246.狐面越しの景色は、去年と違う。
狐面越しの景色は、去年と違う。
いや、見えてる光景は、去年と大した差も無いのだけども。
こう、感じ方?というのだろうか、人と妖の在り方について色々と"知ってしまった"結果、眼下に見える"当たり前"の景色は、どこか不思議で…奇妙に見えた。
「で…雪も相変わらずか」
狐面越しに空を見上げ、雪がチラつく様を見て一言。
藤美弥神社の鳥居の上に腰かけて、眼下に初詣の参拝客を眺めてどれ程経っただろうか。
「寒いのに、良く来るねぇ…」
毎年恒例になった、藤美弥神社の"警備"。
この街唯一の出店が出る神社…今年の正月も、多くの参拝客で賑わっている。
「出店効果…なのかな?美味しいもんね…こういう時の食べ物って、何でもさ…」
私は狐面を被って紅白の巫女服に身を包み、袖に"警戒中"の腕章を付けて…
一般人には見えぬ姿で周囲を警戒していた。
人に見えぬ姿で警戒するのは、妖達の行動だ。
基本的に入舸の威光がある中で暴れる命知らずはいないのだが…
新年ともなれば、酒に酔って浮かれて暴れる輩が、たまに居るのだ。
(人も妖も、変わらないんだがなぁ…)
眼下に見えるのは、人の流れ。
そこから少し視線を外して、人知れぬところにポツリとある、雪が踏み固められた細い通路を行けば…妖が縁日の如く店を連ねて、遊び歩いている姿が見えてくる。
そちら側…妖達がいる方に目を向け、賑やかな明かりが僅かに揺らぐのを確認すると、ヒョイと鳥居から飛び降りた。
「…っと」
誰もいない場所に着地して、周囲の人に当たらぬように歩きはじめる。
今の私は人に見えぬ身…当たれば、それなりの"面倒事"になってしまう。
スルリスルリと人の間を縫っていき、獣道のように雪が踏み固められた場所へ入って少し歩くと、私の周囲には最早妖の姿しか見えなくなっていた。
「こんばんは絵描き様!あけましておめでとうございます!」
「こんばんは。あけましておめでとう」
私の姿に気付いた妖と挨拶を交わし、妖達で賑わう通りを歩きはじめる。
(これが結界の中だったとはねぇ…じゃ、正臣にはただの獣道に見えてたわけだ)
何故、妖達が使っている"出店の様な人工物"が間近にいる人々の目から見えぬのか?
人と妖の"分水嶺"の謎…長年、この光景が当たり前だった私にとっては不思議にすら思わなかったその謎も、今となっては簡単に答えが導けてしまう。
この空間には、沙絵達"入舸家の妖"の妖力を強く感じる。
ここは、沙絵達が力を合わせて作った結界の中なのだ。
だから、堂々と電気を使っているし、火を使う出店すらある…
去年までの私では、お面を半分外せば"中途半端にしか見えなかった"ワケだ。
「お!沙月様!こんばんは!お疲れ様です!」
「ん?おぉ、絵描き様!お疲れ様です…あけまして、おめでとうございます!」
「絵描き様!お疲れ様です!」
出店の並ぶ通りを歩けば、道行く妖達全てが私を「様」付けで呼んでくる。
それにムズ痒さを感じながら、私は彼らに挨拶をして回った。
「はいはい、こんばんは。あけましておめでとう…でも皆。様は止めてよ?様は…そんなに偉くないんだから」
苦笑いを貼り付けながら、様付けを訂正しようとするが…
妖達は皆、笑いながら「何ご冗談を!」と言って拒否してくる。
様付けする位敬っているのなら、言う事を聞いて欲しいのだけども…
「よぉ、絵描きっ子。ご苦労なこったな」
更に暫く進むと、キャンプ椅子に座り込んで酒を飲んでいた妖に話しかけられる。
毎年、なんだかんだ"世話になる"事が多い老いた鬼の妖だ。
「どうも。あけましておめでとう」
「おう、おめっとさん。いやぁ、絵描きっ子。偉くなったなぁ…大したもんだ!」
「大した事してないんだけども…」
「何を謙遜してやがる!聞いたぜ?京都での武勇伝!」
「武勇伝!?だ、誰からそんなことを!?」
「お頭よ。防人の長をその目で拝んできたらしいじゃねぇか!」
酒瓶を片手に顔を真っ赤にして叫んだ老鬼。
近くで話を聞いていた妖達が皆、私の方を見てギョッとした顔を浮かべる。
「マジで!?」「防人元…ってあの?」
「そうじゃぞ!じゃからなお前等、羽目外し過ぎんなやぁ!」
「「は、はい!!」」
私に気付いて顔を青くして、酔いが覚めてそうな妖を見て、どこか申し訳なく感じる。
「して、絵描きっ子。ウチのお頭、中にいるか?」
「あー、八沙は…うん、今は休憩中だから、中にいるよ」
「おし。ならば挨拶さ行ぐかぁ…じゃ、警邏頑張れよ」
「はいはい」
ヒック!と、ステレオタイプなしゃっくりをしながら、老鬼が椅子から立ち上がった。
酒瓶を片手に彼が向かうは藤美弥神社の外にある警備員詰所…入舸家専用の詰所だ。
私はフラフラ歩く背中を苦笑いを浮かべながら見送ると、再び通りを歩きはじめた。
(酔いどれが多いけど…まぁ、平和か)
一通り、妖の出店が出ている通りを見て回って…
結構な数の妖と挨拶を交わし、通りの中間地点に戻ってきた。
通りの中間地点…妖通りが一番多いこの場所に出ていた出店の前で、ふと立ち止まる。
「焼きそば…」
その出店は、焼きそばの出店。
去年、正臣の異常を知らせてくれた鬼がやっていた出店だ。
その鬼はもう、この世にはいないのだが。
「ん?おぉ!沙月様!どうかしましたか?」
「いや、焼きそば…売れてる?」
「えぇ!お陰様で!」
「そう。それは良かった…美味しいもんね。ここの焼きそば」
「人気なんすよ!レシピは"アイツ"のモンっすからね!」
私の視線に気づいた焼きそば屋の妖と言葉を交わすが…互いに"彼"の事は口にしない。
私は出店の垂れ幕を見回して、焼きそばが1つ500円であることを知ると、巫女服の裾から財布を取り出した
「1つ貰おうかな」
「まいどっ!…でも、いいんですかい?お仕事中では?」
「私の目の前で暴れられる命知らずが居るなら、受けて立とうと思ってね」
「そりゃ…そんなん、いるわけないっすね!はいっどうぞっ!」
「ありがと」
5百円玉と引き換えに、パックに入れられた焼きそばと割り箸が手渡される。
中身は…明らかに多い気がするが、それは彼が気を利かせてくれただけだろう。
「飲み物もありま…あ」
「?」
彼は更に気を利かせて飲み物もくれようとしたのだが…
気まずそうに手にしたものを見せてくる。
彼が手にしていたのは、缶ビール…
流石に受け取れない私は、焼きそばを頬張ったまま笑みを作って、手を振って見せた。
「んっ…大丈夫大丈夫。戻ればちゃんとあるから。ありがとねっ!」
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