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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
伍章:境界線上の妖少女(上)
227/300

227.思わぬお土産…というと、失礼かもしれない。

思わぬお土産…というと、失礼かもしれない。

だが、緊張しっぱなしで頭がボヤけてしまった今、そういう失礼な表現しか出来ないのだ。


「以津真天…さん…だけは、そのままの名前な…んですね?」

「あぁ、別に…おかしくはないだろう?」

「おかしくは…うん。おかしいけど。いや、うーん…おかしくは…ないかな?」


私は今、防人元の部屋の隅にスペースを借りて、"塔を護る"妖4人の絵を描いている。

退散しようとした私に"百鬼夜行とやらに、あの者達を入れないか?"と言ってきて…

私が上手く返せずしどろもどろになっている間に、場がセットされてしまったのだ。


こうして、私の目の前に正座して並ぶ事になった、私が吹き飛ばしてやった4人の妖…

既に、こちらも向こうも"冷静さ"を取り戻していて、どこか気まずさと恥ずかしさを含みながらの対面になっていた。


「よっし。こんな感じでOKかな。どう?良く出来てるでしょ?」

「ほぅ…噂には聞いた事があったが、良く特徴を捉えたもんだな。自分の似顔絵と言われれば、ちょっと恥ずかしいが…」

「ふふ…絵は飽きる程書いてきてますからね」


そう言って、出来た絵を誰もいない所へよける私。

上質な紙に墨で書く…だなんてことは、滅多に無い事だから手が震えていたのだが…

とりあえず、最初の1人目は上手く書けた。


「そう言えば、その"能力"は誰由来なのかな?」


1人目の絵を書き終えて、ふーっと一息ついた時。

少し離れたところで私達の事を眺めていた防人元が声をかけてきた。


「え?…分かりません…ね。この"刺青"のお陰ではあるのですが…ご存じありませんか?」

「防人の物では無いな。随分"混ざっておる"と思ったが、まだまだ謎が深い様だ」

「あははは…」


防人元ですら分からない"百鬼夜行"の刺青…私は笑って誤魔化すしかなかった。

笑って誤魔化して…新しい紙を机に乗せて、次の"被写体"に目を向ける。


「さ、さて…次は鎌鼬の貴方。名前を聞いても?」

「風吹道晴」

「風吹さん…ですね」


以津真天の次は、鎌鼬。

ヒョロい体型をした若者といった彼の風貌をジッと見つめると、ふと、彼の姿を見て何かに気が付いた。


「もしかして、テレビに出てます?」

「時折。ローカルの深夜番組しか出て無いが、良く知ってるな」

「こっちに居る時、退屈しのぎに見てるんですよ。深夜番組。だから印象にあったのかも」

「その年で深夜番組とは感心しないな…」

「あはははは…」


ぶっきらぼうながらも、何だかんだで会話を続けてくれる鎌鼬。

私は苦笑いを浮かべつつも、サラサラと筆に墨を含ませて、紙に彼を描いていく。

あまり時間をかけないデフォルメ顔…で書いているのだが、最終的には"刺青に取り込む"ので、最低限"誰かが分かる"様にしなければいけないのがちょっと厄介だ。


「見えない刃は、鎌鼬らしく空気を歪ませてるんですか?」

「あぁ。見切られるのは滅多に無い」

「確かに。気付いた時には斬られてたっけ…」


まぁ、私と本人が"自分だ"と認識できれば良いのだが。

どこぞの天邪鬼を取り込んだ時よりは簡単だろう。

私は適当に会話を交わしながら、サラサラとペンを走らせて…

大体、体感で30分くらいの時間をかけて鎌鼬を紙の中に表現した。


「どうです?」

「俺だな。凄いもんだ」

「どうも~」


一丁上り…私はニヤリと頬を緩ませて、紙を横に避ける。

