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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
伍章:境界線上の妖少女(上)
234/300

234.もう何も無いと思いたいが、まだ何かあると思ってる自分がいる。

もう何も無いと思いたいが、まだ何かあると思ってる自分がいる。

百鬼夜行を"終わらせた"私は、ボーっと呆けた顔で、人の捌けた清水新道を眺めていた。


「凄い…あっという間…だったね」

「あぁ。何も無かった見たいだ…」


静寂に包まれた中、千鶴と南大路君がポツリと呟く。

そうしている間も、降り出した雪は強さを増しており、京都の街は白く染まりだしていた。


「さて、仕事も終わり…皆は先帰っててよ」


私は誰もいない道の方を眺めて目を細めると、そう言って皆の方を振り返る。

当然というか、予想通りというか…皆は私の言葉に、直ぐには従わなかった。


「入舸さん。まだ何かあるんだろ?」「うん、隠してる声色だね」


雲丹亀君と三条君にそう言われて、苦笑いを浮かべる私。

短い付き合いだというのに、よく私の事を知っていると言えるのか、私が単純なだけか…

何とも言えない気持ちになった私は、首を小さく振ると、親や沙絵がいる方角を指さした。


「違う違う、家の手伝いさ。一時的に沙絵と八沙を取っちゃったからね」

「あぁ…」「なるほど…」


私の言葉に、どこか怪訝そうな含みを持たせて頷く5人。

だが、それ以上、押し問答をしている暇は無い。

私は足を踏み出すと、皆が付いてくると言い出す前に手を振って駆け出した。


「それじゃ、また後で!」


そう言って、再びお面を被った私は、人に見えない姿で雪の降りしきる京都を駆け抜ける。

清水寺の正面?の広場的な所を越えて、三年坂を通り抜け…

入舸家に警邏を割り振られた八坂神社周辺までを、ノンストップで走り続けた。


「さて…何処で見張ってるんだかね…?」


ねねの道を真っ直ぐ進んで、八坂神社…の敷地内にある円山公園に入っていく。

普段であれば、ここも観光客で賑わっているであろう場所。

だが今は、夕方の、暗くなりだす時間帯で…更にはこの雪だ。

人の気配は殆ど感じず、見える範囲に一般人の姿は見えなかった。


「雪化粧の景色も良いもんだけどな。流石に急過ぎるし…何より雪が強いか」


普段見る事のない、雪に覆われた京都の景色。

ポツリと一人、周囲を見回しながらそう呟くと、沙絵と連絡を取るために、着物の裾からスマホを取り出した。


「ん?」


スマホを見やれば、ついさっき沙絵からメッセージが来ている。

曰く、"降雪の為、早く切り上げて本家に移動中です。沙月様も早く戻ってきてくださいね"


「……」


雪が降りしきる中で、そのメッセージを見た私はガックリと肩を落とした。

たまには家の手伝いをしてポイントを稼ごうとすれば、こうなるのだ。


「まぁ、仕方がないか」


私は誰もいない公園内で一人、呟いて空を見上げる。

北海道でも「これは積もるなぁ…」とゲンナリしたくなってくる雪模様なのだ。

この辺りが雪に強いはずも無いから、明日明後日位まで、交通機関は大荒れになるだろう。

ひょっとしたら、帰りの飛行機が飛ばないかもしれない。


「大阪もこの様なら、ちょっとヤバいかもなぁ…帰れるかな?年明けまでに」


そう呟きながら、お面を外し、本家への帰路を歩き出す私。

少々歩くが、本家は京都御所の近く…歩くとしても、何てことの無い距離だ。

寧ろこの雪ならば、下手にタクシーを捕まえる方が時間がかかるだろう。


-カタカタカタカタカタ……-


「?」


帰路を歩き出した直後、私の背後で何かが囁くような音が聞こえてきた。

不思議な囁き声に振り返るが、私の背後には、誰もいない。

風の音のせい?それとも雪のせい?私は首を傾げて前に向き直る。


-ケタケタケタケタケタ……-


すると、さっきとよく似た囁き声が聞こえてきた。

不気味で、神経を逆撫でするような声。

私は少し歩みを早めて、その声から逃れようとする。


-カタカタカタカタカタ……-


だが、その声からは逃れられない。

円山公園を出て、車通りが疎らな道の、歩道の真ん中で立ち止まった私は目を潜めた。


(妖の気配?…それは、京都ならいつも薄く漂ってるものだけど、これは違う?)


違和感を感じながら辺りを見回しても、違和感の主は現れない。

気が付けば、雪は更に強さを増し…風も吹いてきた様だ。

横殴りの雪を浴びながら、私は違和感の主を探そうと必死で辺りを見回す。


-ケタケタケタケタケタ……-


私を嘲笑うかの様に、止まない囁き声。

何処を向いても、背後から、纏わりつくように聞こえてくる。


「……あー、畜生!」


いよいよ焦れた私は、着物の裾に手を突っ込んでボゥっと呪符を光らせた。

ドス黒い光が私を包み込む中、未だ鳴りやまぬ囁き声の主に聞こえるように声を張る。


「誰だ!?さっきから!!ケタケタカタカタ喚いてねぇで出て来な!!」


お面越しの叫び…妖にしか届かぬ叫び声。

叫ぶと、囁き声はピタリと止んで…暫くは吹雪の音が辺り一面を支配した。


だが…


-カタカタカタカタカタ……-


再び…


-ケタケタケタケタケタ……-


叫び声が私に纏わりついてくる。

凄く"喉が乾く"叫び声…凄く"お腹が空く"叫び声…

ゴクリと唾を飲み込んだ私は、嫌な感覚を味わいながらも"ソッチ側"に引きずり込まれぬよう奥歯を噛み締めた。


「何なんだ…一体…」


この叫び声を聞いていると、何故か1度振り切った"あの感覚"を思い出してしまう。

"人を食べたくなる欲求"だ…吹雪で、"いつもと違って"人通りが無くて本当に助かった。


-カタカタカタカタカタ……-


(妖の仕業なのは間違いない。"私"に動じない辺り、外国人だろうが…)


防人本家に帰ろうか?とも思ったが、放置して帰る訳にも行かないという考えも頭に残り…

結局、中途半端に帰路をジリジリと進みながら、辺りを見回している現状。

まだ、右手側に八坂神社の敷地が見える程度にしか進めていなかった。

何かで"形勢逆転"を狙いたいが、どうすればいいか、思いつかない。


「弱ったな…」


吹雪の中、ポツリと呟いた刹那。

パッと何かの破裂音がして、体の内側から、じんわりと熱い何かが込み上げてきた。

意識が反応するよりも早く、力を失って膝から歩道に崩れ落ちる…


「一矢報いる位は、許されるでしょう?」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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