232.妖怪に限った話ではないが、何かが集えば騒がしいものだ。
妖怪に限った話ではないが、何かが集えば騒がしいものだ。
お面で顔を半分隠した私は、向こうからやってくる妖と人の集団を眺めながらそう思った。
清水新道の上り坂一杯に広がって、ガヤガヤと喋りながらやってきた外人集団…
彼らは脇の店の人達や、周囲にいた観光客から奇異な目線を浴びながらも、気にする気配も見せない。
(人は人…妖は妖か…外国といえど、そこは線引きされてて一安心だ)
見る限り、人と妖の集団ではあるものの…人と妖の認識に差がある様だ。
人は妖を認識できず、妖は人を認識できる…私達と同じ"境界"がある。
同じだというのなら、やり方は"いつも通り"で良いだろう。
周囲の店が、彼らの"怪しさ"に気付いて声かけを止め…
観光客は彼ら(と多分私の)不気味さに気付き蜘蛛の子を散らすように去っていく。
さっきまでは観光客で騒がしかったこの一帯は、外人を除けば随分と静かな空間になった。
モトや千鶴たちの働きは、既に効果が出始めている様だ。
(ま、防人の"言う事"は聞くよな。京都の人間ならば…)
私は向こうから近づいてきた外人集団を見て、奥歯をグッと噛み締める。
もうそろそろ声が通る距離まで近づいてきた。
向こうは私の存在に気付いている様だが…まだ、何かを起こす様子はない。
「さぁ、止まりましょう!皆さん!」
距離にして数メートル先まで来た時だろうか。
清水新道の終点で突っ立っていた私に、ニヤニヤした目線を向けた先頭の男が声をあげた。
見た目に反して、凄く流暢な日本語だ。
「百鬼夜行の真似事?観光客にしては、随分とマナーのなってない連中だね」
集団が立ち止まった直後、私は彼らにそう言って、手にした呪符に念を込める。
"赤紙の呪符"…模擬戦でイイだけ光らせた"黒い光"を見せると、彼らは俄にどよめいた。
「まさか"絵描き様"が直々に出向いてくれるとは!皆さん!ツイてますよ!」
演技っぽく叫んだ先頭の金髪白人男以外の全員にも、日本語は通じる様だ。
ガタイから察しても…兵隊とか、そう言うのには見えないが…
日本で暮らしている外国人なのだろうか?
私は手に宿した黒い光を、更にドス黒くして見せて話を続ける。
「観光案内でもしてくれって?冗談じゃない。何用だ?お前達は、何者だ?」
「我々は"渡来妖人保護の会"の者だ!」
「はぁ…」
聞いた事も無い組織名…首を傾げて見せると、目の前の金髪男が一歩前に出てきた。
「この国は"海を渡ってきた"妖への扱いがまるでなっていない!西洋の妖はすぐに淘汰され、共生すら許されない!裏がそうなら表で生活するのは難しいんだ!だから、そのような"ゴミ扱い"を是正する為の組織さ!」
「なるほどね」
思っていた以上に、真面目な組織らしい。
何かの都合で日本に来た妖もしくは妖組織の関係者を保護する為の会…という事か。
私はその考えに思わず納得して頷くと、金髪男は更に勢いづいた。
「この国では"防人"と呼ばれる存在が妖の存在を取り仕切っているな!ここは"防人"の庭!そこで我々は決起する!妖の存在を知らぬ一般人にも存在を浸透させられる様に!我等妖の…"モンスター"の権利を訴え、モンスターが"餌"を得られる様にする!人の社会に"入り込む"手助けをするのだ!"防人"の連中を教育してやり、この国を"開国"させてやるのさ!」
金髪男は通りの良い声でトンデモナイ事を叫び出す。
前言は撤回しよう…真面目な組織なんかではない。
彼の叫びに目を見開いた刹那、目の前の"人間"の輪郭が僅かに"ブレ"た。
「アンタも妖だったのか」
「あぁ!"雑魚共"を送ってみれば成果も無しだ。期待していなかったが"良く分かった"!」
人の姿を保ったまま"妖"へと変貌した金髪男…沙絵や八沙と同じ手合いか。
そうともなれば"腕が立つ"…私は、背中に嫌な汗を感じると、目の前の男は自らの"妖力"を頭上へ噴出して見せた。
「"防人"は妖を淘汰する事しか考えていない!妖の力を"活用"する事も出来ていないクズの集まりだ!流石は"島国"…遅れている!我々"世界連合"が是正してやる!」
その叫び声に呼応して、通りの方で悲鳴が上がった。
悲鳴に驚いて男から目を離してそっちを見れば、"化物"の姿をした連中を見て驚いた一般人の姿が見える。
「なぁ、絵描きさん?…妖、モンスターはこの世に必要だ。"必要悪"なんだ。使い勝手が良い"モンスター"は稼げる。金になる上に、色々と"都合が良い"んだ。発展には"必要不可欠"な存在なんだよ。わかるか?」
悲鳴を聞いて顔を顰めた私に、ニッコリと嘲た顔を向けてくる金髪男。
獣人と化した奴の周囲を見やれば、生首だけで漂う化物もいれば、何か虫が集まって人を象った様な化物…雪男を具現化した様な存在までもが通りを埋め尽くしている。
「おっと。援軍ですか?どれもこれも可愛い盛りでは無いですか」
「!!!」
「沙月!」「終わったよ!」
ギリッと奥歯を噛み締めてどうするか頭を回転させている私の傍に、仕事がモト達が駆けつけてくれた。
「ありがと…でも、皆の仕事は、ここまでだな」
皆の姿を見て、"ある決意"をした私はモト達にこう告げる。
「一般人の誘導を続けて。この一帯だけでいい」
「え?」「でも、この連中は…」
「行って!」
私はそう言って、妖力を纏わせた呪符から妖力を引いて、パッと手を放す。
「あらあら?この数の前で、降参でもしますか!?絵描き様ともあろうお方が?」
ジリジリとこちらに近寄って来た金髪男が、さっき以上に嘲る口調で叫んだ。
私はそんな男の顔を見て「はっ」と鼻で笑って返すと、そっと左耳の後ろに手を当てる。
「まさか…」「え?どゆこと?」「二寺さん、離れてよう!こっちだ!」
その仕草だけで"察した"のはモトだけだった。
目の前の連中は、何が起きるのかと足を止め…私の様子を伺い始める。
「随分と"高尚"な考えを持っているようだね。だけど、"今の所"は…受け入れられないな」
そう言って、左耳の後ろにある"刺青"に手を当てて、念を込める。
刹那、私の背後に巨大な"ブラックホール"の様な黒いサークルが渦巻いて出現した。
「いつだったか…礼儀もなってないアメリカ人が見せろ見せろと喚いてたっけ…」
「なっ!!」「それは…」「もしかして…」「百鬼夜行…!!」
外人達が一斉に腰を抜かす…
「あのアメリカ人が、アンタ方のお仲間かどうかなんて知らないし…」
それ程までに"強い妖力"を放つ黒いサークル…
「アンタ達の"高尚な"考えに共感もしないし反論もしない。私はまだまだ"子供"さ…」
さっきまでの余裕は何処へやら、私は表情を変えず、刺青に念を流し続け…
遂に、黒いサークルから"酔っぱらった妖達"の声が聞こえ始める。
「でも…不躾な連中だって事はわかる。少しばかり、"教育"してやろう。"防人"流のね?」
そう言ってから、更にポツリと呟いた。
「郷に入れば郷に従え…防人は、妖を殺しはしない。何処かに"隠して"やるだけさ。身を持って知るがいい!」
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