214.上手くやっていたつもりなのだけど、やっぱり隠し事は苦手だ。
上手くやっていたつもりなのだけど、やっぱり隠し事は苦手だ。
ボソッとした声で尋ねてきたモトを見て曖昧な笑みを浮かべると、ゆっくりと足を止めた。
「図星か」
「どうだろ。図星かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「図星みたいなもんだろ。沙月、誤魔化すの本当に下手だな」
私の様子を見て疑問を確信に変えたモトがそう言って私を捲し立ててくる。
ジッと彼の目を見て受け止めた私は、小さな溜息を吐いてモトの腕を引いた。
「ちょっといい?」
そう言って階段が目の前に迫った所から振り返り、彼を"いつもの"場所へと連れて行く。
異境の扉がすぐそこに見える、隅の休憩スペースへ…
「挑むかどうか…まだ決めかねてるんだけどね」
そう言いながら、ポツリと備え付けられたソファに座る。
隣にモトが腰かけると、モトは体を僅かに私の方へ向けて何とも言えない、怪訝そうな表情を浮かべた。
「なんだか普段の沙月とは違うな。なんか考え方が変わった気がする」
「どうなんだろ。私は私のままでいる気なんだけど」
「変わったよ。やる気が違う。異境なんて、普段の沙月なら絶対行こうって言わないし。それに夢幻回廊だなんて、沙月が妖になったとしても行かなさそうなのに」
「それもそうか。まぁ、こんな時じゃなければ…今もその考えなんだけどさ」
私はモトの方をチラチラ見やりながらそう言うと、足を組んで姿勢を崩す。
「私だって、それなりに将来を考えなきゃなぁって思ってるんだ」
真面目な事を言うのは、何時だって胸がこう…ムズ痒い。
私はなるべくモトを視界に入れない様にしながら、ポツリポツリと話し始めた。
「去年くらいまではね、私とて、防人の仕事を継ぐだなんて事は考えてなかったんだけど」
「そうなのか。俺にはそう見えなかったが」
「そこは家のせいだね。手伝いに駆り出される事は多かったからそう見えてただけでしょ」
「あー、確かに、言われてみりゃそうか。沙月の家、妖も多いしな」
「私、キャビンアテンダントになりたかったの。飛行機に乗って、世界中飛び回りたくて」
モトは私の言葉を受けて目を丸くする。
誰かに将来の夢を話すなんてことは、初めてだ。
私はモトの反応を見て口元をニヤリと歪めると、髪を摘まみ、引っ張って見せる。
「ま、叶わぬ夢さ。この髪じゃ無理だ。それに、今年は"色々とありすぎた"。どう足掻いたって、私は"防人"になるんだと思い知らされたよ」
私の言葉に、モトは口を閉じたまま。
「だから、普通に憧れるのはもう諦めた。何をどうやったって、防人になるしかない。防人が妖に対処しなけりゃどうなるか。考えなくたってわかるだろうに。ねぇ?」
「そりゃ…まぁ、そうだけども。意外だったな、そこまで考えてたなんて」
「嫌でも考えるさ。妖とやり合えばね。誰かが"抑えなければ"、人なんてすぐに食糧だ」
そう言い切るには、ちょっと大袈裟かもしれないけれど…妖は"人に化けられる"。
妖というのは人以上に寿命が長く"生に意地汚い"連中なのだ。
そんな連中が、"人のルール"でしか動いていない"現実世界"に"自由に"解き放たれればどうなるか…考えると寒気がしてくる。
「だから防人でいられるうちは、防人でいるさ。幸い、暮らしに困ることは無いんだから」
頭の中をザワつかせて、色々と蠢く"考え"を括ってしまえば、この一言に集約された。
モトは私の目をジッと見据えてフッと鼻で笑って見せると、どこかシリアスさが抜けない表情を浮かべてダラっと姿勢を崩す。
