもそうだろう。

道路外の雪山は、除雪やら何やらで高くなる雪山…その中に人間を隠すのは、どう考えても目立つし、バレない筈がない。

にもかかわらず各地の道路わきから続々と遺体が出てくるのだ。


「今回の妖もそうだけど…裏で繋がってるとかだったら…ちょっと面倒だなぁ…」

「ですねぇ…この辺の妖にも影響が出かねません」


店主と雑談しながら、私は"別件"と繋がってる可能性もチラホラと考え出して…

私達は僅かに顔色を暗くした。


「そういう訳だから。暫くウチの者がウロウロするかもしれないけど…ごめんなさいね?」


これ以上話せる事は無いが、これ以上空気を重くしても余計な心配をかけるだけだ。

空になったお皿と湯呑を店主に渡すと、そろそろ店を出ようと支度を始めて、最後の去り際に、店主にこう言い含めた。


「小樽に棲む妖も調べる事になるかもしれないけど。"無実"の皆は私達が護るから、その辺は安心してね?結局はいつも通りの仕事…大丈夫だからさ」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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