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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
伍章:境界線上の妖少女(上)
236/300

236.さっさと吹雪を終わらせても良いが、こういう景色は嫌いじゃないんだ。

さっさと吹雪を終わらせても良いが、こういう景色は嫌いじゃないんだ。

エミリアが放った氷の弾を軽々と躱した私は、更に強さを増した吹雪に目を細めてニヤリと笑い、地上へと降り立った。


「なんだ?まだケタケタ笑いか?芸が無いぞ?」


初撃は飽くまでも視線誘導だったらしい。

エミリアはそれ以上何かをするわけでもなく、強さを増した吹雪の中に姿を消した。


「それに、その程度の"吹雪"で私が凍るかよぉ!」


私はその中で彼女を嘲笑いながら叫ぶと、両手にまとわせた妖力を解放して…

ドン!と自分を爆心地とした"爆撃"を1つ発生させてやる。

刹那、ワッと舞い散る雪が"溶け消えて"、私を中心とした半径5m程の空間が、一瞬の内に"雪解け"した光景に切り替わった。


「くぅ…!」


適当に爆ぜただけだったのだが…その一撃は女を掠めた様だ。

目の前に舞い降りてきたその姿を認めると、私は一瞬のうちに間合いを詰める。


「そら!見つけた!」


今の私は、最早獣も同じだ。

両手の長い爪で女の体を引き裂くと、白い肌を、あっという間に血の滲む赤に染めていく。

私は血を見る度に"強い食人衝動"を感じながらも、ただただ勢いに任せて腕を振るった。


「そら!そら!そら!」


女の血を浴びながら、爪を振るってラッシュを仕掛ける私。

右に左に女の体は嬲られて、表面を引き裂いた傷を更に深く切り付けて…

私は女の血に濡れながら、人のそれとは違う笑みを浮かべながら追い詰めていく。


「やっぱ雪には血が似合う!赤の鮮血がよく似合う!良い色の血を持ってるな」


女の上半身を真っ赤に染め終えた頃。

私はラッシュを止めて爪をカシャン!と重ね合わせて、女に煽りを入れた。


「はっ…その程度で…終わりなのかしら…?」

「何だ?やせ我慢は体に毒だぜ?」

「その程度で勝ったつもり?」


人であれば既に死ぬ位には血を失って…

フラフラになったとは思えない女の言葉に、私は首を傾げた。

刹那、女は真っ赤に、血みどろになって項垂れていた顔をこちらに向けてニヤリと笑うと、ゆっくりと手を上げた。


「なっ…」


刹那、女の手元に"吹雪が集まっていく"。

それと同時に、女の流した血は"氷"に変わり女を包み込んで女の姿を氷の中に飲み込んで…


「…!!!」


パリン!と女を包み込んだ氷柱が砕け散った時、そこに女の姿は何処にもなかった。

有り得ない光景…妖力の込められた…高度な"妖術"を使った光景を目の当たりにした私は目を剥いて辺りを見回す。


「なんだ。人由来じゃねぇのか、通りで血が綺麗過ぎると思ったんだ」


どうやら、あの女…人の姿は"仮の姿"と見た方が良さそうだ。

女は"妖"で、エミリアという姿は飽くまでも人に化けた姿というわけか。

してやられたと気付いた私は歯を噛み締め、唇を犬歯で傷つけ血を滲ませたが…もう遅い。


「さぁ!私を探し当ててみな!入舸沙月!早くしなければ…ヒトガシヌゾォ!!!!!!」


私の考えが正しかったとばかりに、吹雪の中から妖言葉が聞こえてくる。

私は翼を羽ばたかせて宙に浮くと、辺り一面を適当に飛び回り始めた。


「ちぇ…妖だってんなら、最初っから捕えてやろうなんて思って手加減なんかするんじゃなかった!」


毒づきながら八坂神社の周囲…上空を駆け巡る私。

夕方も過ぎて、もう夜と言っていい時間帯…雪が舞い散る時特有の、赤紫色の空の下、私は飛び回って目を凝らす。


「まぁ…少しは楽しめるか…」


京都で…という目で見れば、最早災害級な猛吹雪の中…人の気配は何処からも感じない。

私が人探しの範囲を更に広げてみれば、さっき私が通り過ぎてきた"円山公園"の辺りに1人、"何者か"の人影が見えた。


「なんだってこんな時に…!」


その人影は、円山公園の真ん中にポツリと立って遊んでいる?様に見える…

こんな時間に何故…と言いたくなる"子供"の影。

私は急降下してその子に近づいていく。


「そこの君!どうして1人で…」


今の自分の身体の状態を棚に上げて…

子供を保護しようと近づいた私は、その子供の特徴を見てハッとした顔を浮かべる。


「ヤハリ、コドモニハ、ヤサシィノネェ…ソウダト、シンジテタワァ…」


可愛らしい外套に身を包んだ、幼稚園児位の子供がこちらへ振り返る。

"のっぺらぼう"な、ブロンドの髪を持った子供が振り返った刹那。

私の背筋は文字通り"凍り付いた"。


「ぐっ…!」


嘲る声と共に放たれた死角からの攻撃…私は何も感じられずそれを真面に受けてしまう。

足元が膝丈迄一瞬で凍りつき…

更に成長した氷が、背中から首元までを一瞬で氷漬けにしてしまった。


「モウスコシ、イイカタチガ、ヨカッタノダガネ」


歪な立ち姿のまま凍てついた私の前…

エミリアは、"囮"として使った、子供の姿をした"氷像"を砕いてこちらに顔を向ける。

その"顔"には、目も鼻も口も、人らしい造形は何処にもなかった。


「ハッ…あの姿は人への"憧れ"か。随分と…整い過ぎた美人だと思ってたんだ」


その姿は最早人の形をしておらず…"ヒトガタのコオリ"とでも言えば良いだろうか?

氷が人っぽい姿を成して動いている…と言うのが正しい見た目をしていた。


「アリガトォ…ホメテクレテ…ソノ、ヘラズグチ…イツマデツヅクカシラ?」


私の軽口に反応を見せて、こちらに近づいてくる"氷像女"。

私を捕らえた氷は、そう言ってる今も更に成長を続けていて、最早私の首から下は全て、氷の中に閉じ込められてしまっていた。


「モウ、ナニモ、デキナイ…デショ?」


体の半分をエミリアに戻して…私を煽ってくる氷像…

私はニヤリと笑い飛ばしたが、彼女の言う通り首から下に感覚はなく、何も出来ない状態だった。


「コレデ、オマエハ、ワタシノモノ…デモ、スコシ…オオキイナ?」


彼女はそう言いながら、氷の手を私の鼻に伸ばして…ギュッと鼻先に手を押し込んでくる。


「うっ…!!」


痛みを伴う冷たさが全身を駆け巡り…

体の中にある"熱"が全て奪われたような…

凍てつく感覚が全身を駆け巡ったその刹那…


「……!」


氷漬けになった私の体は、バラバラに砕け散った。


「サテ…モチカエル…ダケ…"この吹雪"で遅れるだろうけど?この小娘を迎えにも来ないあたり、時間は幾らでもあるでしょうよ…ねぇ?入舸沙月…サン?」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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