237.まさか生きたままバラバラになるだなんて、思ってもみなかった。
まさか生きたままバラバラになるだなんて、思ってもみなかった。
全身を氷漬けにされて…ピシっとヒビが入ったかと思えば…そのままバラバラに…
「……」
私は目を丸く見開いたまま、冷たく積もった雪の上に"倒れて"いる。
今、私の体は目の前で"バラバラ"になっている…首、"本体"の眼前で、氷漬けになった手足や胴体が、血も噴き出さず氷漬けにされたまま転がっていた。
「……」
まさか、こうなるなんて…
私は有り得ない現状に顔を青褪めさせて、どうしようもない現状を呪う。
完全に油断した…油断した、油断した、油断した、油断した、油断した、油断した!!
どうしよう…どうしよう、どうしよう…どうすればいい!?
「……」
幸いにも、氷漬けにした張本人は"私を運ぶ為"に誰かを呼びに行ってここにはいない。
でも、今の私は声も出せなければ、手足も"動かせない"状況…完全に詰みと言える。
「……」
そして…あの氷像風情も言っていた事だが…
こんなに暗くなってきたというのに"私を探しに来る"防人は、1人もいない。
本家に私が帰っていないのに、気付かれていないというのだろうか?
モトと家の親が出会えば話の噛み合わなさで気付くだろうに…何故だ?
「…っ…っ…!!」
頭を必死に巡らせながらもがいていると、次第に吹雪が弱まってきて…声が出せる…様になってきた気がする。
心なしか周囲の温度も上がり、私を覆いつくした氷も溶けている様な…そんな気がした。
あぁ、それはきっと…ここが京都だからだ…北海道の様な"寒い土地"ではなく、京都だからだ…
氷像が振らせた雪は"ベタ雪"、きっと、今の京都の寒さでは、水分を含んだ雪しか降らせられないんだ。
「もしかして、溶ける…の?…これ…」
ようやく声を出せた私…絞り出した声は、諦め混じりの声。
氷漬けになっている今はまだいいが…この氷が溶けてしまえば?
そこに出来るのは、バラバラ遺体?…
妖の状態といえど、この状態で"長生き"出来るかは、分からない。
私は徐々に熱くなってきた"くっ付いていない体"の感覚を感じて顔を歪めながら…
目を動かして"体"がどうなってるかを確かめる。
「…っ」
首の前に転がった、溶けかけている氷の塊。
目の前には腕の部分、その奥に胴体…そして最奥、数メートル先に足が転がっている。
覆った氷は、当初のひんやりと固まっている様子は無く、薄っすらと水が浮いていた。
「やばい…」
既に、手足の先端は薄っすらと氷から飛び出している。
先端がそうなら…"切断面"も。
私はそこで初めて、この状況に絶望し、叫び始めた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫んだところでどうにもならない。
ただちょっとだけ、手足の先端が動かせる程度…
念を込めようとしても"妖力"は手に籠らず、何も起きない。
私は焦る気持ちを叫びに変えながら、どうにかならないかともがき始めた。
「畜生!畜生畜生畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉ!動け!動けってんだよ!!!このぉぉぉぉ!!」
雪が降りしきる中、ジワジワともがきながら叫ぶ私。
この叫び声に反応する者は、どうやら近くにいないらしい。
一般人に見られたところで…怪奇現象であることは間違いないのだが…
「ぐぅ…」
もがいて、どうにもならなくて…疲れて動きを止める。
体はくっついていないのに、手足の先端が動かせるこの状況。
おかしいと思えばおかしいのだけど、そもそも氷漬けになって死んでいない時点でそんな"常識"は通用しないのだ。
どうすればいい…?と、いうよりも…
この耳飾り越しに"見えているはず"の防人元はどうして動かない?
いや…助けを求めるだけ無駄か…今の今まで何も起きなかったんだ。
「最後にこの様か…」
絶望と、怒りと…情けなさ。
それらが渦巻いて、考えがまとまらない中。
私は首だけの状態で、雪に打たれながら思考を止める。
「はは…何かやらかすと思ってたんだ…」
そしてポツリポツリと、か弱い声で呟き始めた。
「折角楽しくなってきたってのに…ここまでかぁ…失敗したなぁ…」
それは、"関係が大きく変わった"防人家系の"同期達"への想い…
「以津真天達にも、合わせる顔が無さそうだ。いや、笑いもしないか、奴らなら」
それは、塔を護る妖達への想い。
私はポツリポツリと、募る後悔を口にして、雪に埋まっていく体を呆然とした表情で眺めながら、少しずつ力を失っていく。
「はは…畜生め…また…動かなく…」
また、声を出せなくなってきた私。
手足の先端が動いていたのに、今はもう動かせない。
何故?と思っていると、一度は弱まり始めた吹雪が、再び強さを取り戻し始めた。
「っ……!!」
寒さが戻ってきて、顔に当たる雪は水分も含まれない"軽い雪"になっていく。
それだけで、氷像の妖が近くに戻ってきた事が分かった。
(ここまでか…)
変な清々しさを感じながら、私は自らの"生存"を諦める。
遠くから近づいてくる…何者かの足音を耳にした私は、そっと目を閉じて意識を手放そうとした。
「ほほぅ。コイツぁ派手に砕け散ったモンだなぁ…」
私の近くで止まった足音…
聞こえてきたのは、思っていたのとは違う…聞き覚えがある男の声。
「どれどれ?…あぁ、"騙されてる"だけか。俺と同じで、妖術ときたら、からっきしだもんなぁ…お?ソイツは元の奴の…なるほどなるほどぉ…単身で塔に押し入りやがったか」
飄々として…そこに呆れ成分も少し混ぜているといった風の、不敵な男の声色。
私は閉じた目を見開くと、目の前には黒いスーツに身を包んだ男の影が見て取れた。
「沙月ィ、この程度の妖術に騙されてる様じゃ…いつか"沙月の二の舞"になるぜ?折角、アイツと違って、"塔"を押し切る所まで行ったってのによぉ…"まだまだ"青いな。青二才だ」
男は、バラバラになった私の体を拾い集めると、私の首元に、雑に放り投げてくる。
「ま、もう少し足掻いてみろや。体が近くに有れば、何か分かるかもしれねぇぜ?」
吹雪が勢いを増す中、"寒そうな"格好をした男が私を見下ろして言った。
"入舸鬼沙"…去年の夏の…あの日、私とモトが"倒し損ねた"裏切り者は、後遺症の一つも無い"元気な姿"を私の前に見せてニヤリと顔を歪ませると、そっと私の額に手を当てる。
「ヒントになるかは知らねぇが、これを感じてみな。……じゃ、後で会おうぜ」
お読み頂きありがとうございます!
「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。
よろしくお願いします_(._.)_




