表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
伍章:境界線上の妖少女(上)
238/300

238.分かれば子供騙しなのに、どうしてそこまで頭が回らないのだろうか。

分かれば子供騙しなのに、どうしてそこまで頭が回らないのだろうか。

思いがけぬタイミングで再会した鬼沙から"ヒント"を貰った私は、すぐ答えに辿り着いた。

バラバラに散らばった氷漬けの体…

なのに、私の手足の感覚はちゃんとあって、血は吹き出ていない。

凍っているとかそういうのではなく、"ただ、そう見えるだけ"だと気付いたのは、彼が私の周囲に捨てて行った"手足と胴体"の断面を観察していた時。


「……」


どういう仕組みになっているかは知らないが、胴体…

体の"切断面"をまじまじと、間近で確認した私は、"血肉が蠢いている"様が良く見えた。

そこに、"血が通っている"…私の体は"くっついたまま"なのだ。

なのに、手足は"少し"しか動かなかったし、なんなら、今はもう動かない。


(どういうことだ?)


私は目の前の光景をジッと見つめながら頭を回転させる。

目の前の手足や胴体には、血が通っているし…

動かそうとすれば、何かがピクリと反応を見せている。

なのに、動かない、動けない。


「……!」


もうすぐ…答えが導けそうになってきたその時。

遠くに人の気配を感じる。

吹雪の音に混じって…遠くから、誰かが歩いてくるような音が聞こえてくる。

私は目を見開いて目の前の"断面"を睨みつけ…


そして、ふと、目を閉じた。

見えなければ、どうなるのだろう?


「!!!」


唐突に試した、馬鹿みたいに単純な対処法。

それは、面白い位に"ハマった"…全身に冷たさが駆け巡り、手足が"動かせる"。

この妖術…"氷の冷たさ"を感じるが、氷漬けになっているのは飽くまで"見てくれ"だけ。

私は目を閉じたまま、口元をこれ以上ないほど"邪悪な"笑みで歪め…

そして、右手を左の着物袖に入れ…獣の爪先で、とある箇所に仕掛けた呪符に触れる。

ここまで来たのなら、"こんな妖術"から逃れるのは、容易い事だ。


「あら…?誰かにその姿を見られちゃったのかしら?可哀想ね、年頃の女の子なのに」


目を閉じた私の周囲…遠くから聞こえていた足音は、エミリアのものだったらしい。

エミリアの他にも数名…人の気配を感じるが、私を"運ぶ為"に人を呼んだのだろうか。

カチャカチャと何かが擦れる音が聞こえ…その足音はエミリアのそれよりも"重たい"。


「まぁ、いいわ。彼女を"梱包"して、本国に運んで頂戴」


エミリアの冷たい声が聞こえる。


「ふっふっふっふ…はっ…アハハハハハハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


それを聞いた私は、喉を鳴らして笑い始め…

爪で触れた"黄紙の呪符"に念を込めた。


「なっ…」「「「「「!!!」」」」」


驚く声に、身構える音が…暗闇の中から聞こえてくる。

吹雪の舞い散る中、私の周囲に集った者達が慌てる音が聞こえてくる。

私はそれを聞きながら、口元に歪んだ笑みを浮かべたまま、ボッと金色の光に包まれた。


「やっと、下らねぇ手品から抜け出せたよ…エミリア。随分と"不味そう"な部下を連れてるじゃないか。食人鬼の肉なんて、何を付けたって"食えない"よ?」


眩い光に包まれた刹那。

復活した"翼の感触"を頼りに空へ舞い上がった私は、吹雪の中、眼下で目を剥いてこちらを見上げた外人連中にそう言った。


「…撃ち落とせ!!」


"傷一つ無い"私の姿を見て顔を青くしたエミリアが叫び、部下が手にしていた"銃"が一斉にこちらに向いた。

拳銃よりも"物々しい"銃…それは、ライフルと言うのだろうか?ショットガンといっただろうか?生憎、ゲームには疎いから良く分からないが…


「豆鉄砲だな」


十数名の部下が、私を目掛けて一斉に放った銃弾をいともたやすく躱して見せる。

尖った銃弾に丸い銃弾…それらが吹雪の夜空へ消えていく…そんな様すら"止まって見える"今の私は、これまで以上に"調子"が良かった。


「エミリア。私は、二度同じ手を食う程馬鹿じゃないぜ?」


歯を食いしばった様子のエミリアを見て嘲る笑みを見せる私。

彼女の"妖力"を推し測るに、あの手品はそう乱発できる妖術では無いのだろう。

現に、人の姿に戻って…少し疲れた様子が見える。

夕方、清水新道に"姿を見せなかった"のも分かる気がした。

彼女は、元々"戦いに向いていない"のだ。


「なぁ?エミリア?そして…豆鉄砲使いのオッサン共」


そう言って、両手に纏わせた妖力を彼らの方へ解放してやる。

狙いは彼ら…ではつまらないから、彼らの周囲を塞ぐように"爆撃"を放ってやった。


「ぐっ…」

「逃がす気は無いよな?アンタも私も…」


エミリア達の周囲に"雪の壁"が出来て…

辺り一面は、一時的に周囲から"視界が届かなく"なった。

それだけじゃない…道も抉れていて、逃げ出したところで"転ぶ"様になっている。

私は一瞬で彼らを"追い詰める"と、彼らの処置の"仕上げ"に入った。


「ちょっとばかり…お礼と言っては何だが。エミリア、貴女にとっておきを見せてやろう」


吹雪模様の夜空に漂う私は、眼下で手をこまねいている彼らにそう告げると、左手を、左耳の後ろへと持って行く。

妖に姿が変わっても残っている"耳裏"の刺青…私はそこに手を触れながら、ゆっくりと地上へ降りて行った。


「な、何をする気…?」

「なぁに、アンタ方が見たがってたものだよ。この姿だけじゃないんだろ?見たい力は」


絞り出すようなエミリアにそう返すと、私は刺青に当てた手に念を込める。

その刹那、私の背後が"真っ黒"な空間へと様変わりした。


「う、嘘でしょ…!?」

「エミリア様…これは…退却を!!」

「え、えぇ…!!時間を稼ぎなさい!」

「は、はっ!!!」


さっき出したソレよりも"どす黒い"闇が広がる。

妖の状態で初めて使った"百鬼夜行"。


「あら、本日二度目ね?入舸さん。良い格好よ?」

「あぁ、先生、やることは…分かっているよね?」

「えぇ、任せて!!あんなの、"すぐ"消せるわよ」


「沙月様、人使いが荒いですよ?というか、ここにいたんですか」

「言ってろよ。探しに来るのが遅くなったからこうなってるんだ」

「お叱りは後で。目標は…あぁ、なるほど、やり残しがいたとは」


「元様が騒いでおったぞ?」

「見てるなら手伝ってよ…」

「そうはいかんと分かってるだろう。ま、こうなるのは予期しておったわ」


その闇から出てきた妖達は、"一切酔っている様子が無く"…

私の意思を正確に把握して、目の前で狼狽えている外国人の方へと向かっていった。


「チト"遊び相手には物足りねぇがぁ"!!先に送ってやったアホ共の所へ送ってやりな!」


私は次々に出てくる妖達に指示を出し、妖達は私の言葉に唸り声を上げる。

目の前…エミリア達は、断末魔を上げる間もなく、妖が作った妖波の中へと消えて行った。


「防人は、何も妖を殺す為の機関じゃない。ただ、ふざけ過ぎたアホを遠くに隠すだけさ」


お読み頂きありがとうございます!

「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。

よろしくお願いします_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