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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
碌章:境界線上の妖少女(下)
252/300

252.休みの日だからといって、休む事は少なくなった。

休みの日だからといって、休む事は少なくなった。

私は汗をタオルで拭いながら、奥歯を食いしばる。

正臣に頼んで部活に混ぜてもらってる最中…それももう終わったのだが、模擬戦の最後の相手に勝てなかったことが、どう振り返ってもやはり悔しい。


「い、入舸先輩…昔から剣道やってたんですか?」

「ん?あぁ、有段者の親戚が居て、家の道場で付き合わされてたんだよね」

「家に道場があるんですか…へぇぇ…そうだったんですね…」


ギリッと奥歯を噛み締め悔し気な顔を浮かべる私に、怖がりながら話しかけてきたのは新入生の女の子…今日から先行体験入部が始まってて…確か、彼女は山下さんと言ったっけ。


「でも、普段は剣道部の人じゃない…と聞きましたけど…」

「うん。本来は美術部。今日はちょっとワケアリでね、正臣を倒してやろうと思ったんだけど…まぁ、見ての通りでさ」

「いや、凄いですよ。羽瀬霧先輩があそこまで追い詰められてるの、見た事ないですもん」

「そう?…というか、正臣の事、知ってるんだ?」

「それはもう!同じ中学ですから!…なので、実は入舸先輩の事も知ってました。見た事ある程度ですけど…まさか剣道が出来る人だとは…」

「なるほど…中学時代は部に混じって無かったもんね」


流れ出る汗をタオルで拭いつつ、山下さんの出身校を聞いて軽く目を見開く私。

彼女の反応を見る限り、私の"良からぬ"噂までは耳にしたことが無さそうだった。

まぁ、大手を振って広める噂でも無いから、学年が変わればそんなものなのだろう。


「それで、今日はちょっとチャンスが無かったのですが、今度、教えてくれませんか?」

「私で良いなら…教えるのはすっごく苦手なのだけども…それでいいなら…ね?」

「謙遜し過ぎたっての」「っ!正臣か…」


話している所に横槍…肩をトンと突かれて見れば、正臣が苦笑いを浮かべて立っていた。


「ようやく剣道部に引っ張り出せたんだ。春休み中もいるだろうし、そもそも沙月、人に話しかけに行くタイプじゃないから、ガンガン聞きに行かないと何も喋らないぞ?」

「そうなんですか。なら…遠慮なく…」

「否定できないのが辛い」

「で…ごめん、ちょっと沙月に様があるから、いいか?」「はい!」


正臣の言葉に活気づく山下さんに、苦笑いで否定できないことをもどかしく思う私。

正臣は山下さんを離して私の隣までやってくると、手にしていたスマホを見せてきた。


「どしたの…?え?あー、沙絵から。何だって正臣に」

「やり合ってる時に来たんだろうな。俺も今見て気付いたから、沙月にも来てるはずだ」


彼のスマホに映っているのは、沙絵とのやり取り…

どうも私に急用が出来たらしく、私の反応が無いから正臣にも連絡が行った様だった。


「なるほど…ありがと、ちょっと急ぎっぽいね。やばいやばい…」

「あぁ、片付けとかはいいから、サッサと着替えて出た方が良い。多分駐車場に来てる」

「分かった。なら、ゴメン、上がっちゃうね」

「あぁ、先生には言っとくから」

「ありがとっ!」


私は正臣に礼を言うと、一気に現実に引き戻される。

すれ違う部の人には"家の急用で先に上がる"旨を伝え…向かうは更衣室。

女子更衣室の中に入った私は、パッと剣道着を脱いで汗を拭い、制汗剤やらをかけて身なりを整えると、パパッと制服に着替えてコートを着て、道具をまとめて外に出た。


(何かあったな…)


スマホを確認しつつ、当然のように来ていた沙絵からのメッセージに返信しながら廊下を小走りで進む。

生徒玄関までやってきて靴を履き替えると、普段と違って駐車場の方へ向かい、この時期にはとても目立つ黄色いスポーツカーの元へ駆け寄った。


「ごめんごめん、正臣と打ち合ってたんだ」

「そんなことだろうと思ってましたよ。急ぎですが、そこまで喫緊ではないので」


ドアを開けてシートを倒し、後席に荷物を放り込んでからシートを戻して助手席に収まる。

沙絵はドアが閉まると同時に車を出し、グローブボックスを指して私に何か合図を出した。


「で、何かあったの?」


沙絵にそう尋ねつつ、グローブボックス内に入っていた小さいファイルを取って目を通す。

そこには、6人の見知らぬ人物のプロフィールがズラリと並んでいた。


「札幌駅で確認された妖のリストです。どうもこちらに来ている様なので…その対処に」

「ふーむ?見覚えのある組織ばかりだ。6号、28号、77号…確か、去年ウチで消した妖…」

「そうです。その残党というか、別隊みたいなものですね。何らかの理由で結託した様で」

「厄介だな。でも、まだ何もしてないから手出しは出来ないんじゃない?」


高校から出て、小樽駅までは車ならば10分もかからない。

沙絵は幹線道路の流れに乗りながら、私の問いに目を細めた。


「そうでもないんですよ。奥の方に書いてます」


言われるがままにファイルを読み進める私。

すると、そこに書かれていたのは何んとも反応しがたい彼らの"罪状"だった。


「なるほどね」


外国妖の入国を"手引き"したり、"食糧"として一般人を拉致・殺害したりと、それなりの罪状が並んでいる。

私はファイルに書かれた罪状を見て目を細めつつ、コートのポケットに入っていた耳飾りを付けて準備を整えた。


「そんなのを良く野放しに出来てたものだね」

「巧妙なんですよ。手口が…防人が"手を出しにくい"手を知ってる様で…」

「内部も洗った方が良いんじゃない?この間のアレで、やり易くなったんでしょ?」

「はい。それもやっていますが…今の所掠りもしません」


そう言いながら、もう目の前に小樽駅が迫っている。

彼らがどの列車に乗ってくるかは知らないが…札幌で確認されたのが1時間以内とすれば、もう着いていてもおかしくない頃合いだ。


「で、私の仕事はそいつらを"隠す"事で良いんだよね?」

「はい。人目に付かなくなった所で急襲しちゃっていいです。小樽…わざわざ入舸の庭に来たってことは何かしら"やらかす"気なのでしょうから」

「OK。私と沙絵だけ?」

「いえ、今回はメノウ達も使えます。上空にはメノウとニッカが上空に控えてますよ」

「了解」


私がそう言うと同時に、車は小樽駅の敷地中に入っていく。

車が止まり、私は小さなファイルを手にしたまま車のドアレバーに手をかけた。


「今日中にケリ付けたいよね?」

「勿論です。タダでさえ"事件"の真っただ中なんですから」

「了解。それじゃ、連絡はスマホで」


車を降りる前に確認事項を言い合って、私は車を降りて外に出る。

まだ3月…車の温かな空気とは全然違う、寒く冷たい風に髪をかき混ぜられながら、私は周囲を見回した。

とりあえず、周囲にそれらしい人影は無し…私は"防人元"と繋がっている耳飾りをフワリと触ると、人知れず小さく呟いた。


「さて…久しぶりの"防人仕事"と行きますか」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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