243.こんなにも、将来について考える事になるとは思わなかった。
こんなにも、将来について考える事になるとは思わなかった。
私と同じ年頃の人ならば、分かってくれるだろうか?
考えなければならぬと分かっていても、どこか先回しにしてしまう気持ちを…
「境界線が欲しい…か」
まとまり切らぬ思考のまま、思いついたままに言った私の言葉を反響する防人元。
私は自分の言った言葉を思い返して、ギリッと奥歯を噛み締めながら、彼の反応を待った。
「入舸沙月。お主は…そうだな…道が、欲しいのだな?」
「道…ですか」
「あぁ、そうだ。こうせよという示しだ」
「そう…でしょうね」
「そして…その一方で、そんな決められた道には従わぬという反抗心もある。違うか?」
「……そうですね」
どこまでも、私の気持ちは防人元に見透かされているらしい。
背筋にビリビリとした緊張を感じたまま、優しい表情を崩さない防人元を見つめていた。
防人元は、私の答えを聞いて少し間を置いてから、再びゆっくりと口を開く。
「それと同じで、妖が…万物の"進化先"であるという事も理解しておるのだろうな?」
「そうですね。頭の中では、理解できています」
「一般人に憧れていると言ったが、最早、それは憧れで終わるという事も?」
「はい。防人の枠でしか生きられない…そう思っていますが…すいません」
「良いさ。物分かりが良いが、素直じゃないな。天邪鬼の血が邪魔してるのか」
「どうでしょう?思い当たる節は無くは無いですが…」
防人元の軽い冗談交じりの言葉に、軽口で返す。
それが虚勢に近い態度であること位、すぐにバレるだろうに…
防人元はそんな私の言葉を受けて軽く笑うと「そうだろうな」と言って、姿勢を崩した。
「ま、今はそれでいい。思う存分、矛盾に頭を悩ませろ。妥協点を見つけるがいい」
その言葉に頷くと、防人元は優しげな笑みを浮かべたまま…
スッと立ち上がり、窓の傍へと歩いて行く。
「それにしても…この雪、綺麗ではないか。覗いてみたか?」
「いえ」
「来てみなさい。ここからの景色は…良いものだぞ?」
私は急な話題転換に何とも言えぬ顔を浮かべつつ、正座から立ち上がって…
プルプルと痺れる足を何とか動かして、彼の傍まで歩み寄った。
まだ、この間みたいにずっと正座しっぱなしではなかったから歩けるが…痛い。
防人元はそんな私の様子を見て笑うと、少し呆れたように言った。
「だから楽にすればよかっただろうに」
「そうは…言ってもですね…」
顔を赤くしながら返すが、まだ足がプルプル震えたまま…
窓際まで行って、大きな丸窓から外を見てみれば、そこから見えたのは、ここが洛中…
街中だと思えぬ程の景色だった。
眼下には真っ白に雪化粧した中庭が見えて…その周囲を本家の贅沢な屋敷が囲っている。
目線を上に向ければ、大昔のお城の中にいる様に、屋敷が積み重なった様子が見え…
更に上に目を向ければ、都会の情景を隠すかのように雪化粧した太い幹の木々が見えた。
まるで、ここだけ異境の中にいるみたいだ。
「晴れていれば、遠くに雪化粧した山も望めるのだがな」
「…それは、贅沢ですね」
「四季折々…近頃はさほどハッキリせぬが…まぁ、景色を見て退屈はしないな」
丸窓の前に並んで言葉を交わす。
そのまま無言で、暫く景色を眺めていると…不意に、防人元がポツリと言った。
「1つだけ道を授けてやろう」
私の方を見ず、景色を眺めて言った一言。
私は目を丸くして防人元の方に顔を向けるが、彼はこちらを見ずに続けた。
「18まで…子供と言える間は、存分に悩むがいい」
「18まで…ですか」
「そうだ。それ以降、お主は防人を率いるのだ。人の上に立つ準備をしておけ」
「……は?」
防人元に言われた言葉に、私はポカンと口を開けて固まってしまった。
今、彼は何と言ったのだろう?私に防人を率いろとか言ってなかったか?
「わ、私に…?なんと…?」
「防人を率いろと言った。聞こえなかったか?」
「…なんの冗談を」
「冗談など言わないさ。防人も変わる時が来た。ただ、それだけの事」
唖然としている私を他所に…
防人元は飄々とした様子でそう言うと、そこでようやく私の方に顔を向けた。
「長らく"この世界"を見て来たが、そろそろ私も"隠れる"時が来たと、常々思っていた」
「待ってください!…防人は、貴方がいないと…!」
「そう思うか?私の姿を見た者等、最早この現代に置いては数える程しかおらんのだぞ?」
「……でも」
「なぁに、心配には及ばぬよ。私が"こうなった"時よりも妖力があるんだ。準備期間もやる。それに…さっき言っただろ?道が欲しいと」
私は唖然としたまま、ギリギリと奥歯を噛み締めて口元を引きつらせる。
道が欲しいと言っても、まさかそんな道を授けられるだなんて思わなかった。
いや、思うはずもないだろう!
落ち着いた頭の中が一気に騒めきたった頃。
私の気持ちを見透かしたような顔を浮かべた防人元は、ようやくニヤリと口元を綻ばせる。
「この塔に入った人間は、お主が初めて。それに、塔を護る妖を百鬼夜行に加えただろう?その事実だけでも十分だ」
何も言えなくなった私に、防人元は諭すような口調で言った。
「あぁ、勘違いするなよ?妖力は強いが…決して一番上ではないぞ?」
「はい。それは重々…ですが…それなら」
「私とて同じだ。言っただろう?お主は"私がこうなった時"より妖力が強いと」
「……はい」
「ただ、お主は"人の身で初めて"この塔に足を踏み入れた。それだけだ。それが出来る者が現れれば、防人を託す気でいただけの事。準備期間は2年もある。お主には長く短い2年になるだろう」
そう言いながら、防人元は着物の裾から何かを取り出す。
それは、さっき貰った"耳飾り"よりも数段上の妖力を貯えた"耳飾り"。
私ですら、全身がゾクリと来てしまう程の代物…
「これは…?」
「餞別だ。まだ、私は消えないから、少し早いが」
そう言いながら、手渡された耳飾り。
「着けてみろ」
「はい…」
言われるがまま、既に着けていた耳飾りを外し…貰った耳飾りを付ける。
「ん…」
付けた瞬間、防人元の"途方もない妖力"が流れ込んできて…
顔を青くして立ち眩んだが、なんとか持ちこたえて力を体に馴染ませた。
「倒れぬとは大したものだ。2年後まで、なるべくそれを付けて過ごし放すな」
「はい…わ、わかりました…」
「変革が必要な時…"下準備"はやる。お主はその時まで、爪を研いでおいてくれるか?」
「はい…」
私はクラクラする程の妖力を浴びながら、言われるがままに頷く私。
もう、後戻りできない…そんな所は、とっくに越えてしまっていた。
どこかで自覚して、先延ばしにしていた自分を呪いつつ…
私は私に馴染んできた"強大な妖力"に酔いしれて、雪化粧をした窓の外に目を向ける。
「…やれるだけ、やってみますよ」
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