235.白い雪に、真っ赤な血は映えるものだ。
白い雪に、真っ赤な血は映えるものだ。
白と赤のコントラスト…あぁ、なんておめでたい組み合わせなのだろう?
雪に彩りを与えるのが、自分以外の"外人"であれば、更に良かったのだけど。
「今回は"私達の負け"よ。防人さん」
腹から大量の血を流し…四つん這いの状態で悶える私。
血が歩道の雪を染めて溶かしていく様を見ている背後で、艶やかな女の声が聞こえた。
「消えた同胞が余りに多いのよ。タダでさえ、この国で平和に過ごせる者は少ないのに…」
ザッザッと雪を踏み歩く音が聞こえてくる。
私は目を見開き、遅れてやってきた痛みに顔を歪めると、ドサっと歩道の上に倒れ込んだ。
「それって不公平だと思わない?」
傍までやって来た襲撃者…女は私を蹴飛ばして仰向けにさせると、私の顔を見て驚いた。
「あら…子供…防人ったら、児童労働もさせてるのかしら。つくづく遅れた国ですこと!」
私を撃ったのは、絵に描いたようなブロンドの長髪美人。
蒼白くすら見える冷たい白い肌に切れ長の目…高い鼻…
長身で体躯も良いと来れば、モデルでもやっていそうな雰囲気だ。
「生憎様、そっちとは…"常識"が……違うんでね…」
血が滲む最中、そう言いながら、そっと右手を左袖に入れる。
女は、そんな私を見て嘲るように笑った。
大きく開かれた口からは、尖った犬歯がキラリと光る。
グールだろうか?だが、食人鬼にしては、"妖力"が強い…
「そうね!"未開の地"が日本だと聞いて、何の冗談かと思えば、本当に未開の地なんですもの。人間の、進化の可能性を閉ざした連中…なんて哀れなんでしょうね?」
「はっ…最近、何処かで聞いた話だな」
女の言葉に、防人元との会話を脳裏に過らせる私。
この耳飾り越しに、彼も聞いているだろう…女との会話を。
"方向性"は同じだが、決定的に違うものは"主体性"…強制するか、流れに身を任せるか…
私は徐々に荒くなっていく呼吸の裏でそんなことを考えていると、いよいよ"体"が持たなくなってきた。
「苦しいでしょう?お嬢さん。お生憎様、貴女、あと少ししか持たないわよ」
「は…?」
「弾が突き抜けた位置は肝臓。私はね、その傷をイラクで見た事があるのよ。狙撃されてね、その時は、もっとひどい傷だった。私は衛生兵だったんだけど、手当てしようにも道具が無い。もがいて、苦しんで死に行くのを見てるしかなかったわ」
女は私を憐れんだ表情で見下ろして言った。
雪が降り続く…雪が私に積もっていく中で、女は淡々と話を続ける。
「でも、子供を撃つ事になるとはね。向こうでも、それは絶対しなかったことなのに。仲間が何人"子供爆弾"で吹っ飛んだ事か…それでも、しなかったのに。まさか、こんな"綺麗な街"でそれをやるとは。私もそろそろヤキが回るのかしらね」
どこか後悔していそうで…なのに、楽しそうな…矛盾した感情を隠さない女。
私は手にした呪符に念を込める前に、"私に気付いていない"彼女に問いかける。
「冥途の……み、土産に…教えてくれる…?」
「ん?何を?」
「貴方達…な、何を…目的に…こんなことをするの?…」
「あぁ」
弱り切ったか細い声で尋ねると、女は手にした銃を仕舞いこんで私の傍にしゃがみ込んだ。
「1つは"防人"を潰し、新しい秩序をこの国に築くこと。化物がより人間社会に"入り込める"様にね。そしてもう1つは"防人"に取り入る事。矛盾しているけど、最初の目的がダメなら手を取って…浸透して最初の目的に合流すればいい。そう思ったのよ」
"死に行く"私への情なのか、それとも"子供を撃った"事への罪悪感か…