次は…と鎌鼬の隣に視線を向けると、私のニヤケ顔は引きつった笑みに様変わりした。

如何にもな美魔女…関西圏の中年女性…というステレオタイプな風貌をした覚…やり辛そ…


「やり辛そうだなぁ…って?どうでしょうね。アタシは自覚恋っていうの」

「……」

「思うだけで会話が通じて便利でしょう?早くアタシを書いて頂戴な」

「……」

「1人で騒がしいって?そりゃぁね、貴女の脳内の方がよっぽどよ?」


私が何も話さずとも、言おうとしたことを汲み取って次々に答えてくる…通りで覚が…


「覚が嫌われるわけだって?どうでしょうね?アタシからすれば腹の中で…」


何とも言えないやり辛さの中で筆を動かしていく私…別に、腹の中でどう思おうが…


「腹の中でどう思おうが勝手っていうけどね。勝手に話しかけて来てんのはそっちよ?」


あれ?これって、もしかして…元様の心も…


「元様の心は読めないの。そういう術があるんでしょうね?聞いても教えてくれないのよ」

「はっはっは…腹の中は誰にも見られたくないだろう!」


声を出していないのに、妙な疲れを感じながら筆を動かしていく私。

それも後少し…もう少しで完…


「あら、そろそろ完成ね?」


完成した事すら、言葉に出来なかった。

私は呆れ顔とジト目を覚に向けながら頷いて、出来たイラストを指さして見せる。


「良く出来てるわ。若めに書いてくれる辺り、分かってるじゃないの」


イラストを見て満足げな反応を見せる覚…変に疲れたが、とりあえず、これでOKだ。

私は何も言えぬまま、覚が書かれたイラストを横によけて、最後の1人に目を向ける。


「で、最後は…大入道の…お名前は?」

「ワシは入道典光。普段は近場の寺を巡ってる雇われ住職だ」

「はぁ…雇われ住職…妖がそんなことをしてると知ると、ちょっと不思議ですね」

「まぁな!人手不足に喘いでいてな…人助けだよ。妖がやるのもおかしいが!」


最後の一人は大入道…如何にも坊さんといった風貌ですぐに描けそうだ。


「でも、どうしてそんなことを…?」


私は筆を走らせながら、会話を続ける。

大入道は私の問いを聞いて豪快な反応を見せると、パン!と膝を叩いた。


「人は分からぬだろうがな。土着した信仰には力が宿るのよ。その力を貰い受ける為さ」

「なるほど…この辺なら、その力も大きいのでしょうね?」

「あぁ!その力は…もう、すぐ消える時だろうがな。哀しいね。失う物の方が大きいのに」

「時代のせい…ですか。まぁ、この先も今のままやって行けるとは思えない形態ですし」

「その通りさ!昔は力を誇示できたもんだが。今はそんなの"まやかし"でしかないからな」


そう言って豪快に笑う大入道。

微妙に"掠る"考え…私はチラリと防人元の方を見やったが…彼は何も感じていないらしい。

すました顔のまま、私達の様子を眺めているだけだった。


「さて、こんな感じでどうでしょうか?」


そんなこんなで、大入道を描き終えた私は出来た物を彼に見せてみる。


「おぉ!すごいな。こういう漫画的な絵を描ける者は尊敬出来る!良く描けておるぞ!」

「どうも」


私は最後に良い反応を貰い、少し微笑みを浮かべながら礼を言って筆を置いた。

後は、これらの墨が乾くのを待つばかり…乾けば、これらを左耳の後ろにある刺青に押し込んで"彼らをいつでも呼べる様に"するだけだ。


「まさか、皆さんの絵が描けるとは思いませんでしたよ」


乾かしている絵を見ながらポツリと呟く私。

その呟きに、遠くで見ていた防人元が反応を見せると、これまたポツリとした口調でこう言った。


「これでお主も"こちら側"…という訳さ。お主側に我等を迎え入れたのと同じように…な」


お読み頂きありがとうございます!

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