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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
伍章:境界線上の妖少女(上)
218/300

218.運動の後のお風呂は、どうしてこうも気持ちいいのだろうか。

運動の後のお風呂は、どうしてこうも気持ちいいのだろうか。

異境での模擬戦…その最後に"そこまでしなくても…"という程に派手な事をやった結果。

全員が煤だらけ砂だらけになってしまい、こうして昼食の前にお風呂に入る羽目になったのだった。


「昼間からお風呂っていうのも、なんか良いよね」

「うん。普段と違う事をしてるからかな。なんか良い」


私は千鶴と行動を共にしており、今は大浴場の隅でお湯に浸かって駄弁っている最中。

異境では鬼の角が生えていた千鶴だったが、こちらに戻ってくるとそれは綺麗にサッパリ無くなっていた。


「千鶴は知ってたから、何となく、あぁ~ってなったけど。三条君は意外だったね」

「ね~、意外だった。成君の家もちゃんと妖の血を引いてるとは」

「大なり小なりそんなもんだと思うけどさ、三条君の家、急進派でしょ?大丈夫かな?」

「そこは…男共のフォローに期待という事で…」

「尚更大丈夫かな」


私は千鶴の返しに苦笑いを浮かべると、彼女も僅かに引きつった笑いを浮かべる。

なんだかんだ言っても、彼女が慌てない所を見ると大丈夫だと思うのだが…

急進派、妖をこの世から消したいくらいに憎んでいるはずの家の者が"妖化"してしまう素質があるというのは、なんという皮肉だろうか。


「そういえばさ、午後からは何やるの?」

「もう何もしないよ。あんだけ動けば十分でしょ」

「そう。それで、お題には挑まないまま?」

「そりゃねぇ…"手を抜いて"ああなるんだから、怪我しに行くようなもんさ」


そう言って、何気なく腕を前に伸ばす私。

そして周囲を見回してみれば、"模擬戦で戦った"女の子たちがチラホラと目線を向けてくる。


「午後はさ、もう普通に遊ぼうよ。外人問題も解決してるみたいだし、ポツポツ大人達も戻ってくる頃でしょ?」

「あぁ~…そんなこと言ってたっけ。朝だよね?言われたの」

「そうそう。親たちが戻って来れば、こうも行かないだろうしさ」


千鶴は私の言葉に僅かながら負い目を感じている様な、何とも言えない引きつった顔を浮かべた。


「そうだね。特に、私達の親だよなぁ…」

「ウチも大差無いよ。どこも同じでしょ?ねぇ?」


そう言って、気付けば周囲にやってきていた女の子たちに話を振ってみると、彼女達は一様に首を縦に振って頷いてくれる。


「そうそう」「私のとこも同じだよ」「何処も同じなんだねぇ…」


近くにいた女の子達…イントネーションが全然違う3人組。

察するに、関西のどこか…九州のどこか、そして青森辺りの人…だろうか。


「って訳でさ、午後は色んな人と話したいなぁって思うのさ」

「賛成~。男共は…まぁ、お風呂上がりに話せばいいか」

「モトにはもう言ってあるよ。だから問題ないんじゃないかな」

「なら安心か、元治君、思ったよりしっかりしてそうだもんね」


千鶴の何気ない一言にクスッと笑うと、伸ばした腕を楽にして再び湯船に浸かる。


「向上心の塊だからねぇ。暗そうに見えて、ガッツはあるのさ」


 ・

 ・


お風呂から上がって、新しい着物に着替えて食堂へ…

少々遅めの昼食となった私達だが、他の年頃の子の多さを考えれば、遅くなって正解だった様だ。

昨日は激混みの様相を呈していた食堂だが、少し時間をズラせば何てことの無い、適度に空いているではないか。


「いつもは部屋とかで食べてるから分からないけどさ、やっぱ防人って多いんだね」

「みたいだな。時間ずらせばそうでも無いが」

「まるで学校の食堂じゃない?毎度昼が重なるから大変だよね」

