239.京都の地で、奴が行きそうな場所は限られている。
京都の地で、奴が行きそうな場所は限られている。
百鬼夜行に"外国人共"を飲み込ませて場を収め、あの場の始末を沙絵に任せた後。
私は1人、夜の京都の街を歩いていた。
(流石に、この格好じゃ悪目立ちするか)
吹雪だった空模様は、エミリアが"隠された"事によって急速に回復して、今では星空が見える程の晴天になっている。
その結果…なのだろうか、雪化粧した夜の京都を見ようと、あちこちで人出が見られ、さっきまでは人っ子一人見えなかった歩道に、観光客や地元の人の姿が見える様になっていた。
「君さ、今1人?可愛い格好してるよね!どう?遊びに行かない?」
「放っておいてくれない?ナンパはお断り」
そんな中で、笠+白髪+顔に刺青にも見えなくない傷+和服+外套+黒いブーツ…
そんな"素の"出で立ちで歩いているというのは、まぁ、良く目立つのだろう。
人通りの多い所を通ると、日本人外国人問わずちょいちょい声をかけられるが…
生憎、今の私は機嫌が悪く、素っ気ない…棘のある対応しか返していなかった。
「そんなこと言わないでさぁ、お兄さんが奢ってあげるから!ね?行こう!」
断って引くなら何もしないが、しつこく来るようなら話は別だ。
そう言って腕を掴んできた若い大学生風の男に顔を向けた私は、"フリーな方"の手に持っていたタダの呪符を男の額に貼り付けると、容赦なく念を流し込んだ。
「ガァァァァァッッッ!!!」
スタンガンよりは弱くしてあるが、それでも、急な"電撃"は男に良く効いた。
「相手は"よぅく"選びなぁ…なぁ?ボーヤ?」
急な出来事に呆けた顔を浮かべた若者にドスの効いた声でそう言うと、クルリと踵を返して歩きはじめる。
電撃と共に私の念を"流し込まれた"彼の顔には、"鬼の角"が見えた事だろう。
私は周囲から奇異な視線を浴びながら、その場を離れ…目的地へと歩いていく。
行き先は、防人本家ではない。
さっき、"バラバラ"になっていた私の下に現れた妖のいる場所だ。
あの夏の1件以降、姿を見せなかった裏切り者…そんな奴が京都に現れ、目の前に現れた。
"何も無い"と思う方がおかしいだろう?
(あぁ…やっぱりそうだ)
降り積もった雪のせいで、いつもよりも明るい夜の京都…
暫く歩いて、向かった先は正面橋。
なんてことのない、観光名所でもなんでもない、ただの狭い橋。
そのど真ん中で迷惑にも止まっている車と、傍に見える人影を確認した私は、小さくため息をついた。
「来ると思ってたぜ。この時間ってことは、思ったよりも手こずらなかった見てぇだな」
正面橋に止まっていた車は、こんな雪の中で乗るには向かない、昔の青いスポーツカー。
その隣で棒立ちしていた男…鬼沙は私を見止めると、そう言って下種な笑みを浮かべた。
「お陰様でね」
警戒を怠らず、周囲に人影が見えない"地味な橋"を歩き近づいていく私。
鬼沙が乗って来た車は、見覚えのある車だった。
札幌ナンバー…数字は…間違いない、この車は、鬼沙が"生きていた時"と同じ車だ。
「どういう風の吹き回し?」
「どうもこうもねぇよ。ただ、様子を見に来ただけさ。外人共がうようよいる京都って、何か面白くねぇか?」
「面白くないね。いい迷惑なだけさ…それとも何か?私に"隠され"に来たの?」
私は鬼沙から一定の間合いの所で足を止めて、着物の中に仕込んだ呪符に手をかける。
鬼沙はそんな私を見て豪快な笑い声を上げると、手をヒラヒラ振ってから両手を上げた。
「まさか!今のお前にオレを消す大義名分があるわきゃねぇ!今は"フリー"でね」
そう言って鬼沙は、手を下ろしてスーツのポケットに手を突っ込む。
私は"警戒"を解かぬまま、ジッと彼の目を見据えて"口を開く"のを待った。
