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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
幕間:その伍
247/300

247.変わったか?と言われれば、頷くしかないだろう。

変わったか?と言われれば、頷くしかないだろう。

いつもと変わらないと思っていた京都で私の身に起きた出来事が、私を変えたんだ。


「なんかさ、変わったよな。沙月」

「見た目が?」

「分かってて言ってるだろ。突っ込ませたいのが見え見えだっての」


年が明けて早1週間…正月気分も、そろそろ抜けて来てもおかしくない土曜日。

午前中の間、家の道場に正臣を呼んで特訓に付き合ってもらって…

今はそれが終わった後、自宅の食卓で昼食を摂っている所だ。


「無駄ですよ正臣君。私達がどれだけ聞いても、沙月様は答えてくれませんから」

「なるほど…でも、こう…真面目になった気がしません?気のせいですかね?」

「それは、そうですね。正臣君のいう通りかと」


横から茶々を入れてきた沙絵と言葉を交わす正臣。

私は話題が"そっちの方"へと向けば、白を切るというか…

防人元と交わした秘密を、1つたりとも明かす気は無かったのだが、どうやら話題の方向性は、思っていたのとは少し違う方向へ向かった様だ。


「今日の沙月さ、こういうと偉そうだけど…前よりも殺気があったんだよな」

「そうだった?いつも通りだった共うけど」

「全然。今日の沙月なら、ウチの部員全員やれるかもしれない。そんな勢いだったぞ」

「それは…ありがとうと言うべきかな?…正臣には負けるでしょうけど」

「それが大真面目だったんだよ。必死だったって」


正臣はオムライスを突きつつ、僅かに悔し気な顔を浮かべる。

今日も"いつものように"圧倒されていた…気がするのだが、正臣的には満足ならない部分があったのだろう。

私はそんな顔を見て口元を綻ばせると、"耳飾り"に触れて見せた。


「ズルしてるからだよ」

「したってよ。沙月、真面目に部活出て欲しいな。ズル無しでも男子に混じれるぞ」

「それは…」

「あれ、いつもの様に直ぐに否定しないんですね?」


良い淀んだところに沙絵の追撃。

私は沙絵をジトっとした目で見つめると、驚いた顔を浮かべる正臣の方に向き直る。


「自分で言っておいてビックリしてるね」

「そりゃするだろ…やっぱ、変わったな」

「うん…そうだね。なら…幾つかお願い聞いてくれたら出てあげても良いかな?」


私でも、私の変化に驚いている位なのだ。

どれ程否定したくても、虚勢を張って斜に構えていたくても…

"そんなこと"よりも今は愚直に"強く"なりたいし、もっと自分を"深め"たい。

そんなことを思うなんて…馬鹿な私には、一生に一度しか来ないおかしな時期なのだ。

だからこそ、今の私は"飢えて"いた。


「何さ、お願いって」

「宿題、見せて?」


緊張した面持ちで尋ねてきた正臣は、目を点にしてスプーンを落す。

珍しく、沙絵ですらポカンと口を開けたまま固まっていた。


「前言撤回したくなってきたな。まさか手を付けてないんじゃ…」

「そのまさかだよ。見せてっていうよりも、教えて?って方が正しいかな?」

「…沙絵さん、俺、何かいつも以上に振り回されてません?」

「そうですね。私も同じですよ…」


私の言葉に振り回される2人。

勿論、素でこんなアホな事はせず、"狙って"やっているのだが、こういう反応をされるとちょっと悲しくなる。


「と言ってもなぁ…俺、教えるのは苦手だぞ?その手のは穂花とか楓花とかに…」

「正臣ってさ、変な時に朴念仁を発揮するよね」

「え?…あ、あぁ…そういう事」

「そういう事。丁度良いでしょ?正臣も苦手克服出来て!」

「強引なこじつけって気がするんだけど…まぁ、いいか。食べた後、早速やるか?」


正臣に尋ねられた私は、ほんの少し考える素振りを見せると、首を横に振った。


「明日で良い?」

「明日。良いけど…」

「今日は別の事に使いたいの」


そう言って、シレっと明日まで正臣の身柄を確保する私。

我ながら独占欲が強い女だと思ってしまうが…実際、そうなのかもしれない。


 ・

 ・


「正臣のお勧めがあれば、教えて欲しいなぁって」

「なるほど」


昼食を終えて、"身なりを整えた"私と正臣がやって来たのは、マリーナベイオタルナイに入っている大きな本屋だった。


「穂花と楓花はさ、この辺頼らなくたって大丈夫なタイプじゃない?」

「確かに。あの2人、その手の本に頼ってるイメージないものな」

「正臣はその辺、抜け目ないでしょ?」


私達がやって来たのは、色々な参考書がズラリと並んだ参考書コーナー。


「俺が持ってるの教えろって?」

「ううん、違う違う。同じの買うのも芸が無いからさ、シェアしようよ」

「シェア…なるほどね」


ズラリと並んだ参考書たちを前にして、正臣は意図を理解してくれたらしい。


「科目は?沙月、来年は理系だっけ文系だっけ?」

「理系だよ。皆と同じ。理系なら、後で文系!ってなってもいいでしょ?」

「まぁ、そっちの方が科目多いもんな」

「それに私、日本史とか、古文漢文は苦手じゃないし」

「確かに…」


苦笑いを浮かべながら、理系科目の参考書を適当にとって眺める正臣。

そう、勉強嫌いな私だが、古文や漢文、日本史といった類の科目は苦手ではなかった。

もちろん、その手の勉強をしているわけでは無いから、点数が良いわけでもないが…

その辺りの科目に拒否感を感じないのは、家柄のお陰だろう。


「英語に数学に化学に物理。そっちが致命的だから、その辺を…」

「理系選択とは思えないんだけど」

「今に見てなさいって」

「今年の冬は酷い雪になりそうだな…ぃでっ!」


冗談を言った正臣の肩をギュッとつねってやる。


「ま、その辺なら…俺が買おうか迷ってやめたやつとかでもいいか?」

「全然。拘りとかないし」

「そう。なら…数学はこの辺かなぁ」


そう言って、正臣は数学の参考書を幾つか取って私に手渡してくる。

いきなり3冊…行き成りこんなには要らないのだけど?と言う目線を彼に向けると、正臣は小さく笑い返してきた。


「中身位は見てみろよ。楽そうなの選べばいいさ」

「はいはい」


正臣に言われて、渡された参考書の中身を確認し始める。

1冊目は小難しそうですぐ眠くなりそう…2冊目は、そこそこ楽そうだけど内容が薄いと見え…3冊目は…


「これかな?」


3冊目の参考書を正臣に見せると、彼はボツになった2冊を本棚に戻してくれた。


「よし…この調子で、残りも決めちゃおうか」

「お願いね」


正臣は次の科目の参考書に手を伸ばす前に、私をチラっと見やると、クスッと小さく笑う。


「こんな沙月、穂花と楓花が見たらさぞ騒ぐんだろうな」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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