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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
幕間:その伍
249/300

249.皆も変わったような気がするのは、私だけだろうか。

皆も変わったような気がするのは、私だけだろうか。

周囲を変えたければ自分が変われとは…詐欺師の言葉だとしか思ってこなかったのだけど。

どうも、私が変わったせいか、周りの人達も変わり始めた様に見える。


「やるなぁ…沙月。"そのカッコ"でここまで追い詰められるとは思わなかったぜ」

「ソイツはどうも。その割には、まだ余裕があると思うんだけど?」

「少しはカッコつけさせろよ。正臣のあんちゃんと同じだぜ」

「なるほどね」


冬休みも終わって早1週間が過ぎた土曜日の午前中。

私は八沙の家を訪れて、彼の家の道場で剣道の手合わせをしてもらっていた。

今の私は、耳飾りもお面もない…"素"の人間。

八沙を汗だくにする位には追い込めた様だが…まだまだだ。


「カッコつけるだけの余裕があると?」

「はっ…休ませてくれねぇなぁ…沙月は」

「軽口を叩けるだけ、まだまだってことでしょ?」


竹刀を構えながら言葉を交わす私と八沙。

互いに防具の中身は汗でびっしょり濡れていて…

湯気が立ち込めるのではなかろうか?という位。


そうなるほどに激しく打ち合ったのだが…

開始から数時間たった今も互いに一本も取っていないのだ。

まだ、決着はついていない。

そろそろ、一本取るか取られるかしたいのだが…


"ゥゥゥウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーーーーー"


「……」「……」


12時のサイレンが私達の勢いに釘を刺した。

私と八沙は、防具越しに目を合わせて頷くと、どちらからともなく竹刀を下ろして防具を脱ぎ捨てる。


「ぷはっ…スゲェ汗だな。これは風邪ひくぜ」

「お互い様だね。お風呂、入ってもいい?」

「あぁ、入ってこい入ってこい。もう溜まってるはずだぜ」

「ありがと」


防具を脱いで、それらを片付けて…竹刀を道場の壁にかけて、私は道場を出た。

目指すはお風呂場だ。


「あ、沙月ィ!」


その刹那、八沙に呼び止められて振り返る私。


「着替え、忘れんなよ?」

「あっ…うん」


まず最初の目的地は、鞄を置いてきた居間だ。

汗を拭いながら道場を出て、家まで繋がる細く寒い廊下を小走りで駆け抜ける。


「寒っ…」


温まりすぎたと言っても過言ではない体が一気に冷やされ、汗は冷水へ変わった。

廊下から八沙の家の中に入ると、今度は暖房の暑さにクラクラしてくる。

この寒暖差だけで体調を崩してしまいそう…

私はそう思いながら、居間に置かれた鞄を取って、風呂場へと急ぐ。


再びさっきの廊下に出て…脱衣所の扉を開けて中へ。

ずぶ濡れになった衣類を洗濯かごに放り投げ、用意されていたタオルを手にして風呂場へ足を踏み入れると、私はシャワーに手を伸ばして、キュッとレバーをひねってシャワーを出した。


もうもうと湯気が立っているお風呂。

そのまま入れば、火傷しそうなほどに熱いのだ。

だから、先ずはお湯を水で薄めながら…シャワーを浴びて、頭と体を洗ってしまう。


「沙月様。洗濯物を取りに来ました」


頭と体を洗って、さぁ湯船に浸かろうかという所で、八沙の小間使いになってる妖に声を掛けられた。

如何にもなおばさんといった風貌の妖で、八沙の家の家事をやったり、漁が忙しい時は港にも出て手伝うという…"なんでも屋"みたいな妖だ。


「あ、ありがとう。ずぶ濡れなんだけど…ごめんね?」

「いえいえ。バスタオルはここのを使って下さいね~」

「はいはい~」


適当に受け答えをしてから、湯船に浸かる。

少し薄め過ぎたのだろうか…?ぬるく感じるが、これはこれで丁度良い湯加減だ。


「ふぃ~」


天井の高い、"昔ながら"の風呂場の湯船につかって気の抜けた声をあげる私。

体も洗ってサッパリした所で、薬味が効いたお湯…良く体に染み渡ってくる。


「今時、こんな風呂も無いよねぇ…」


暫し気持ちよさに蕩けたあとで、ふとお風呂場の中を見回して呟いた。

石が敷き詰められた様な床の上にお風呂マットが敷かれた光景…

腰の高さくらいまでは水色のタイルが張りになっていて、あとは白い壁…

妙に高い天井と、背伸びしないと手が届かない位置にあるすりガラスの窓。

如何にも"昭和"な光景だ。


「平成も後少しだってのに」


静寂に包まれ…湯気に包まれた風呂場で独り言を呟く私。

ニュースでやっていたが、どうやら来年の4月で平成が終わるそうだ。

タイミングが良いのか悪いのか…

防人が大きく変わろうとしている時に、元号も変わるとは…不思議な縁を感じてしまう。


「あと2年」


防人元に告げられた、"時間"は2年。

私が高校を卒業したら…18歳になったら、防人元は私を防人の長に据えるのだと言った。

今思い返しても、何の冗談かと思うのだが…冗談ではないのだ。

彼は本気で、防人の長から退く気でいる。

あの殺風景な部屋を出て異境に隠れ、"自由気まま"に旅をするのだろう…


「冗談じゃ、ないんだよなぁ…」


湯船につかったまま、ボーっと天井を眺め、この間の事を思い出す私。

最近、ボーっとすることがあれば、脳裏に思い浮かぶのは、防人元と過ごした光景だった。

目の前には、大河ドラマの主人公といった風貌の…"菅原道真公"の姿をした防人元がいて、その前には、着物に身を包んだ私がいる。

実際にあった光景…実際に、乗り越えてきた光景…

今でも夢だったのではないか?と思う時があるのだが、間違いなく現実にあった光景だ。


「……」


たった数時間しか顔を合わせていない私に、彼は長を任せると言った。

彼に言わせれば、理由は色々とあるのだろう。

彼の言葉の通り…あの塔の護りを最初に退けた人間だったからだろうし…

私が、"人の心を持ったまま"妖に変化できたからというのもある…

更に邪推すれば、私の力…百鬼夜行に興味を持ったから?とも思う。

とにかく、彼は私に防人を任せると、決めてしまったのだ。


「冗談じゃ無いんだよなぁ…」


更にポツリと呟いた。

CAになる夢なんて諦めて…将来の事等ぼんやりとしか思ってなかった時に"コレ"だ。

防人元が私にくれた2年という時間…それは一見、長い様で余りにも短い時間だ。

2年間で、私は防人を率いる程の人間にならねばならない。

そうなるんだと思ってしまったとき、強く自覚した時、私は今の私に絶望していた。


今の私は"たまたま"強い側にいるだけ…

妖力だけを見れば、もっと強い存在は防人の中に大勢いるはずだ。

力ですら一番になれないのに、私と来たら、頭はからっきしで…妖術にも疎いときた。

ないない尽くし、知らないことだらけ…それではとても、長になるなんて言えない。

だから…この2年間で、少しでも"強く"、"賢く"ならねば…そう思った。


「強さと賢さ…それだけじゃないんだろうけども。あと2年…どうにかしなきゃ…」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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