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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
伍章:境界線上の妖少女(上)
231/300

231.この時期、この場所はどうしてこんなにも混んでいるのか。

この時期、この場所はどうしてこんなにも混んでいるのか。

私は清水寺の屋根の上から眼下の人混みを眺め、お面の中で呆れた顔を浮かべていた。

市内は、心配していた雨こそ降っていないものの、突っ立っていると寒さを感じる。


「年末に、他に行く場所無いのかな?スキーとか、冬らしい所行けばいいのに」

「そう言うなよ、昔っから京都は観光名所なんだぞ?」

「左様ですか…」


呆れ顔の私を除けば、今回組んでいるのは皆京都人。

彼らにとってはいつもの事なのだろう、特に感慨も無さそうに周囲を見張っていた。


「沙月の所、修学旅行、京都じゃなかったの?」

「中学の時に来たよ。だから、去年だね…まぁ、気まずいったら無かったかな」

「アハハ!やっぱりそうなんだ!防人あるあるみたいだね!他の子も昨日言ってたっけ」

「でしょうね。これから先は…まだマシになるだろうけど」


皆で適当な雑談をしながら、眼下の光景に目を光らせている私達。

突然の仕事に、皆驚いていたが…やること自体は何てことない。

お面を被って"人には見えない"姿になっているから"気楽"だし…

仕事内容も、それぞれが"家の手伝い"でやったことがあった内容。

"外人問題"は昨日であらかた片付いたそうなので、特に何の緊張感も無かった。


やることは、"京都市内で妖が暴れないか監視する"…ただ、それだけなのだ。

日本由来の妖であれば、防人が目を光らせている場所で暴れる事はまず無いし…

問題になってる"外国由来"の妖であっても、市内あちこちに"監視の目"があると分かれば、滅多なことはしないだろう。

ここ数日、外国人が"取り締まり"に遭ってるならば尚更だ。


「しっかし、急に呼び出されて何事かと思えば、人手不足とはね」

「まぁ、昨日の夜から大講堂の電気が消えてないみたいだし?僕の部屋の周りの子の親で帰ってきてないって所もあったから、仕方が無いね」

「大変だなぁ…じゃ、あれか。昨日、成寿の部屋が騒がしかったのは…」

「こっちで面倒見てたからね。ウチ、皆子供の相手が下手だから…大変だったよ」


少し離れたところで"洛中組"の男3人が駄弁っている。

私はそんな彼らから少し離れたところで繰り広げられてる平和な雑談を聞いて、思わずクスッと笑ってしまった。


「三条君、子供苦手なんだ」


そう言って、彼らに近づく私。

必然的?に、私の傍で周囲を眺めていた千鶴とモトも近寄って来た。


「うん…どうしても、我慢できないでしょ?子供って」

「わかるわかる…目が離せなくて怖いんだよね」

「確かに、沙月、子供泣かせるタイプだよな」

「失礼な。否定はしないけどさ。その通りだから」


6人集まって駄弁りだした私達。

清水寺の三重塔の屋根の上で私達が見張っているのは、入り口の方。

今の所、この近辺に棲む妖を一匹も見かけておらず、目に付く外国人もアジア系の観光客しか見えなかったから、完全に気が緩んでいた。


「そういえば沙月。随分と厚着じゃない?この状態なら、寒くないでしょ?」


延々と駄弁っていると、不意にハッとした顔を浮かべた千鶴が尋ねてくる。

今更だが…私と違って、彼ら5人は着物だけの格好でこの場に立っていた。

この状態…お面や耳飾りをしていれば、"妖"に近づくから、ある程度の寒さや熱さは平気になるはずなのだ。


「そうなんだけどさ。北海道のそれとは違う寒さだから…つい…ね」

「あ~、北海道の人、実は寒さに弱い!ってやつ?」

「そうそう。向こうの寒さと違うんだよ。こっちの方…"硬い"んだよね、空気が」

「ん~???」


私の例えに怪訝な顔を浮かべる5人。

彼らの反応を受けて、私は「あ~」と言いながらどう伝えたものかと頭を動かし始めた。


その時。


「…ん?」


モトが何かに気付いて私達に合図を出す。

入り口の方…モトが道の向こう側を指さしたのに釣られてそちらの方に目を向けると、雰囲気が違う"人影"が見えた。


「妖…かな?」

「さぁ。でも、人じゃないな」


千鶴と雲丹亀君がポツリと呟き、俄に緊張感を取り戻していく私達。

その"人影"は、遠くにいるせいか、少しブレて見え…黒ずくめだった。


「この辺の妖でも無い。あんなの見た事ないからな」


南大路君がポツリと呟いた直後。

"人影"は、2つに増え…そしてその背後には、白人系の外人集団がぞろぞろと現れ始めた。


「…何かがおかしいのは確かだな」


モトの呟きに、頷く私達。

事実、眼下を行き交う人々の中で外人集団に気付いた人達は、不思議そうに彼らを眺め…スマホを構える姿も見える。

ただの外国人ならそうはならないが…現れた集団は皆中途半端な着ぐるみを着ているのだ。

熊や狼といったものを模した、顔の辺りだけくり抜かれたようになっている着ぐるみ…

目立つなという方が無理だろう。


「こっちに来るが、何かする気は無さそうだな」

「でも、雰囲気が"人じゃねぇ"ぞ」

「そうだね…予防がてら動こうか…」


今の所実害は無いが…あの異様な雰囲気で何も無いとも思えない。

私はジッと外人集団を睨んだ後で、千鶴達の方に顔を向けた。


「千鶴、南大路君と一緒に降りて、ここを"閉鎖"してもらえる?終わったら私の所に来て」

「「わかった」」


ここの"リーダー"は私なのだ。

2人は私の指示に頷くとすぐに行動に移してくれる。


「モト。雲丹亀君と三条君を連れて、それとなく一般人を避難させてくれる?」

「良いが…どうする気だ?」

「運良く新道から来てるよね。ゆっくり歩いてきてるから…時間はある。アイツ等を、とりあえずこっち迄引き付けたい。だから、清水道から返すか、三年坂の方に通してくれる?」

「なるほど…それならイケるか。でも、大丈夫か?あの不気味さは…」

「大丈夫だよ。妖の"仕組み"は向こうも同じ。人に見える姿じゃなけりゃ、タダの"風"。人に見えるなら"人の掟"で動ける。ま、兎に角行って!終わったら戻ってきて」

「了解」


人の移動と聞いて、僅かに不安げな表情を浮かべたモトに"仕組み"を再度教えてやる。

私の言葉を聞いて、納得したように頷いたモトは、雲丹亀君と三条君と共に、塔から降りて行った。


(さぁ、私は…)


1人、塔の上に残った私は、スマホを取り出して沙絵に"妖到来"のメッセージを入れる。

これは念のため…今見ている限りでは"問題はない"が、大人に報告しておくに越したことはないだろう。


「まずは、彼らの出方を見るとしましょうか」


メッセージを送って、スマホを仕舞った私は、ポツリとそう呟いて塔から足を踏み出した。

ひゅう…と浮遊感に包まれて、石畳の上に着地する。

人であれば怪我は免れない高さだが、お面や耳飾りを付けた、今の私達は平気だ。


「長も見ているのだから、面倒事にはなって欲しく無いのだけど」


着地して、耳飾りを弄りながら独り言。

私はフーっと長い溜息をつくと、外人を出迎えるために、清水新道の終着点へ歩き出した。


「厄介な事になりそうなら…雑魚相手といえど、容赦せず行こうかな」

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