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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
伍章:境界線上の妖少女(上)
229/300

229.自分の居ぬ間に、そんなことがあったとは知らなかった。

自分の居ぬ間に、そんなことがあったとは知らなかった。

皆の"異様な仲の良さ"に戸惑っている私だけど、千鶴は私のお陰だなんて言うのだ。

勝手に祭り上げられるのもどうなのだろうか…?と思って詳しく聞いてみれば、確かに私が主犯な出来事が幾つか重なってこうなったらしい。


「なるほど。そりゃ…そうもなる…のかな?」


千鶴に祭り上げられた後で話を聞いた私は、何とも言えない苦笑いを浮かべて首を傾げる。

どうやら、こうなった切欠は、私が"1人で"塔に挑もうとして…皆がそれを止めた時のことらしい。

大人達が帰ってきて、"元通りの関係"に戻りかけた皆がまとまる切欠を作ったのが私なのだとか。


「そうよ!沙月があそこで塔に挑んでくれたから!皆思ってる事を言えたの!」

「ちょっとズルいけどな。でもよ、場に酔ってる時じゃないと言えないだろ?」

「まぁ、勢いに任せて行ったのは私もそうだけど…よくもまぁ…そんな大立ち回りを」


顛末を聞いて納得してから…呆れ顔を浮かべて皆と言葉を交わす私。

皆は、塔に挑み…私が"中庭の仕掛け"を出現させて塔の中へ入った後…

中庭に出現した"刺客"達を、モトを筆頭として見事打倒して見せたのだ。


思わぬ展開に驚く親の目の前で…

私が塔を攻略するかどうか位のタイミングで刺客を退けた皆は、そのままの勢いで親に思いのたけをぶちまけたのだという。


家々の争いを"煽る"立場だった"洛中組"の千鶴たちが頭に立っての大立ち回り。

大人達は、自分たちが仕事をしている間に"何があったのか"?とどよめいたらしいが…

子供達の"成長"と"妖力"に驚きつつ、力ずくで収めるといった対応をしなかったのだそう。


思っていたよりも素直?な感じで、大人達は子供達の話を聞き入れる事で場を諫め…

見事、子供達は"交流の自由"を手に入れる事となったのだとか。


そんなこんなで、今日の夜は防人始まって以来の"賑やかな"夜となった。

ここでは私達"同期組"が顔を合わせて食事を取っているが…

別の場所では年が離れた"年下組"の子供達が賑やかに遊んでいたりするらしい。


「今頃は大講堂で大モメしてるのかな?」

「さぁ、今回の仕事の後始末だけして、棚上げにでもしてたりしてな」

「だとしても、もう俺達にゃ関係のねぇ事さ。勝手にモメてろってんだ」


私達の周囲でも、今日の話で盛り上がっている様子。

私は引きつった顔を貼り付けて、残った夕食を突きながらその光景を眺めていた。


「思ったよりも、大人達が"ダメダメ"だったりしてな?」


隣に座っていたモトが、ボソッと毒のある一言を呟く。

それを聞いた私は、食べていたもので一瞬喉を詰まらせたが…

すぐに飲み込み、モトの腕をチョンと突いた。


「まさか。私の親の妖力、モトも知ってるでしょ?」

「そうだけどさ。もう沙月の方が強いだろ?それに、俺が言ってるのは沙月の所みたいな"バリバリの所"じゃない」

「そうそう!ウチの家とか!"本家に近い"家の人とかさ、妖が少なくて防人の仕事を余りしてこなかった家の人とか!私達位の妖力で驚いてたもんね!」

「あぁ…千鶴とか成寿は親から怖がられそうだもんな。あの様子じゃ」

「なるほど…そういうこと…」


私はモトの言葉の真意を知って頷いて見せる。

確かに、千鶴や南大路君等の"洛中組"の親からは、妖の雰囲気を感じたことは無かった。

もしかすれば、あの場が収まったのは"子供達との力量差"が原因なのかもしれない。

こんなに"呪符の使い方を知らなかった"人が多かったのだから、十分にありうる事だろう。


「それで?沙月の方は?どうだった?塔の中」

「あぁ、そうだね…そうだね…そんな、静かにならなくても…」


千鶴が私に話を振ると、周囲の盛り上がりが一気に静まり返る。

それに顔を引きつらせると、モトが噴き出した。


「皆気になってるんだって。中で何があったのか。ちゃんと防人元に会って来たのか?」

