230.後は遊んで帰るだけだと思っていたのだが、そうではないらしい。
後は遊んで帰るだけだと思っていたのだが、そうではないらしい。
昨日で、防人の"厄介事"が色々と片付いたと思ったのだが…
「入舸沙月、ちょっと良いか?」
「はい…?」
昨日、日付が変わっても尚どんちゃん騒ぎをしていた私達。
そのせいで、朝の目覚めはいつも以上に遅くなり、気付けば朝の11時を回っていた。
部屋に戻ったのが最後なら、起きたのも最後…
私が目を覚ました時には、親は既にいなかったし…沙絵や八沙の影も無い。
「以津真さん」
未だに眠たい頭を起こして身なりを整えて、食堂にでも行こうかと思って部屋を出た瞬間。
私を呼び止める声に驚いて見れば、声の主は、今回何かと会う事の多い以津真天だった。
「どうかしました?」
「あぁ、少し話がしたいのだが…眠そうだな」
「えぇ、昨日は遅くまで起きていたので」
「なるほど。だが、すまない…ちょっと急ぎの用なんだ」
「それなら…部屋で聞きましょう。今、誰もいないので」
部屋の外で立ち話…というのも何なので、彼を部屋に招き入れる。
多少荷物で散らかっているが、人が呼べない程の酷さでも無かった。
「今、お茶を…」「いやいい。言っただろう?急ぎだと」
部屋に招いてありきたりなやり取りをした後…
部屋の縁側の方にある…広縁のスペースで対面する私達。
「それで。話って何でしょう?」
「あぁ、昨日の今日で悪いんだがな…清水の方に行ってくれないか」
「清水…?清水寺ですか」
神妙な顔で頼みごとをされている…のだけども、それにしては行き先がおかしい気がする。
怪訝な顔を浮かべて聞き返すと、以津真天は頷いて着物の裾からあるものを取り出した。
「これは…?」
「昨日始末した外国人が持っていたメモだ。翻訳したところ、今日の夕方に清水寺の方で何かをしでかす気だったらしい。そいつらは消したから何も無いとは思うが…念のためさ」
「始末って…」
「グールとかいう輩さ。食人鬼だ。隠してやった。っと…そんなことは良い。それよりも、このメモだ。何人か"出来る者"で組んで出て欲しいのだよ」
以津真天の頼みを聞きながら、私は渡されたメモをジッと見つめる。
生憎英語には明るくないが…一緒にプリントされた地図は、確かに清水寺周辺のものだった。
「別に良いですけど、親たちは何を?外人騒ぎは片付いたのでは?」
「あぁ…"ほぼ片付いた"が正しいな。お主の親や使ってる妖…"強い"者達は皆、街にいるぞ。別の場所を警邏してもらってる。それ以外は、言いにくいんだが"居残り特訓"だ。昨日、お主と手合わせした後で見れば余りにも"弱い"のだ。それでいて、選民意識があるのだから性質が悪い」
以津真天の言葉を聞いて、苦笑いを浮かべる私。
外人騒ぎ…終わったものだと思っていたのだけども、まさか"やり残し"があるとは。
それに、特訓の事については…言ってる事はわかるが…放置していたのは彼らも同じだ。
まぁ、どっちも尻拭いしようとしているだけマシか。
「防人元もそこを憂慮していて…昨日の件もあり、大ナタを振るう事になったのさ。そのせいで今日、街を見張る者の数が足りなくなった。1箇所だけだが…まぁ情けない話さ」
以津真天の愚痴を聞いて、事情は大体理解できた。
やることは何てことない、"正月"に毎年やっていた事だ。
仮面や耳飾りを付けて人々の前から姿を消して…妖達に睨みを効かせればいい。
私は苦笑いを浮かべたまま、心の中で彼に同情すると、頭を仕事モードに切り替える。
だが、ここは京都…"もしも"の時、何処までやって良いかを知っておく必要があるのだ。
「して、何人位の規模で?あと、もしもの時の対処を知りたいです」
「そうだな…清水に居てくれればいい。6人位か。昨日ツルんでいた連中でいいだろう」
「そうですね」
「もしもの時は、近くの大人を呼べ。近くにはお主の親族を配置してる」
「なるほど…配慮頂きありがとうございます…」
「こっちの不手際だ。それとな、最悪の場合。"市民に危害が加わったら"、姿の露呈を気にせずに動け」
「了解です」
私は眉を吊り上げながらそう言うと、以津真天は口元を緩める。
「……まぁ、いいか。では…昼食を摂ったらすぐに出てくれ。15時までには居て欲しい」
何か言いたげだったが、私の目を見て止めたらしい。
そう言って立ち上がり、部屋を出ていく。
私は席に座ったまま、彼が部屋から出ていくまで見送ると…ふーっと溜息をついた。
「さて…と」
外を眺めて、雨が降り出しそうな曇り空を眺めて顔を顰め…
着物の裾からスマホを取り出してモトと"洛中組"にメッセージを打ち込む。
"昼食を食べたら、"仕事"の準備を整えて玄関ホールに集合…13時までに来て"
すぐに既読が付き、OK!というスタンプが返って来たのを確認すると、スマホを仕舞って準備に取り掛かる。
(防人本家の、外の世界…耳飾りも付けておこうか)
完璧に"遊ぶ気"だったから、いつもの様に着物に呪符を仕込んでいるわけでは無かったのだ。
折角着替えた"楽な着物"を脱いだ私は、下着姿のまま部屋の中をうろついて、必要なものを集めていく。
呪符に、お面に、防人元から貰った耳飾り…
服装は着物…なのだけど、外が寒そうだから外套も欲しいし…
雨が降ったら困るから、笠も頭に被ろうか。
そんな感じで部屋にある物を集めて、それを身に着けていく。
そうして出来上がったのは、如何にも時代劇村とかに居そうな和服姿の女…
青系の着物に身を包み、黒い外套を羽織り…頭に笠を被った女。
「まぁ、良いか。京都だし」
どう考えても道中で目立つ格好だが、ここは京都だ。
道中は目立つだろうけど、こういう格好は私だけでは無いのだし…
ここ数日、防人達も似たような格好で京都の街をうろついていたのだから、気にすることでもない。
「さて、お昼にでもしましょうか」
姿見で身なりをもう一度確認して、準備が整った事を確認した私は部屋を後にする。
部屋を出る段階で、時計の針は12時手前を指していた。
食堂の込み具合が悪ければ…待ち合わせ時間ギリギリになりそうだ。
「……ふぅー」
私は廊下に出てすぐ、軽い溜息をつく。
急な仕事、状況的には"何も無い"と思いたいが、今回の京都は"何かが違う"…
だから、これから先に、何かがありそうで、少し胸がざわついていた。
「運が良いのか悪いのか…」
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