233.まさか天下の往来で、あの姿をさらす訳が無いだろう。
まさか天下の往来で、あの姿をさらす訳が無いだろう。
もちろん"とっておき"として持ってはいるが…すぐに使うわけにはいかない。
私は驚き、身構える外人たちを前にして、ようやく彼らに嘲る笑顔を向けてやった。
「形勢逆転だな。ローマ人に学ばない、君達が悪いんだよ?」
そう言った直後、私の背後に出来たドス黒いサークルから、次々に妖が出現し始める。
「Good Afternoon !! 入舸さん!!また一段と強くなったのね?」
「えぇ、先生。1年あればこうもなるみたいで…」
「流石だわぁ…」
「沙月様。呼び出すよりも、こっちのほうが早かったですね」
「そうするつもりは無かったんだけどね。沙絵…指示は言わなくてもわかる?」
「えぇ。何日やってると思ってるんです?」
「沙月ィ!こっちは随分と騒がしいじゃねぇか!」
「八沙。もしかして、向こうは暇だった?」
「雑魚しかいなくってなァ!こっちゃ、ちと、楽しめそうじゃねぇか!」
"私が取り込んだ"妖が出て来ては、周囲の情景に目も触れず、外人達に襲い掛かった。
一瞬のうちに出来上がる"百鬼夜行"の阿鼻叫喚。
私は動かず騒がず高みの見物…ウズウズしてきたが、じっと我慢だ。
「な、なんだこれは!…に、逃げ…!」
「逃がすかよドアホ!喧嘩売る相手を間違えたって思い知らせてやらぁ!!」
「子供だと思って甘く見たんでしょう~?それよりも貴方達、可愛い骨をお持ちね?」
「ほ、骨?どういう…う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
"先発隊"が出てきて、あっという間に外人妖達をかき乱していく。
あちらこちらで金色の光が湧き上がり、瞬きする間に妖は何処かへと"隠されて"いった。
「おっと、出遅れたか」「元がそろそろだと言ったのにな」
「隠せって?わかってるよ。恐怖を味わわせてでしょ?」「ここに来るのはいつ以来かな」
近所の鬼たちや天狗達…八沙の配下の者や、どこで絵を書いたかもわからぬ連中…
いつぞや異境で描いた連中すら現れた後で、しんがりを努めて出てきたのは"防人元"の傍にいる4人の妖達。
「大物迄出てきやがったぜ!沙月も偉くなったもんだぁ!」
その姿に気付いた八沙は驚きつつも、楽し気なニヤケ顔を崩さない。
大物…夢幻回廊を護る妖は、確かに大物か…
「あれが…夢幻回廊の…」「沙月、あんな強いの倒したんだ」
一般客を退避させつつ、遠巻きに私を見ていたモト達の呟きが耳に入る。
ここまで、私は刺青に手を当ててから"一歩も"動いていなかった。
百鬼夜行…
使い手の妖力によって、出てくる妖の"酔い具合"と"統制の難易度"が変わる厄介な能力。
厄介な能力だと…そう思っていたのだが…どうやらこれからは認識を改めねばならない。
「さぁ、皆、一帯の化物共を"隠して"やれ!それが出来ない存在であれば"どのように"使おうが構わない!連中の痕跡を塵一つ、この街に残すな!」
この間、異境で使った時よりも、私の妖力は格段に上がっている様だ。
ほろ酔い加減の妖達は、私の指示に逆らうことなく、寧ろ私の指示に喜んでいる位な声を上げると、更に"蹂躙"の勢いが増していく。
「まるで花火だね。曇り空…寒空なのが勿体ない位だ」
圧倒の光景を見ながら、ポツリと呟く私。
清水新道の門の所にある柵に腰かけて、ふーっと息を吐けば、吐く息は白く…
「ん?あぁ、雪が降ってくれれば…多少は映えるかな」
ポツリポツリと、雪が降って来た。
最初に気付いたのは、1粒2粒…だが、瞬きするうちに数は増していき…
1分も経てば、本降りと言える程の、大粒の雪が辺りを彩る。
「被ってて正解だったな」
頭にかぶった笠を弄りつつ、目の前で起きている光景に目を細める私。
黒い光に赤い光が路を彩り…金色の光が所々でパッと咲き乱れる光景。
目の前にいたハズの外人連中は、今はもう100m以上も離れた所で悲鳴を上げていた。
「この惨状…どう収拾付けるんだ?」
「人に見えてるのは"半分"。この雪もラッキーだ。外を見ても、出る者は少ないでしょ?」
「確かにそうだけど…でも、あの様子は晒されたら不味いんじゃ…」
「えぇ、ちょっとだけ騒がすだろうけども…そこら辺の隠蔽は"大人"に任せたよ」
モトと千鶴の言葉にそう返して、クスッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
妖力が無く、術も半人前なら…"そういう所"では役に立ってもらわないと。
そう思ってしまう私も、思った以上に"京都の血"が混じってそうだ。
「百鬼夜行も使う気は無かったんだけどね。あんだけ大挙して押し寄せられれば、ね?」
「あぁ、初めて見たぞ。スゲェな…もう、何も言えねぇや。味方で良かったと思うね」
「うん。噂には聞いた事があるんだけどね。百鬼夜行…もう、大昔に廃れた力だって…」
雲丹亀君と三条君の呟きには、畏怖が混じっていた。
そこで初めて、クルリと背後を振り返れば…既に皆が私の後ろで呆然としている。
「そういえば、誘導は終わったの?」
「あぁ、あとは寺の人がやってくれるって。もう大半の人は三年坂の方に行ったはずだ」
「早いね。流石はお膝元って所かな?」
私がそう言ってお道化て見せると、5人は何とも言えない苦笑いを返してきた。
「こっちももうすぐだろうけどね。片付いたら、終わりって事で良いでしょ」
「あぁ、どうせ清水寺も閉まる時間だったしな」
「しっかし、大人達は問題山積みだね。自分達の事に、外人にって。大変だ」
皮肉交じりにそう言って、再び清水新道の方を見やれば…
さっきまでの眩い光景はどこへやら…既に閑散としてきた通りの姿が目に映った。
人に見える妖は姿を消し…妖はこちらの妖に"取って喰われたり"してる状況。
そろそろ、店仕舞いの時だろうか。
「沙月様、大方片付きました。後は"我々"でなんとかできます」
そう思っていた頃、沙絵が私の傍に戻ってきてそう言ってくる。
私はそれを聞いて頷くと、再び左耳後ろの刺青にそっと手を当てた。
「そう。まだ街からは"変な気配"がするけれど。それは放置するの?」
「遠いのでわかりかねますがね。あとは"大人"にお任せを。子供は家に帰る時間ですよ」
「そ、なら、お言葉に甘えて」
沙絵の冗談交じりの言葉に、ニヤッとした笑みを浮かべて返すと、刺青に当てた手に念を込める。
再び私の背後に巨大な黒いサークルが渦巻いてくると、通りで好き勝手やっていた妖達が一斉に動きを止めた。
「さぁ、お前達。仕事は"終わり"だ。戻ってこい!」
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