245.頭の中は混乱したままだが、終わった事をウダウダ言う様な真似はしない。
頭の中は混乱したままだが、終わった事をウダウダ言う様な真似はしない。
どれだけ言葉にしようとも、過去に戻って変えられるわけでは無いからだ。
そんな意味のないことをするくらいなら、先の事を考える…考えるけども…
ウダウダ思いに耽る事くらいは、やっても許されるだろうさ。
「溜息ばかりですね」
関空のラウンジの窓越しに、飛行機の姿をジーっと眺め…今日何度目かの溜息をついた。
そんな姿を"余所行き"の格好で近づいてきた沙絵に弄られる。
「そりゃねぇ…」
沙絵と同じく、同じく"余所行き"の格好をした私…
これから家に帰るのだから当たり前だが、この格好の下は様変わりしているのだ。
正臣に…穂花や楓花、ジュン君辺りには、何があったのと詮索されるのは必至だろう。
「そう言って誤魔化しても、沙月様が話してくれないのでは力になれませんが」
「話せないね。こればかりは…私だけの問題さ」
「そうかい。親にも話せない事が出来るとはねぇ…」
「そんなに…あの真ん中の塔で何かがあったって事だよな?」
「母様…父様…」
傍にやって来た沙絵に続いて、親にも弄られる私。
今日は12月30日のお昼過ぎ…今日ここまで、私はあの場所であったこと、防人元に言われたことを、誰にも話していなかった。
「防人元との間に何かあるんでしょうね。きっと」
「だろうねぇ…でも、そんな格好になったんじゃ、ちょっと心配さね」
「アハハ…格好の事を言われたら弱るかな…こうなるとは思わなかったんだし」
今も、暗に"話せ"と圧力をかけられている…のだけども、私はそれに屈しない。
かれこれ、2日間…事あるごとにその話題が来るのだけども…
「まぁ、見た目が変わっただけさ。体の異変とか、そう言うのは無いから。良いじゃない?イメチェンってことで」
そろそろ放っておいてくれても良いのではないだろうか。
適当に誤魔化していると、"部外者"たる父様がポツリと言った。
「俺は良く知らないけどさ。今回はなんか騒がしかったよな」
防人の家系の出ではない父様らしい感想だ。
普段は家々のゴタゴタを気まずそうに見ながら、"似た境遇"の大人達と食堂や京都の何処かで集まって、他愛の無い世間話をして時間を潰すことが多いのだが…
今回は修行絡みで色々と小間使いをやっていたらしく、顔に疲労の色が見え隠れしている。
「まぁねぇ、色々あったもの。忙しかったよねぇ」
「それとこれとは無関係か?沙月」
「関係がない訳じゃないけども。大人の修行不足は…知らないね。大人の問題さ」
「そうか」
「色々とあったけど…言えないのは個人的な話。言わなくたって何も影響は無いの」
私は3人にそう言うと、丁度よくポケットに入れていたスマホがブルブルと震えはじめた。
「っと、電話だ」
このタイミング…ラッキー!と思いつつ、3人から離れてラウンジの隅へ。
画面を見ると、そこに出ていた名前は、久しぶりに見る名前だった。
「もしもし正臣?」
「沙月!…今、大丈夫?」
「全然。寧ろ良いタイミングだったよ。どうかした?」
「あぁ、昨日帰ってくるって聞いてたけど…そっち大雪だろ?それで、今日帰ってくるのかなって気になって」
ここ数日、いや、本家に居る時はメッセージでしかやり取りしていなかった私達。
恥ずかしい気持ちを抑えた様な、上ずった正臣の声を聞いた私は、口元をニヤリと…悪戯っぽく歪めた。
「帰れるよ。今もう空港…それだけならメッセージでも良かったじゃん?ねぇ?正臣?」
「あ、あのなぁ…態々言わせる気か?」
「声が聞きたかったってね?分かってるって。私も同じ気持ちだから」
「全く……」
正臣の声色で、彼がどういう顔をしているのかが簡単に想像出来てしまう。
私はスマホを手にしたまま笑うと、正臣の溜息が聞こえてきた。
「まぁ、それとあともう一つ気になって電話したんだけどさ」
「ん?」
溜息が止まって、元の調子に戻った正臣が怪訝そうな声色で言った。
この流れは…"思い当たる節がある"私は、さっきとは別の意味で口元を歪める。
「元治から写真送られてきたんだけど。どうしたんだ?あの格好」
「あぁ…」
やはり"その話題"だったかと、私は引きつった顔のまま肩を落とした。
元治から…そうだった、モトと正臣達は繋がっているのだった。
私に変化があったとなれば…"言える範囲"で彼らにも伝わるのが常だ。
「その辺はね、秘密かなぁ。見た目だけ変わった様なものだと思っててよ」
「やっぱそうか。いや、元治からな?訳を話してくれないんだって言われてて」
「正臣越しにってか。親にすら言ってない事は言えないね」
「そうか…そうだろうな。ただ…」
「?」
「前みたいに、ヤバい感じにはなってないんだよな?」
正臣の声が僅かに小さくなる。
私はその声を聞いて一瞬目を潜めたが、すぐにフッと笑い飛ばした。
「全然平気。痛い目にも遭って無いしね。予定通り、元旦は藤美弥家の警備に出れるよ」
「そうか。それなら…良いんだ」
「ありがと。っと、そろそろ搭乗時刻だから、また後でね」
「あぁ…あ、後で?」
「帰り、ちょっと夜よ。"京都土産"を渡しにさ」
「そういうこと…京都土産って…珍しいな。普段は千歳で買ったのばっかだったのに」
「良い変化でしょ?ちょっと良い事があったのさ」
「はぁ…?」
「それじゃ、また後で!」
向こう側で困惑する正臣に、ニヤニヤと笑いながらそう言って電話を切る。
ふと目に入ったラウンジの時計を見れば、もうすぐ搭乗時刻。
私はスマホを上着のポケットに仕舞いこむと、"入舸家"が集まって座っている場所へと戻っていった。
「今の電話は、正臣君ね?」
「そうだけど」
「ほー…そう」
母様から"余計な"視線と言葉を浴びながら、自分の鞄に手を伸ばす私。
正臣と付き合っているのは"入舸家の常識"なのだけど、事あるごとに弄りが入るのだ。
「さぁ、皆さん。そろそろ時間ですよ。行きましょう」
ジトっとした目を母様に向けると、丁度時計を眺めていた沙絵が"皆"に向けて声をかける。
"入舸家"…家族+妖という、大所帯で、皆"黒い正装"という中々に怪しい集団は、沙絵の声を聞いて一斉に動き始めた。
「沙月様も」
「あ、うん」
周囲の人たちが思わず目を向けてしまう光景を眺めていると、沙絵に声をかけられる。
すぐに私も"その光景の一部"になると、ゾロゾロとラウンジを後にして、搭乗口へと歩きはじめた。
「沙月様、これで最後にしますが…いつか話してくれる日は来るんでしょうか?」
最後尾を歩きながら、沙絵がさっきの話をぶり返してくる。
"これで"最後"…それを聞いた私は、防人本家であったことを思い返しながら、小さく首を縦に振って見せた。
今は話せないが…私が18歳になった時には、嫌でも話す時が来てしまう。
私は苦笑いを浮かべながら沙絵の方に顔を向けると、サラリとこう告げてやった。
「再来年には話せるかな。その時まで、沙絵達が覚えていようがいまいが…ね…?」
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