226.言ってる事は伝わってるのに、どこか得体のしれない怖さを感じる。
言ってる事は伝わってるのに、どこか得体のしれない怖さを感じる。
防人元の話を聞いた私は"寒気"が収まらず…何をどう返して良いか分からなくなってきた。
話は伝わる…筋も、彼の目線では…通ってる…なのに、どうしてこんなにも"そうじゃない"と思うのだろうか。
「手足…耳口…ですか?」
「あぁ、そうだ。今回の騒動で"防人"の常識に穴が開いただろう?そこからどうするかを判断するために、お主を使いたいんだ」
「それは…その、お言葉ですが、御姿を変えて表に出てみればいいのでは?」
「そうもいかないのさ。現に、体が震えているでは無いか?」
私はそう指摘されると、奥歯を噛み締めた。
上手く隠し通せている…と思っても、やはりこの"大妖怪"には筒抜けだったのだ。
私の反応を見た防人元は、あっけらかんとした表情で笑うと、両手を上げてお道化て見せる。
「何も危害を加える気は無い。だが…お主の様な"力のある妖"ですらそうなるんだ」
「…今の私は、人…ですが」
「妖さ。考えてみるんだ。"防人、妖の血を引いている"。どういうことか、分からぬか?」
「……」
無言の返答…目を見開いて、口元を思いっきり引きつらせた表情が、何よりも言いたいことを"雄弁"に語っていた。
妖の血を引いている人間…そういう存在がどうなるか…これまでの話と照らし合わせた時、私の血の気はサーっと引いていった。
「なら…もしかして…死んでいった防人は…」
「死んでなんかいないって事さ。異境の何処かにいるんじゃないかな?言った通りの"広さ"だから、探すだけで"何度生まれ変るか"は分からないけども」
「い、今の時代でも、妖になる者は居ますよね…?極僅かですが…」
「"進化"する者が減ったんだ。科学とやらが発展したお陰だ。分からぬものが分かるようになった時、それが下々の者に浸透した時、"進化"の意味を失う」
「それは…?…どういう…?」
僅かに顔を蒼白くしながら、目の前の"大妖怪"に問いかける私。
防人元は、私の様子を優しい目で見つめて小さく笑ってから、ゆっくりと口を開いた。
「"変わらなくていい"…そう思ってしまうんだ。"種族として"ね。昔はそうじゃなかっただろう?分からぬことや理不尽に押しつぶされた時…意思が強ければ強いほど…もしくはただの偶然か」
大妖怪は、そこまで言うと姿勢を僅かに変えて、姿勢を崩す。
「今の世の中は…便利だよ。確かに、進化する必要なんて無いだろうな。だが、私はその前に"先"があると知ってしまった。だから、行き着く所まで行ってみたい。見てみたいんだ。だが、今はそれは出来そうにない。分かるだろう?」
「防人が…変わってしまったから…?人であることを…重視しすぎてるから?」
「満点の回答だな。その通りだ」
「…でも、元々防人は、妖を人に戻すためだったのでは…?」
「言っただろう。それは周囲が望んだ事だったんだ。私自身、今言ったことに確信を持てていなかったのもあるが…私の本心とはズレていたのさ。後悔しているよ。あの時の身の振り方をね…」
「……そう、でしたね」
私は歯切れの悪い返答をすると、押し黙ってしまう。
目線は相変わらず、目の前の防人元に向いたまま…そこから、目を背ける事すらできない。
圧倒的な存在感の前に、私は"自由"を失っていた。
「それでだな、話を元に戻そう。入舸沙月。どうだ?やってくれるか?」
「手足…目や耳…ですか。方法を聞かせていただいてもいいでしょうか?」
「それは簡単だ。お主の私生活まで覗こうとは思わない」
そう言って、防人元は着物の裾から1つ…私達が使う"耳飾り"の様な物を取り出した。
意匠は違うから、防人が使うソレとは違うと分かるが…
そんなことよりも、"耳飾り"程度の代物が、ピリピリする妖力を放っているのが驚きだ。
