241.まさかこんなに早く、この場所に戻って来るとは思ってなかった。
まさかこんなに早く、この場所に戻って来るとは思ってなかった。
明かりがついたままで、"忙しそうな"空気は感じるのに、本家の中では誰ともすれ違わず…
私はすんなりと中庭に出て、防人元の棲み処である"夢幻回廊"へとやってきた。
(まさかもう一回押し通れなんて、言われないだろうね?)
"仮設置された"であろう扉に手をかけて、一度"反応"を見る私。
以前は勢いのままブチ破って派手に暴れ回ったが…
その時に感じた敵意ある妖気は、今の私には感じられない。
どうやら私は、"通って良い者"として登録されている様だ。
「もう、警戒する必要は無いのだぞ?」
扉を開けると、私が来ることが"分かっていた"かの様な様子の以津真天に出迎えられた。
「やっぱりそうでしたか。敵意を感じないと思えば…」
「入舸沙月、お主が1人で来れば問題ない。それ以外だと、1戦交える事になるがな」
「へぇ…覚えておきましょ」
中に入って扉を閉め、私と以津真天は、並んで暗い廊下を歩きはじめる。
「私が居ても、ダメなものはダメなんですね」
「そういう仕掛けだからな。ところで…さっきはすまなかった。助けに行けなくて」
「やっぱり気付いてたんですね」
「あぁ、元様が異変に気付いて我々に準備をさせていたのだが…途中で止められてな」
「なるほど。それはおそらく…あの視界越しに、鬼沙の気配を感じたから…とか?」
「当たりだ。あの男、お主が気付くよりもっと前から、"近くにいた"のだぞ?」
「へぇ……もっと、前から…」
それを聞いて、頬を染めて、少し顔を引きつらせる私。
思い返せば、見事なまでの"やられっぷり"だった気がするから…少々気恥ずかしい。
以津真天はそんな私の様子を見てフッと鼻で笑い、手元にボッとオレンジ色の光を宿す。
「この程度からで良いから、お主も"妖術"というものに慣れねばなるまいな」
「オレンジの光を灯すだけ?…あぁ、色か」
「そうだ。赤か黒のしか宿せぬだろう?隠す様の金色か…その色を好きに弄る所からさ」
彼はそう言いながら、オレンジの光で通路の先を照らした。
「そして、妖術を知らねば…いとも簡単に騙されるものよ。こういう風に、な」
私は目の前の光に照らされた光景を見て目を丸くする。
塔に入ったばかりで…確か防人元の部屋は最上階…だと思っていたのだけども、気付けばすぐ目の前に、見覚えがある"扉"が見えていた。
「階段なんて…無かったけど?」
「人の認識…いや、妖術を知らぬ者の認識など容易く騙せる。"思い込み"の力は強いのさ」
驚く私を見て、気を良くした以津真天は、防人元の部屋の、少し前でピタリと足を止める。
そんな彼の様子に首を傾げて見せると、彼は顎を軽くしゃくって先へ行けと促してきた。
「2人きりで話したいそうだ。丁度、我々には"稽古の師範代"という仕事もあるしな」
「なるほど…ありがとう。案内してくれて」
「構わない。では…」
そう言って私に1つ、ペコリと会釈をした以津真天は、クルっと踵を返して暗い廊下の中に消えていく。
"妖術"の誤魔化しから解放された今、彼が戻っていく通路は、通って来たそれとは全然違う光景だった。
「妖術…ね」
以津真天を見送ったまま立ち止まっていた私はそう呟くと、扉の前に立って声をかける。
「入舸沙月です」
「あぁ、来ると思ってたよ。入ってくれ」
声をかけると、緊張感の抜けた防人元の声が返ってきた。
私はその声を聞いた後で、ゆっくりと扉を開けて部屋の中に足を踏み入れる。
「やぁ」
相変わらず何も無くて暗い殺風景で…広い部屋。
窓の外は、さっきの吹雪のおかげか、見事に雪化粧した庭が望め…
雪明かりのせいで、この前来た時よりも部屋は僅かに明るく感じられた。
「座ってくれるか」
「はい…」
防人元…いや、"菅原道真公"の姿をした彼の前に、ポツリと置かれていた分厚い座布団に正座する。
「楽な姿勢で良いんだよ?足が痺れるだろう」
「……では、お言葉に甘えて」
正座から胡坐に切り替えると、防人元はニコリと優し気な笑みを浮かべた。
それを見た私は、背筋が薄ら寒くなったが…顔にはそれを出さずに押し黙る。
「特に呼び出したつもりも無いのだけど。良く、私の気持ちを察してくれた」
「察したつもりはありませんよ。あの光景を見た、感想が欲しかっただけです」
「感想…随分と刺激的な光景が見えたのだが…バラバラになった時の事を話そうか?」
防人元はそう言ってニヤリと笑うと、口を閉じた私を見て更に笑い声を上げて…
顔の前で軽く手を振って見せた。
「冗談だ。君が尋ねたいのは、あの光景を見た上での、私の気持ちだろう?」
「…はい。そうです」
「外国人をどう思うか、我々防人を裏切った入舸鬼沙…いや、鬼沙というタダの鬼についてどう思うか。気になったのは…概ねその辺りか」
「はい」
防人元は、私の気持ちが手に取るように分かっているらしい。
私の全て見透かしている…そんな目で見られている様に感じてしまう。
私は背中に嫌な汗を感じながらも、自分の気持ちのままに、防人元の質問に答えていった。
「まぁ、あの光景を見せられれば、気になるだろうな。それを律儀に聞きに来る当たり…今、お主は心の底から、"迷っている"。違うか?」
「迷っている…というと?」
「身の振り方についてだ。思うところはあるが、私の意向を気にしている…そういう風に見て取れる」
「……そう、でしょうね。はい。そうだと思います」
外堀を埋められてから、本心を突かれるこの感覚。
私は不思議な心地よさと、不気味な得体の知れなさの両方を感じながら頷いた。
「そうだろうな。耳飾りを着けている限り、私の目と耳を常に感じている…見ていてそう思っていた。気にしすぎだと言っても、それは無理な注文だろう」
「そうですね。折角なら、話しかけてくれた方が、まだやり易いです」
「ふははははっ!!そんな冗談を言える位なら、心配もいらないと思っておったが…」
防人元は私の言葉を受けて豪快に笑って見せると、フッと笑みを消して真顔になる。
「話しかけでもしたら、お主は私の操り人形になってしまうではないか」
そう言って、防人元は私をジッと見つめてきた。
私は口を開けず、ただ、黙って彼の目を見返すしか出来ない。
「ありのままで…という意味が、どうやら伝わっていない様だな」
「…そう、でしょうか」
「あぁ、私の目を気にしすぎている。お主よりも、防人という組織が"上"にあるのだ」
「それは…」
「そんなことを気にせず、お主の"本心"を見せて欲しいのだよ」
「……本心…ですか?」
「あぁ、言っただろう?私は私の"自由"を説くが。お主はお主の"ありのまま"でいい…と」
「はい」
「お前の考えは、今の防人と同じなのか?1から10まで…今の防人のままでよいのか?」
考えがまとまらずに戸惑っていると、防人元はそんな私に優しい笑みを向けてきた。
「だろう?お主には"我"がある。それを私に見せて欲しい、聞かせて欲しいのだ」
その言葉を聞いて、眉を潜めたが…彼はそんな私に「何か言ってみな」と言いたげだ。
「そうですね…急に言われても…答えに窮してしまいますが…それでも、良いのなら…」
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