彼女は予想以上に、素直に私の問いかけに答えてくれた。
私はグッと口を噛み締めて"遠のきそうな"意識を保たせつつ、更に何かを喋ろうとした女の目をジッと見つめる。
「これはオマケだったのだけど。未だ観測できていない"人の心を持ったまま化物になった"者を観測するってのもあったわね。貴女、知ってるでしょ?化物は人の目につかないの。人には見えない存在だという事を」
「え…えぇ…」
「別に、化け物が人を襲う分には都合が良いのだけど。人間社会に紛れるには"不都合"の方が多いわ。人は、見えない存在を何処かで否定したがるものだから…」
女はそこで一度話を切って…私の顔をジッと見つめ、茶目っ気のある笑みを浮かべた。
「あぁ、食人鬼はダメよ?所詮は欲望を制御出来ない"失敗作"。強さと自らを制御出来る"進化した人間"を求めてるの。そう言う存在が、防人にはいるらしいのだけど…貴女知ってる?」
ペラペラと喋ってくる女。
私は薄ら笑いを浮かべながら、首を左右に振った。
耳飾り越しに見てるであろう防人元は、どんな顔をしているのか…
「そう。子供には秘密だったのかしらね?」
「さぁ…ね」
そろそろ種明かしをしてやろうか。
この、妖力が"強い"女をどうするか…
異境へ隠した同胞の元へでも送ろうか…?"捕えて"よろしく"やってもらおうか。
「ん?」
女が私の変化に気付いたのは、私が呪符に"念を込めた"直後。
一度は懐に仕舞った銃に手をかけた刹那、私の体は"金色の光"に包まれた。
「これは…!?あっ…!!」
"眼下で"聞こえてくる2発の銃声。
女は一時的に目を潰されたにも関わらず、私がいた場所に銃弾を撃ち込めるあたり…彼女はそこそこの"やり手"なのだろうか?
その辺は良く知らないが…あぁ、"どうだっていい"のさ。
「さてさて…どうしてくれようか。決めかねてるのだけど」
雪の舞い散る歩道の上で、バサッと翼を羽ばたかせて女を見下ろす私。
女はそんな私の姿に気付いて唖然とした顔を晒すと、即座に銃口を向けてきた。
「っと…よっ…!」
難なく躱して、八坂神社の敷地の中へ避難する。
こうなったのは"予定外"…外への影響は、少しでも"少なく"しなければ…
この姿では"お面"に施された程度の術では、姿を隠せないのだ。
「待ちなさい!貴女!入舸沙月ね!?」
八坂神社の敷地内…雪化粧が美しい木々の間に着地した私を追いかけてきた女。
彼女の言葉に、ニィっとさっき向けられた顔と同じ嘲る笑みを返した私は、両手に念を纏わせて女を威嚇して見せた。
「あぁ、リサーチ不足だったなぁ。女…私の名を知ったのなら、アンタも名乗るべきだぜ」
「ぐぅ…」
女の態度に比例して、周囲に舞い散る雪の勢いが増していく。
私はその変化に驚くと、女は銃を仕舞って手を上に掲げた。
「この雪も、アンタの仕業か。困るんだよね、帰れなくなるじゃない」
「言ってなさい。入舸沙月…お前の行く末は私達の"大使館"よ!」
その言葉と共に、女の手の動きに合わせ、"吹雪"が私に纏わりついてくる。
パッと翼を羽ばたかせて空に舞い上がった私だが、女は手をこちらに向けたまま…
どうやら、何処かの誰かさんと同じように…私にねっとり付いてくるタイプの攻撃らしい。
「その程度の"吹雪"で私が凍ると思ったか!?さぁ、もっと私を愉しませて見せなぁ!」
空から彼女を煽ってやると、女はその手に氷の弾を纏わせてこちらに牙を剥いた。
「あぁ、今すぐやってやる!"エミリア"の手で、貴様を氷漬けの標本にしてくれるわ!」
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