「俺はまだ…この間お前に言ったこと、諦めてねぇんでな。それを言いに来た」
「この間、私に言ったこと…?はっ、何かあったっけか?」
「呆けるには早いぜ沙月。言ったろう?お前が防人の長になれって話を」
「あぁ…確かにそんなことを言ったっけか。でも…」
「あぁ言わなくていい。その耳飾り越しに、元のやつ見てる事くらい、知ってるよ」
鬼沙はそう言って軽く体を震わせると、車のロックを解除する。
「ちと、寒いな…京都の癖に。続きは車の中で良いか?何もしねぇって誓うぜ」
「……ふん、まぁ、良いか」
助手席の方へ行こうとすると、鬼沙は何かに気付いた様に…一足先に助手席の扉を開ける。
「いけねぇ、忘れてた」
ドアを開けて何かを取り外す鬼沙。
近寄ってみてみれば、それは、遠い昔…私の"特等席"だったチャイルドシートだった。
「もういらねぇものな」
パパっとそれを外して後部座席へ放り込む。
私はどこか胸の奥を突かれた様な、複雑な気持ちを覚えたが、表情を一つ変えることなく"何も無くなった"助手席に収まった。
「処分したはずなんだけどね」
懐かしい内装…匂いまであの時のまま。
子供の時には格好良く見えた、エアコン吹き出し口上の液晶パネル…
その手のものが"当たり前"となった今、それはチャチな子供騙しの玩具に見える。
「まさか残ってるとは」
室内を見回して呟いた私に、鬼沙はニヤリと笑いながら何も言わず、キーを差し込みエンジンをかけた。
「限定車なんだぜ。そう簡単に廃車になるかよ」
低く唸るようなエンジン音が室内に聞こえてきた時。
鬼沙はそう呟いてエアコンの温度を上げ、風量を最大に設定した。
エンジン音が少し霞むほどの風量…私はそれに髪をかき混ぜられると、目を細めてエアコン吹き出し口を弄って乱れた髪を戻す。
「で、私、防人を背負う気なんて、サラサラ無いって分かって何をいうつもり?」
「いやぁ、ただ…"防人元"はどう考えてるか知りたくてな」
「はぁ…私はメッセンジャーってわけ?」
「そうだ。結局、今防人連中が"大層苦労して"退けた外人どもは皆"下級の存在"なんだぜ」
鬼沙は体を包み込んで来るようなシートに、ドカッとふんぞり返りながらそう言うと、スーツの内ポケットからメモ帳の様なものを取り出した。
「アメリカは色々と"そう言うの"があってな。日本にくる限り"志は一つ"だが…まぁ、裏では連携も取れねぇ私利私欲の連中ヨ。ヨーロッパは、EUってヤツに引っ付いた下部組織があってな。腹ン中は知らねぇが、ある程度連携は取れてる。中国韓国辺りも"そういうの"があるが、まぁ、ウチの国と変わらず鎖国中。根っこが同じだけあるぜ」
取り出したメモは、恐らく鬼沙が独自に調べた"海外の妖組織"についての情報が記されているのだろう。
「結局、白人共は金でしか動く気がねぇみてぇだぜ。財界の裏に手が回ってるのが幾つかあって、そいつ等が"権力を持ってる"。ヨーロッパなんざ、ある意味"堂々"と人の中に紛れさせてるな。政治家の何人かは"人に化けた妖"だ」
「へぇ…」
「そのうち化物部隊が戦争に駆り出されそうだぜ。奴等はそう言う事をするのを躊躇しないからな。結局、奴等は何のために"生きるのか"わかっちゃいないんだ。金に踊らされてる」
鬼沙はそう言うと、そのメモ帳を私の方に放り投げてきた。
分厚い、黒い革張りのメモ帳…中を見やれば、他にも色々と鬼沙の文字が踊っている。
それを見て目を丸くした私に、鬼沙はポツリとこう呟いた。
「元の腹積りはどうだか知らねぇが。今のままじゃ"ジリ貧"だ。沙月、お前はそろそろ…"どっちにつくか"決めて置いた方が後々の為になるだろうぜ?」
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