248.何か月かに1度、私は着せ替え人形になる。
何か月かに1度、私は着せ替え人形になる。
そろそろ冬休みの終わりが見えてきた、ある平日のお昼過ぎ…
自宅の自室で、私は苦笑いに顔をヒクつかせながら、手渡された服を眺めていた。
「これは流石に変なんじゃないの?」
「そんなこと無いのです!絶対似合うのですよ!」
「まさか。私はマミちゃん人形じゃないんだから…」
マミちゃん人形…女の子であれば子供の頃に触った事があるであろうお人形さん。
私は無いのだけども…とにかく、そんな人形が着せられるような服が私の手にあった。
フリフリしたスカートに、ドレスと見まがうような襟付きシャツ…
それを持ってきたジュン君は、期待度満点と言った顔で私を見つめてくる。
「観念して着ることね。普通に似合うわよ沙月なら」
「沙月の反応も分からなくないけどもね。その格好なら、小樽にだっているわよ?」
「まさか。見た事ないんだけど」
「じゃ、札幌なら?」
「それならいるだろうけどもさ…」
穂花と楓花にまで外堀を埋められて…私は渋々といった風な感じで着替え始める。
自室の隅、ちょっとした仕切りに体を隠すと、着ていた部屋着代わりの和服を脱いで、パパっと貰った服に袖を通した。
「あー…確かに、着心地良いのかも」
「へぇ…なんか動きづらそうに見えるけどね」
「気を付けなきゃダメだけど、案外普通だ。これなら"動ける"や」
「そういう服では無いのですよ…沙月…」
どういう訳か…今更そんなことを考えても意味は無いと思う。
去年の秋、病院から退院した辺りから定期的に家で開かれている謎の遊び。
素の私に似合うであろう服を用意して、着せて感想を言い合うという遊び。
今の私は、実物大の着せ替え人形として3人に振り回されていた。
恥ずかしいのだけど…
身銭を切ってでも私用の服を買ってきて、期待感ある目で見られてしまえば…
3人の頼みを断れない私がいた。
「ほら、どんな感じ?」
着替えた私は、仕切りから姿を見せてクルリと回って見せる。
3人は「おぉー!」と歓声を上げてスマホを構え始めた。
「コスプレにしか見えないと思ったけど、そうでも無いのね」
「さっき普通にいるって言ってたじゃん…」
「そういうお店の人なんでしょ。別に、すれ違うくらいならジロジロ見られないわ」
「そうなのです。沙月なら…ちょっと見ちゃうかもですけど」
3人に写真を取られながら、私は呆れ顔を浮かべたまま…チラリと姿見の方に目を向ける。
姿見には、随分と西洋風な出で立ちになった私の姿がハッキリと映っていた。
薄紫色の髪に緑色の目、白い肌…顔の作りは日本人のそれだが…まぁ、確かに似合う。
自分で言うのも悲しいが、確かに、"アリ"な格好だ。
好んでやるかと言えば、絶対にNoだが。
「今年の文化祭はコスプレ喫茶でもしようかしらね?」
「そうね。理系クラスなら…まず同じクラスでしょうし。良いんじゃないかしら」
「ぐ…そうなったらこれよりもっとキラキラしたの着せられそうなんだけど」
「当然なのですよ!」
「当然って…えぇ…」
着せ替え人形と化した私に発言権は無いらしい。
疲れた顔を浮かべると、楓花が部屋の隅に置かれていた紙袋を取ってきて、中から新しい衣装を取り出した。
「じゃ、次はこれね?」
そう言って手渡されたのは、今来ているフリフリ系の衣装ではなく、シックで落ち着いたデザインにまとめられた衣服。
「お、これなら街に出られそう」
衣装をパッと見た私は、そう言って裏へ下がっていく。
今着ている服は、ジュン君には申し訳ないけど、流石に恥ずかしい。
その分、楓花がくれた衣装は外にも着て行けそうで…
「ん?」
服を着る時に、楓花が渡してきた服の違和感にようやく気付く私。
一応、そのまま服を着て…ボタンとかを留めたのだけども…
「楓花さ、これ、サイズ間違えてない?」
「まさか。私が沙月の服のサイズを間違うハズがないでしょう?」
「……ふ、不思議な自信をお持ちで…確かにそうなんだけどさ」
そう言いながら、仕切りから姿を見せると、3人はさっきよりも歓声を上げる。
「膝上のスカート、履き慣れて無いものね」
足元を変にくねらせた私を見て、穂花が言う。
そう、この服、落ち着いていてデザイン的には好きなのだが…
スカートの丈が短いのだ。
「制服でそれより短くしてる子だっているんだから」
「そうなのですよ」
「いやぁ、信じられないよね。ああいう履きこなし…」
「今しかできないのよ?沙月。こういう格好も楽しめるのは」
そう言いながら、再びスマホを向けてくる3人。
さっきよりは羞恥心が薄いものの…どうも足のスースー具合は苦手だ。
普段、制服のスカートは膝下、ちょい長めに履いてるし…家や本家では和服か袴なのだ。
こんな短いスカートに、慣れているわけがない。
「寒く無いの?世の女子高生は…」
「我慢してこそなのよ。沙月」
「信じられないわー」
足元の寒さに顔を顰めていると、自室の扉がノックされた後で扉が開いた。
「失礼します。お菓子とお茶を…ぷはっ…!!さ、沙月様!!お似合いです!!」
一番面倒くさいタイミングで現れたのは、沙絵だった。
私の姿を見るなり、お盆を落としそうになるくらいに爆笑し始めて…
いそいそとお盆を机に置くとスマホを取り出し写真を撮り始める。
「今しか出来ないですもんねぇ…いやぁ、良いセンスです!」
「沙絵さんも分かってくれますか?」
「はい!沙月様、この手のは一切着ないので…ん?あれはもう着てしまったのですか?」
「そうなのです。沙月には不評だったのですが…お似合いだったのですよ」
どうやら敵が3人から4人増えたらしい。
ジュン君にさっきの姿が収められた写真を見せられた沙絵は、呆れ顔で振り向いた。
「良いじゃないですか。お似合いだというのに」
「お似合いってね、私の好みが優先でしょ」
「折角用意していただいたんですよ?1日くらい、着て外に出たっていいじゃないですか」
私は引きつった顔を浮かべて顔を青褪めさせる。
沙絵がそんなことを言ってしまった今、3人が勢いづく事は必至なのだ…
事実、沙絵の周りにいる3人は、私の方を見てニヤニヤとした視線を向けてくる。
「ま、それはおいおいかしらね。私達と出かけるときはジュンの服ね」
「え?…」
「今着てる服は、正臣にでも見せてあげなさい。宿題手伝ってもらったんでしょ?」
「…え?」
ポカンとしてる私にそう言った楓花は、紙袋に入っていた、黒くもこもこなキャスケットを取り出して、私の頭にポンと載せてくる。
「頑張ってる分、遊ばないとね?」
楓花にそう言われた私は、頭に載せられたキャスケットを弄りつつ…
ニヤニヤとした目でこっちを見てくる4人の方に目を向けると、僅かに頬を赤く染めた。
「ま、た、偶になら…こういう格好をしても良いけどね。偶になら!」
お読み頂きありがとうございます!
「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。
よろしくお願いします_(._.)_