「なるほど。だから、あのヤル気に繋がるワケか。俺達が"ひよっこ過ぎた"からだ」
「どんな路を辿ろうと防人になるなら…もう"触れてても"良いだろうに、そうじゃない」
「そうだな。まぁ、各々家庭の事情だろ。どこかしこで"妖"が暴れてる訳でも無いし」
「東京とかは、妖がほぼ住めないんだっけ?」
「あぁ"自然"がなきゃダメだからな。その点、北海道は"住みやすい"だろうよ」
「通りで面倒事が多いわけだ」
私はそう言って、モトと同じようにソファに浅く座ってダラっとした姿勢になる。
「ま、そんなこんなで、遅かれ早かれ"家のゴタゴタ"と向き合う時が来るんだ。だから、今回みたいな"異常事態"は有難いね。波風立たず仲良くなれたじゃない。外人風情には感謝しなきゃ」
冗談を混ぜてそう言うと、モトが乾いた笑い声を上げる。
防人的には"京都に手を出された"のだから御冠も良い所だろうけども、私達子供の立場からすれば、親の顔色伺いをせずに同世代の子達と触れあえる良い機会と言えた。
だから、冗談めかしに"外人のお陰"といったが、本心だ。
「確かに。こんな時じゃなけりゃ、二寺さん達とは話せなかっただろうしな」
「モトの家なら、確実にピリピリした場で話す羽目になってたろうね」
「沙月の家なら、そもそも話してないな。誰かを通して…とかでなきゃ話せてない」
「全くさ」
気の抜けた姿勢でそうやって、"防人の家系"特有の愚痴を言い合う私達。
私が"京都が嫌い"な理由の大半が、この"お家問題"にある。
コッチに来たら、家の立場を考えて立ち回らねばならないのだ。
「親が帰ってきたら元通りかな?」
「どうだろうな。防人元とやらがどう御触れを出すかだろうさ」
「このままで居られるんなら、次からは、京都に来るのが少し楽しみになるんだけど」
「そうなりゃ良いけどな」
今は、恒例の挨拶周り一つとっても…面倒くさくてしょうがない。
だから、自由時間になれば、誰も来ない、"妖の空気"が混じるここへ来て時間を潰すのだ。
誰もいない所で景色を眺めて…じっと時が過ぎるのを待つ。
外出するとかしない限り、私は殆どの時間を、そうやって潰してきた。
「ま、なんだ。真面目な話が聞けて良かったよ。俺はそろそろ寝るかな。もう0時だろ?」
「あぁ、もうそんな時間か。でも、まだ眠くないや…私はもう少しここにいる」
「そう。でも、遅くまで起きてるなよ?明日もそこそこ早いぞ?」
「分かってるって。私、寝坊はしないから」
「ったく…それじゃ、お先に」
モトはそう言ってソファから立ち上がると「おやすみ」と言って去っていく。
私も「おやすみー」と言って廊下の奥へと消えていく彼の背中を見送ると、ふーっと長い溜息をついて再びソファに沈み込んだ。
窓の奥を眺めても、真っ暗闇な世界が見えるだけ。
昼間であれば見事な庭の景色が見えるのだが…
夜はそういう情緒溢れる光景は、一切見えない。
むしろ、暗闇の中から幽霊の1つや2つ、ボっと出てきそうな光景だ。
「ふわぁぁぁ…あ…」
静寂に包まれた中で、欠伸を一つ。
真っ暗闇の窓の外をボーっと眺めながら、もう少し眠くなるのを待っていると…
私の耳に、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
「ん?」
こちらの方へ近づいてくる足音。
私は気だるげに体を動かして、足音の方に上半身を向ける。
そうして視界に入って来たのは、1人分の人影…
その影はすぐに輪郭がハッキリとして色付き…私を見つけて僅かに驚いた顔を浮かべた。
「さ、沙月…まだ、寝てなかったんだ」
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