229.自分の居ぬ間に、そんなことがあったとは知らなかった。
自分の居ぬ間に、そんなことがあったとは知らなかった。
皆の"異様な仲の良さ"に戸惑っている私だけど、千鶴は私のお陰だなんて言うのだ。
勝手に祭り上げられるのもどうなのだろうか…?と思って詳しく聞いてみれば、確かに私が主犯な出来事が幾つか重なってこうなったらしい。
「なるほど。そりゃ…そうもなる…のかな?」
千鶴に祭り上げられた後で話を聞いた私は、何とも言えない苦笑いを浮かべて首を傾げる。
どうやら、こうなった切欠は、私が"1人で"塔に挑もうとして…皆がそれを止めた時のことらしい。
大人達が帰ってきて、"元通りの関係"に戻りかけた皆がまとまる切欠を作ったのが私なのだとか。
「そうよ!沙月があそこで塔に挑んでくれたから!皆思ってる事を言えたの!」
「ちょっとズルいけどな。でもよ、場に酔ってる時じゃないと言えないだろ?」
「まぁ、勢いに任せて行ったのは私もそうだけど…よくもまぁ…そんな大立ち回りを」
顛末を聞いて納得してから…呆れ顔を浮かべて皆と言葉を交わす私。
皆は、塔に挑み…私が"中庭の仕掛け"を出現させて塔の中へ入った後…
中庭に出現した"刺客"達を、モトを筆頭として見事打倒して見せたのだ。
思わぬ展開に驚く親の目の前で…
私が塔を攻略するかどうか位のタイミングで刺客を退けた皆は、そのままの勢いで親に思いのたけをぶちまけたのだという。
家々の争いを"煽る"立場だった"洛中組"の千鶴たちが頭に立っての大立ち回り。
大人達は、自分たちが仕事をしている間に"何があったのか"?とどよめいたらしいが…
子供達の"成長"と"妖力"に驚きつつ、力ずくで収めるといった対応をしなかったのだそう。
思っていたよりも素直?な感じで、大人達は子供達の話を聞き入れる事で場を諫め…
見事、子供達は"交流の自由"を手に入れる事となったのだとか。
そんなこんなで、今日の夜は防人始まって以来の"賑やかな"夜となった。
ここでは私達"同期組"が顔を合わせて食事を取っているが…
別の場所では年が離れた"年下組"の子供達が賑やかに遊んでいたりするらしい。
「今頃は大講堂で大モメしてるのかな?」
「さぁ、今回の仕事の後始末だけして、棚上げにでもしてたりしてな」
「だとしても、もう俺達にゃ関係のねぇ事さ。勝手にモメてろってんだ」
私達の周囲でも、今日の話で盛り上がっている様子。
私は引きつった顔を貼り付けて、残った夕食を突きながらその光景を眺めていた。
「思ったよりも、大人達が"ダメダメ"だったりしてな?」
隣に座っていたモトが、ボソッと毒のある一言を呟く。
それを聞いた私は、食べていたもので一瞬喉を詰まらせたが…
すぐに飲み込み、モトの腕をチョンと突いた。
「まさか。私の親の妖力、モトも知ってるでしょ?」
「そうだけどさ。もう沙月の方が強いだろ?それに、俺が言ってるのは沙月の所みたいな"バリバリの所"じゃない」
「そうそう!ウチの家とか!"本家に近い"家の人とかさ、妖が少なくて防人の仕事を余りしてこなかった家の人とか!私達位の妖力で驚いてたもんね!」
「あぁ…千鶴とか成寿は親から怖がられそうだもんな。あの様子じゃ」
「なるほど…そういうこと…」
私はモトの言葉の真意を知って頷いて見せる。
確かに、千鶴や南大路君等の"洛中組"の親からは、妖の雰囲気を感じたことは無かった。
もしかすれば、あの場が収まったのは"子供達との力量差"が原因なのかもしれない。
こんなに"呪符の使い方を知らなかった"人が多かったのだから、十分にありうる事だろう。
「それで?沙月の方は?どうだった?塔の中」
「あぁ、そうだね…そうだね…そんな、静かにならなくても…」
千鶴が私に話を振ると、周囲の盛り上がりが一気に静まり返る。
それに顔を引きつらせると、モトが噴き出した。
「皆気になってるんだって。中で何があったのか。ちゃんと防人元に会って来たのか?」
「そうだろうけどさ…まぁ、何だ。塔の中でギブアップって事は無くって、ちゃんと"塔を守る妖"を打倒して防人元に会って来たよ」