「これを付ければ、お主の目で見たもの…耳で聞いたものが私に流れ込んでくる」
「へぇ…今時の"科学の粋"で出来た物よりも優秀ですね」
「あぁ、"妖力"は生物の"創造力"が根源…出来ぬことは無いのさ」
私は耳飾りを受け取ると、防人元の視線を感じながら、耳飾りを右耳に付ける。
「ん…」
その瞬間、耳飾りの妖力が一気に流れ込んできて…私は"何か"がこみあげてくる胸を抑え込んで蹲った。
「大丈夫だろう。勢いの問題。すぐに慣れるさ」
苦しさに呻き声を上げる私に、冷静な言葉をかけてくる"大妖怪"。
彼の言葉通り、暫くすると、胸の苦しさはスーッと引いてゆき…
私は顔中に嫌な汗を掻きながらも、元の姿勢に戻ることが出来た。
「申し訳ありません…」
「気にしないでいいさ。もう、お主の目線を感じられる様になった。耳も…あぁ、私が近くにいると違和感しかないな。こう聞こえているのか…」
起き上がると、私の目と耳は既に防人元に共有されている様だ。
目と耳が"盗まれている"…防人元の反応を見てそう感じたが、生憎"何かされている"という違和感は感じない。
寧ろ、妖力を流し込まれて"心地よい"と感じてしまう程…
「ふむ…良いだろう。その"耳飾り"は、普段使いのものと取り替えてくれ。そして、時々で、私に"外の景色"を見せてくれれば、それでいい」
「分かりました…でも、見て、どうするのでしょうか?それだけは…知っておきたいのですが」
「なぁに。大したことはしない…少しばかり"防人"の在り方に手を加えるだけさ。悪い様にはしない」
防人元はそう言って、着物の袖から1枚、呪符を取り出した。
私もそのタイミングで、右耳の耳飾りを外して、着物の裾に仕舞いこむ。
「そして、最後に…私の"正体"を喋られては困るからな。これで口封じさせて欲しい」
「そうですね…言うつもりもありませんでしたが…」
「この呪符を額に貼ってよいか?そうすれば、ここで話した事は喋れなくなる。それだけの呪符なのだが」
「はい。お願いします」
最後の仕上げは口封じ…
私の了解を得た"大妖怪"は、私に近づいてくると、手にした呪符を貼り付けて念を流し込んでくる。
「ん…」
今度流し込まれた妖力は、"大したことの無い"量。
"心地よい"量ともいえる…防人元は、私に妖力を流し込むと、役目を終えて黒く染まった呪符を額から剥がし、それを着物の中に仕舞いこんだ。
「今日はこの位にしておこうか。また、話をしたければ…"使い"を出すからな」
「はい、わかりました…また、その時は…よろしくお願いいたします」
「そう畏まらなくていい。私はただ…"ありのままの姿"を見たいだけなのだからな」
緊張の時間がそろそろ終わる…
私は防人元に、何とも言えない愛想笑いを向けると、ゆっくりと立ち上がった。
「それでは…失礼いたします…っと…」
慣れてない正座をしていたものだから、足が痺れて姿勢が崩れてしまう。
その様子を見た防人元は、さっきとは違う"素"の笑顔を見せた。
「クックック…慣れないことをするからだ。姿勢を崩しても構わなかったものを!」
「それは…その…」
気付けば"菅原道真公"から"中年男"に戻っている防人元。
私は少し恥ずかし気に顔を赤くしつつ、痺れた足をなんとか元に戻そうと適当に動かした。
「いい、いい。暫く部屋に居たって構わないんだ。どうせ何も無い部屋なんだから」
「流石に…それは」
"この程度"の迷惑もかけたくないのだが…そう思っていた私だが、防人元はそんな私を見て、ふと、何かを思いついたような顔を浮かべた。
「そうだそうだ。ここに来たついでに、もう一つ。授け物をしようか?入舸の妖絵描きと呼ばれていたな?そういえば…」
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