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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
幕間:その伍
250/300

250.チョウシハ、トテモイイ。

チョウシハ、トテモイイ。

昨年末の出来事を受け覚悟を決めて早1か月と少し…

久しぶりに"呪符"を使って妖の姿になった私の気分は、とても晴れやかだった。


「どうだ?そうすれば、手足だけ人に戻れるだろう?」

「え…」「えぇ、すごい!ですって。感動してるわね」

「こ…」「心を読んで先回りするなって?性質だから仕方がないでしょ?」

「……」「喋ろうとしなくたって無駄よ?私には全部見えてるんだから」

「その辺にしておけ。沙月殿が呆れてものも言えぬって顔をしているぞ?」

「まぁ、そうね。この子、顔と思ってる事同じだものね」

「ダメだこりゃ」


気分は晴れやかだが…周囲にいる面子は穏やかでは無い面子ばかり…

"修行"の為に、2月最初の3連休を京都で過ごす事にした私は、以津真天達"塔守りの妖"に呼び出されて、"防人元"の使いを果たすために異境へやってきた。


その道中で妖術に長けた以津真と入道から"姿の変え方"を学んで…

猛禽類になって使い辛かった手足を人のそれに戻す方法を学んだところなのだが…


「私に心を読まれて嫌だって?そうねぇ…だって、貴女の心は分かりやすいんだもの!」


こんな調子で自覚に心を読まれ先読みされるせいで、一言も言葉を発せられていない。

鎌鼬である風吹がちょいちょい止めに入ってくれるのだが…今の所効果は無いと言える。


「元様の様に隠せるようになりなさい!とまでは言わないけどね。少し曇らせなさいよ」

「くも…」「曇らせるのは簡単でしょ?考えなきゃいいのよ。ねぇ?」

「ね…」「ねぇ?って言われても分からないってさ。コイツ等は出来てんのよ?」


どうも、私は彼女に好かれている…と思って良いのだろうか。

気のいい大阪のオバチャンにしか見えない彼女相手にずっとこれなのは…流石に困る。

私は苦笑いを浮かべて、以津真や入道、風吹に助けの目を向けた。


「恋から心を隠せる様になるには、まだまだかかりそうだな」

「あぁ、諦めなさい。楽だと思えばいいのだ。言いたいことは全部彼女が話すのだから」

「そうだな。見た目通りの大阪ババァだから、喋らせとかねば死ぬやもしれん」


私の願いもむなしく、3人に匙を投げられる。

割と"散々"な評価をされた自覚だけは、どこか満足げな顔を私に向けるのだが…


「あら、馬鹿にされてるって?事実だもの。気にしてどうするのよ」


と、サバサバした態度のまま肩を組んできて、私の頭から生えた羽根にくるまるのだった。


「しっかし良いわねぇ、天然羽毛は…んー…シャンプーの香り」

「…にお」

「良いじゃないの。良い香りなんだし」

「……」


されたい放題とはこのことか。

私は残りの三人にジトっとした目を向けると、彼らは僅かに歩幅を早めてくれる。


「余計なことになる前に、用事をすませねばな」

「あ、あぁ…そうしようか」


今いるのは、異境の中心街からは少し離れた通り。

赤い提灯も白い提灯も、まだ1つしか吊るされていない通り…

西から1本入って、北から1本入った通りを歩いている私達。

ここから目指すのは、西から8本、北から10本入った"ほぼ真逆"の位置にある店だ。


「そう言えば、元様は連絡を入れているのか?」

「さぁ…何の準備も無しに使いには出さぬから、入れてるのだろう」

「どっちでも、品切れにはなるまい」

「あの…」「そう言えば何用で行くのかって?」


道中、ようやく防人元からの"お使い"の話題になった所で、異境へ来た理由が明かされる。

例によって声は出せぬままだが…もう、その点は気にしないことにしよう。

防人元との間に交わした約束が"読まれなければ"後はどうにでもなるのだから。


「元様が飲む茶を買いにさぁ。それだけで?って思っただろ?」

「独特な茶でな、異境でしか栽培されぬ種らしいのだが…それを気に入っておられるのだ」

「ま、元様はそう言いながら、偶に俺達を異境へ出して見回りさせてるんだろうがな」


お使いの内容と、裏の内容までサラリと教えてくれる。

私はコクコクと頷くと、いい加減に翼の自由を取り戻そうと、バサッと翼を広げて自覚を外へ追いやった。


「異境の冬は寒いのに」

「さ…」「寒さは感じないでしょって?それでも肌に悪いのよ」

「なら…」「ならおばさんの姿にならなきゃいいのにって?」

「「「ぷっ…」」」「あら、アンタたちもこの子と同じ意見の様ね?」

「さぁな」「あぁ」「心を読んでみな」

「ぐっ……仕方がないでしょ。この格好が一番落ち着くのよ」


また自覚の"煩いおばさん"仕草から、軽い寸劇が繰り広げられる。

通りには、私達だけではなく他の妖達もいるのだが…

彼らは皆、"防人"の"お偉方"がいるとあってか緊張した面持ちでこちらを眺めつつ、この寸劇を見て怪訝な顔を浮かべていた。


「自覚、そろそろ入舸沙月から離れんか。声を出せぬのも毒なんだぞ?」

「仕方がないわね」


ここでようやく、私に引っ付いていた覚妖怪が私の前に出る。

代わりに、ここ最近、何かと"お世話になっている"以津真が私の横にやって来た。


「ありがと」

「なぁに、今のうちだけだからな。じきに覚れぬ様になるんだ」

「そう?」

「あぁ、覚に対して心を隠せるようになればいい。出来ぬことと思うか?」

「まぁ…何も考えないのは無理だと思うけど。イメージ出来ないや」

「少し考えてみるがいい。今日の収穫は…もうあったのだからな」


歩きながら、以津真は私の足元に目を向けた。

さっきまでは和服の下から猛禽類の足が見えていたが…

今はちゃんと人の足で、草履を履いて歩けている。

教えてもらった"自分に使う"妖術は簡単で、妖力もほぼ必要無いものだった。


「何を急いでいるかは知らぬがな、焦らずとも直ぐに出来るようになるさ」

「焦っては…無いけども」

「本当に腹芸が出来ない奴だ。顔に出てるぞ?」

「ぐ……」


以津真はそんな私を見て小さく笑う。


「元様との間で何かがあっただろう?」

「まぁ、うん」

「急いでるのはそのせいか?」

「そうね」

「ま、そうだろうな。何があったかは知らぬが…良い方へ進んでいる様に見える」

「そう言われると恥ずかしいけどもね」


私は頬を少し赤くすると、ワザとらしく視線を逸らした。


「じゃがな?物事は技術だけではないのだぞ?」

「……?」


少しの静寂の後、以津真はそう言って私の注意を引く。

私が再び彼の方を見ると、以津真はヒラヒラと、防人元から託された"財布"を見せてくる。


「信頼されねばな」

「私には、まだそれが無いと?」

「我々は信頼しているぞ?元様も同じだろう。財布は例えだ。ワシが会計なものでな」


そう言って笑った以津真は、すぐに笑みを消すと、更に続けた。


「だが、それ以外はどうだ?信頼されていると言えるか?」


その一言で、彼が何となく何を言いたいかが分かったような気がする。

それを聞いた私が呆けた顔を引き締めると、以津真はニヤリと口元を歪めた。


「信頼と畏怖は違う。元様は畏怖も受けているが、それ以上に信頼されているのだ。お主も、そうなれるように"変わらねば"ならぬな。ま、直ぐだろうが…」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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