「…え?入舸さんの学校、学食…あるの??」

「え?そこから?」「「「「「……」」」」」


"いつもの"6人で卓を囲んで、何気ない話をしているだけで楽しい。

何となく話す事になった学食事情だけど、他の5人の学校には学食は無いらしい。

通ってる高校では当たり前に備わっていたから、何処でもそうだと思っていたのだが…


「高校になってお弁当になったよね?成君はまだ給食か」

「うん、そうだね。僕だけか…給食」

「弁当持参でさ、早弁する奴とか本当に居るんだなって思わなかった?」

「そうそう!その内、自分もやるんだよな。体育の後とかは腹減ってさ!」

「龍弥も徳久もソッチ側の人間か、中途半端な時間に良く食えるなぁ…」

「あれ…私の所、そういうの無いんだけど…私がおかしかったの…?」


そして始まるお弁当トークについていけない私。

皆から不思議なモノでも見るかのような目で見られた私は、僅かに身を縮ませた。


「そういうのは大学からだと思ってた。沙月の高校、どっかの大学の付属だったりする?」

「いや~、ただの公立高なんだけど」

「だったら尚更不思議だな。新しい学校じゃないの?出来たばかりとか」

「んー、校舎が綺麗だからそうなのかも。でも、ちょっと謎の優越感があるね。小樽の癖に生意気だって。思わない?」

「それ、ちょっと思ったかも」


昼食を食べつつ、なんとも軽い乗りで駄弁る私達。

これまでで最も"楽しい"本家での時間を過ごしている気がするが…

それは皆もそうなのだと思う。

阿保らしい話でも、何故か自然と笑みが出てくるのだから…


「学校の違いはそこそこであるんだろうけどさ、沙月には雪国あるあるとか聞きたいな。本当にそうなの?って話」


学校の違いで盛り上がった後。

ポツリと千鶴が言って、皆の視線が私に注がれた。

雪国あるある…私は皆の視線を受けて頬を掻く。


「急に言われてもねぇ…」

「やっぱさ、こっちが雪降って大変だ!ってなってるの笑ってみてるの?」

「あぁ、それは…うん。最初は笑ってたけど、段々と心配してみてるかな。危なっかしくて」

「へぇ…ちょっと意外かも。でも、どうして?心配って」

「見てるとね、皆歩き方が違うのよ。雪に慣れてない人って、踵から足付けて歩くでしょ?そんなの氷の上でやったら一瞬でこけるじゃない」

「「「「「あぁ~」」」」」


私なりの"あるある"というか、思っていたことを話しているだけなのだが…

それでも彼らには新鮮だったらしい。

思ったよりも良い反応を貰えて気を良くした私は、僅かに口元をニヤけさせて話を続けた。


「つま先立ちというか、近い感じでね?歩幅を小さくして歩けば、ある程度は平気なのさ」

「へぇ…これは思った以上に良い話を聞けたな」

「まぁ、こける時はこけるけどね。雪が降ったら無理しないで、家でぬくぬくしてるのが一番なのさ」

「ぬくぬくねぇ…沙月、やっぱり家では半袖だったりするのか?」

「え?うん。半袖短パン…だね…家だとね…」

「アイスも食べたりして?」

「当たり前でしょ。アイスはね、冬が美味しいんだから!」


モトの問いに"さも当然"という風な口調で答えると、苦笑いを浮かべて僅かに引かれた気がする。


「…いつか、冬の北海道に来た時に試してみてよ。絶対気持ちが分かるから!」


何かを言われる前に、そう言って言い訳?する私。

そのうち、皆がクスクスと笑いだし、私もそれに釣られて笑いだしてしまった。

こういう空気…これを本家で味わえる日が来るとは…


「いや、美味しいのは本当だからね?…ほら、冬はお店から家までの間でもちゃんと冷えてるからっ…」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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