「そうだろうけどさ…まぁ、何だ。塔の中でギブアップって事は無くって、ちゃんと"塔を守る妖"を打倒して防人元に会って来たよ」

「凄いな…塔を護る妖って、防人の中でも選りすぐりだって聞くぞ?どんな妖なんだ?」

「それは…秘密。皆がいつか"挑戦"する時の為にね!でも、そこそこ有名?な妖だよ」


モトの質問に答える形で話し始めると、周囲はドッと沸き立つ。

質問をしたモトも、私の"報告"に目を見開くと、目力で先を促してきた。


「で…これが戦利品ね」


私はそう言って、"耳飾り"を取り出して右耳に付けた。

今から話す事…視線は、彼に見せてもいいだろう。

厄介な問題の無い、純粋なままでいられた私達の光景位…


「凄いな。耳飾りでこの妖力って…それが、防人元の妖力なのか?本当に人間か?」

「うん。実物はこんなもんじゃないよ?冷や汗で震えっぱなしだったんだから」

「沙月でそれなら、俺達が対面したら気絶しちまいそうだ」

「だろうね」


モトの問いかけに答えて、南大路君の合いの手に答えて…

興味津々な目と耳をこちらに向けた皆に、圧倒されてしまいそうだ。


「ねねっ!防人元って、どんな見た目…?というか、どんな人?」


続いてやってきたのは千鶴の質問。

私は、「あー」と答えを言い淀みながら、どう答えたものかと頭を巡らせる。

脳裏に真っ先に思いついたのは"菅原道真公"としての姿だったが…


「思ってたよりは普通な人…かなぁ。防人らしい白髪を持つ中年男…ダンディなイケおじって感じかなぁ」

「へぇ…もしかしたら、どこかですれ違ってたりする?」

「いや、あの妖力で気付かれるだろうね。皆の前に出てこれない理由がわかったよ」

「そうなんだ。親ですら1度も見たことが無い!って言うんだけど、そんな感じなんだ…」


私は千鶴の納得した表情を見ると、早めにこの話題を切り上げようと話を進める。

これ以上切り込まれれば…ボロが出かねない。

余計なことは…防人元に施された術で言わなくて済むだろうけど、そのせいで出たボロを誤魔化すのは私の仕事なのだ。


「ま、大した話はしなかったよ。驚かれたけどね、お題を成し遂げたことに」

「そりゃそうだ。元々無理前提だったし。沙月1人来た事ですら向こうは驚いただろうな」

「うん。それで、"お土産"を貰って帰って来たって訳さ」


そう言って話を終わらせる。

皆が皆"それだけじゃないだろう"という目線を私に向けていたが、私はそれを気にせず残っていた夕食に手を付け始めた。


「色々隠されてる気がするが…いいさ。しっかし、防人元…人だったんだな」

「ねぇ~…余りに出てこないから、妖なんじゃないかって疑ってたんだけど」

「名前も襲名制なんだっけ?」

「そうそう。僕の親曰く、21代目防人元…だとか」


話し終えた私をジトっと見てから、再び盛り上がりだす周囲。

私のいるテーブルでは、防人元の話題が始まった。


「本当に人なんだろ?」

「そこで嘘ついてどうするのさ。人だよ。妖力が強いだけで…私の強化版みたいな?」


モトに話を振られても、私はさっき言ったことを覆さない。

防人元は人である…それは、全防人達の"共通認識"なのだ。

疑いがあろうが、彼は人…

それが崩れてしまっては"対妖即応組織"としての"防人"はどうなってしまうだろうか。


(それにしても、面倒な事を教えられたものだよ…全く)


私は脳裏で防人元に言われた内容を思い返しながら、軽く毒づいた。

防人元の思想は…ハッキリ言って今の"防人"に合わないのだ。

妖か人か…そんなので私が馬鹿らしく思える程の"思想"…

私の脳裏で様々な言葉や考えが蠢いていたが…

一旦横に置いて、とりあえず今はこの"関係"を楽しむことにしよう…今日は、疲れた。


「話せない事って、結構ヤバい話なのか?」

「それは、あの塔の警備を越えた者だけの特権ってやつだよモト。あの塔を越えるための特訓相手には、いつでもなってあげるからさ?これだけじゃ、不満かな?」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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