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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
伍章:境界線上の妖少女(上)
241/300

241.まさかこんなに早く、この場所に戻って来るとは思ってなかった。

まさかこんなに早く、この場所に戻って来るとは思ってなかった。

明かりがついたままで、"忙しそうな"空気は感じるのに、本家の中では誰ともすれ違わず…

私はすんなりと中庭に出て、防人元の棲み処である"夢幻回廊"へとやってきた。


(まさかもう一回押し通れなんて、言われないだろうね?)


"仮設置された"であろう扉に手をかけて、一度"反応"を見る私。

以前は勢いのままブチ破って派手に暴れ回ったが…

その時に感じた敵意ある妖気は、今の私には感じられない。

どうやら私は、"通って良い者"として登録されている様だ。


「もう、警戒する必要は無いのだぞ?」


扉を開けると、私が来ることが"分かっていた"かの様な様子の以津真天に出迎えられた。


「やっぱりそうでしたか。敵意を感じないと思えば…」

「入舸沙月、お主が1人で来れば問題ない。それ以外だと、1戦交える事になるがな」

「へぇ…覚えておきましょ」


中に入って扉を閉め、私と以津真天は、並んで暗い廊下を歩きはじめる。


「私が居ても、ダメなものはダメなんですね」

「そういう仕掛けだからな。ところで…さっきはすまなかった。助けに行けなくて」

「やっぱり気付いてたんですね」

「あぁ、元様が異変に気付いて我々に準備をさせていたのだが…途中で止められてな」

「なるほど。それはおそらく…あの視界越しに、鬼沙の気配を感じたから…とか?」

「当たりだ。あの男、お主が気付くよりもっと前から、"近くにいた"のだぞ?」

「へぇ……もっと、前から…」


それを聞いて、頬を染めて、少し顔を引きつらせる私。

思い返せば、見事なまでの"やられっぷり"だった気がするから…少々気恥ずかしい。

以津真天はそんな私の様子を見てフッと鼻で笑い、手元にボッとオレンジ色の光を宿す。


「この程度からで良いから、お主も"妖術"というものに慣れねばなるまいな」

「オレンジの光を灯すだけ?…あぁ、色か」

「そうだ。赤か黒のしか宿せぬだろう?隠す様の金色か…その色を好きに弄る所からさ」


彼はそう言いながら、オレンジの光で通路の先を照らした。


「そして、妖術を知らねば…いとも簡単に騙されるものよ。こういう風に、な」


私は目の前の光に照らされた光景を見て目を丸くする。

塔に入ったばかりで…確か防人元の部屋は最上階…だと思っていたのだけども、気付けばすぐ目の前に、見覚えがある"扉"が見えていた。


「階段なんて…無かったけど?」

「人の認識…いや、妖術を知らぬ者の認識など容易く騙せる。"思い込み"の力は強いのさ」


驚く私を見て、気を良くした以津真天は、防人元の部屋の、少し前でピタリと足を止める。

そんな彼の様子に首を傾げて見せると、彼は顎を軽くしゃくって先へ行けと促してきた。


「2人きりで話したいそうだ。丁度、我々には"稽古の師範代"という仕事もあるしな」

「なるほど…ありがとう。案内してくれて」

「構わない。では…」


そう言って私に1つ、ペコリと会釈をした以津真天は、クルっと踵を返して暗い廊下の中に消えていく。

"妖術"の誤魔化しから解放された今、彼が戻っていく通路は、通って来たそれとは全然違う光景だった。


「妖術…ね」


以津真天を見送ったまま立ち止まっていた私はそう呟くと、扉の前に立って声をかける。


「入舸沙月です」

「あぁ、来ると思ってたよ。入ってくれ」


声をかけると、緊張感の抜けた防人元の声が返ってきた。

私はその声を聞いた後で、ゆっくりと扉を開けて部屋の中に足を踏み入れる。


「やぁ」


相変わらず何も無くて暗い殺風景で…広い部屋。

窓の外は、さっきの吹雪のおかげか、見事に雪化粧した庭が望め…

雪明かりのせいで、この前来た時よりも部屋は僅かに明るく感じられた。


「座ってくれるか」

「はい…」


防人元…いや、"菅原道真公"の姿をした彼の前に、ポツリと置かれていた分厚い座布団に正座する。


「楽な姿勢で良いんだよ?足が痺れるだろう」

「……では、お言葉に甘えて」


正座から胡坐に切り替えると、防人元はニコリと優し気な笑みを浮かべた。

それを見た私は、背筋が薄ら寒くなったが…顔にはそれを出さずに押し黙る。


「特に呼び出したつもりも無いのだけど。良く、私の気持ちを察してくれた」

「察したつもりはありませんよ。あの光景を見た、感想が欲しかっただけです」

「感想…随分と刺激的な光景が見えたのだが…バラバラになった時の事を話そうか?」


防人元はそう言ってニヤリと笑うと、口を閉じた私を見て更に笑い声を上げて…

顔の前で軽く手を振って見せた。


「冗談だ。君が尋ねたいのは、あの光景を見た上での、私の気持ちだろう?」

「…はい。そうです」

「外国人をどう思うか、我々防人を裏切った入舸鬼沙…いや、鬼沙というタダの鬼についてどう思うか。気になったのは…概ねその辺りか」

「はい」


防人元は、私の気持ちが手に取るように分かっているらしい。

私の全て見透かしている…そんな目で見られている様に感じてしまう。

私は背中に嫌な汗を感じながらも、自分の気持ちのままに、防人元の質問に答えていった。


「まぁ、あの光景を見せられれば、気になるだろうな。それを律儀に聞きに来る当たり…今、お主は心の底から、"迷っている"。違うか?」

「迷っている…というと?」

「身の振り方についてだ。思うところはあるが、私の意向を気にしている…そういう風に見て取れる」

「……そう、でしょうね。はい。そうだと思います」


外堀を埋められてから、本心を突かれるこの感覚。

私は不思議な心地よさと、不気味な得体の知れなさの両方を感じながら頷いた。


「そうだろうな。耳飾りを着けている限り、私の目と耳を常に感じている…見ていてそう思っていた。気にしすぎだと言っても、それは無理な注文だろう」

「そうですね。折角なら、話しかけてくれた方が、まだやり易いです」

「ふははははっ!!そんな冗談を言える位なら、心配もいらないと思っておったが…」


防人元は私の言葉を受けて豪快に笑って見せると、フッと笑みを消して真顔になる。


「話しかけでもしたら、お主は私の操り人形になってしまうではないか」


そう言って、防人元は私をジッと見つめてきた。

私は口を開けず、ただ、黙って彼の目を見返すしか出来ない。


「ありのままで…という意味が、どうやら伝わっていない様だな」

「…そう、でしょうか」

「あぁ、私の目を気にしすぎている。お主よりも、防人という組織が"上"にあるのだ」

「それは…」

「そんなことを気にせず、お主の"本心"を見せて欲しいのだよ」

「……本心…ですか?」

「あぁ、言っただろう?私は私の"自由"を説くが。お主はお主の"ありのまま"でいい…と」

「はい」

「お前の考えは、今の防人と同じなのか?1から10まで…今の防人のままでよいのか?」


考えがまとまらずに戸惑っていると、防人元はそんな私に優しい笑みを向けてきた。


「だろう?お主には"我"がある。それを私に見せて欲しい、聞かせて欲しいのだ」


その言葉を聞いて、眉を潜めたが…彼はそんな私に「何か言ってみな」と言いたげだ。


「そうですね…急に言われても…答えに窮してしまいますが…それでも、良いのなら…」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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