「凄いな…塔を護る妖って、防人の中でも選りすぐりだって聞くぞ?どんな妖なんだ?」
「それは…秘密。皆がいつか"挑戦"する時の為にね!でも、そこそこ有名?な妖だよ」
モトの質問に答える形で話し始めると、周囲はドッと沸き立つ。
質問をしたモトも、私の"報告"に目を見開くと、目力で先を促してきた。
「で…これが戦利品ね」
私はそう言って、"耳飾り"を取り出して右耳に付けた。
今から話す事…視線は、彼に見せてもいいだろう。
厄介な問題の無い、純粋なままでいられた私達の光景位…
「凄いな。耳飾りでこの妖力って…それが、防人元の妖力なのか?本当に人間か?」
「うん。実物はこんなもんじゃないよ?冷や汗で震えっぱなしだったんだから」
「沙月でそれなら、俺達が対面したら気絶しちまいそうだ」
「だろうね」
モトの問いかけに答えて、南大路君の合いの手に答えて…
興味津々な目と耳をこちらに向けた皆に、圧倒されてしまいそうだ。
「ねねっ!防人元って、どんな見た目…?というか、どんな人?」
続いてやってきたのは千鶴の質問。
私は、「あー」と答えを言い淀みながら、どう答えたものかと頭を巡らせる。
脳裏に真っ先に思いついたのは"菅原道真公"としての姿だったが…
「思ってたよりは普通な人…かなぁ。防人らしい白髪を持つ中年男…ダンディなイケおじって感じかなぁ」
「へぇ…もしかしたら、どこかですれ違ってたりする?」
「いや、あの妖力で気付かれるだろうね。皆の前に出てこれない理由がわかったよ」
「そうなんだ。親ですら1度も見たことが無い!って言うんだけど、そんな感じなんだ…」
私は千鶴の納得した表情を見ると、早めにこの話題を切り上げようと話を進める。
これ以上切り込まれれば…ボロが出かねない。
余計なことは…防人元に施された術で言わなくて済むだろうけど、そのせいで出たボロを誤魔化すのは私の仕事なのだ。
「ま、大した話はしなかったよ。驚かれたけどね、お題を成し遂げたことに」
「そりゃそうだ。元々無理前提だったし。沙月1人来た事ですら向こうは驚いただろうな」
「うん。それで、"お土産"を貰って帰って来たって訳さ」
そう言って話を終わらせる。
皆が皆"それだけじゃないだろう"という目線を私に向けていたが、私はそれを気にせず残っていた夕食に手を付け始めた。
「色々隠されてる気がするが…いいさ。しっかし、防人元…人だったんだな」
「ねぇ~…余りに出てこないから、妖なんじゃないかって疑ってたんだけど」
「名前も襲名制なんだっけ?」
「そうそう。僕の親曰く、21代目防人元…だとか」
話し終えた私をジトっと見てから、再び盛り上がりだす周囲。
私のいるテーブルでは、防人元の話題が始まった。
「本当に人なんだろ?」
「そこで嘘ついてどうするのさ。人だよ。妖力が強いだけで…私の強化版みたいな?」
モトに話を振られても、私はさっき言ったことを覆さない。
防人元は人である…それは、全防人達の"共通認識"なのだ。
疑いがあろうが、彼は人…
それが崩れてしまっては"対妖即応組織"としての"防人"はどうなってしまうだろうか。
(それにしても、面倒な事を教えられたものだよ…全く)
私は脳裏で防人元に言われた内容を思い返しながら、軽く毒づいた。
防人元の思想は…ハッキリ言って今の"防人"に合わないのだ。
妖か人か…そんなので私が馬鹿らしく思える程の"思想"…
私の脳裏で様々な言葉や考えが蠢いていたが…
一旦横に置いて、とりあえず今はこの"関係"を楽しむことにしよう…今日は、疲れた。
「話せない事って、結構ヤバい話なのか?」
「それは、あの塔の警備を越えた者だけの特権ってやつだよモト。あの塔を越えるための特訓相手には、いつでもなってあげるからさ?これだけじゃ、不満かな?」
お読み頂きありがとうございます!
「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。
よろしくお願いします_(._.)_




