213.人の目を通して見れば、この光景は随分と暗く見えるのだろう。
人の目を通して見れば、この光景は随分と暗く見えるのだろう。
防人本家2階の北東の隅…異境に繋がる扉を開けて異境に出た私達は、扉の先に広がる広場に散らばって異境の光景を眺めていた。
「ねぇ、やっぱ姿変わってる?」
「あぁ、さっきの角じゃなくて、今度は狐耳だな。聞こえ方は人のままか?」
「あー、人の耳もあるから、そうだね。人のままだ」
興味津々といった様子で周囲を見回している、お面と耳飾りを付けた"同世代"の子達から少し離れたところで、モトに体の変化を確認してもらう私。
やけに頭に目線を受けると思ったら、今度は狐耳が頭の上にひょっこり出て来ていた。
「あざといなー…狐耳…」
「可愛いしさ、角よりマシじゃないか。あれ、威圧感あるし、刺さりそうだよな」
「まぁ、実際刺さるからね。滅茶苦茶硬いんだよ、アレ」
私はモトと適当に駄弁りつつ、皆の様子を眺めている。
私から出した指示はただ一つ、この広場から出ない限り好きにしていい…ただそれだけ。
異境、妖気に満ちたこの空間で、人の世にはない"空気感"に慣れてもらう事が目的だ。
「沙月!元治君!ちょっと来て!」
「はいはい」
広場の隅にある柵に手をかけて、遠くに見える妖達の街の景色を眺めていた千鶴に呼ばれて、彼女の方へと歩いていく私達。
「どうしたの?」
「あれ、あそこにいるの!沙月の所の妖だよね?」
「んんー?こっから見えるの!?」
千鶴に言われて、彼女が指さした方へと目を向ける私。
見たところで、函館山の景色と大差ない綺麗な夜景といった光景しか見えなかった。
「…千鶴さ、視力、幾つ?」
「え?1.2位?」
「それで街を行き交う妖は見えないでしょ。妖気を浴びてちょっと妖に寄ったね」
どうやら彼女は、異界の"妖気"を浴びただけでも"妖"へと変化しやすい体質らしい。
私がそう言うと、彼女は「確かに…」とハッとした顔を浮かべ曖昧な笑みを浮かべる。
強くなれて嬉しいのやら、少しでも人でなくなった自分が怖いのやら…そんな所だろう。
「安心して。向こうに戻れば人に戻るから。私だってホラ、耳生えてるでしょ?」
「そういえば…そうだね。なんで変に思わなかったんだろ」
「そんなもんそんなもん。私だって、言われなきゃ気付かないもの」
軽い口調でそう言うと、千鶴は頷きながら私の頭に手を伸ばしてくる。
「ひゃあっ…!!」
そして、彼女の手が耳に触れた時、私は少し"らしくない"声を上げた。
「……」「……」
千鶴に頭を撫でられたまま、見つめ合って無言になる私達。
彼女の視線を浴びて、顔を真っ赤にしつつ、背筋に嫌な汗を感じて…
そして周囲を見ると、お面と耳飾りを付けた"女子"達が私達の方をジッと見つめていた。
思ったよりも、私の声が大きかったらしい。
「沙月、結構可愛い声もだせるのね?」
「千鶴の…触り方が悪かったせいだね」
私の様子を見て、悪戯っ子のような笑みを浮かべて言った千鶴。
私は彼女の視線から、楓花や穂花の様な空気感を感じて、冷や汗を流しながら答える。
その直後、不意に背後から伸びてきた"誰かの手"が私の耳に触れた。
「ひゃぁぁぁぁぁ!!」
飛び上がる位に驚いて振り返ると、そこには視線を向けていた"女の子"達。
気付けば私は、同世代の女子全員に囲まれていた。
(え?モトは?)
近くにいたはずのモトは、空気を読んでか偶々か、南大路君やそれ以外の男子たちの方へ集まっていて、何やら楽しそうに話している。
助け舟はナシ…私は遠くにいるモトをジッと睨んで彼を呪うと、周囲に集まってきた女子たちの方を見て引きつった表情を浮かべた。
「入舸さんの耳、どうなってるんだろうって気になって…」
「そうそう、お話もしたかったんだけど…ちょっと怖くって…」
「そうでしたか…それは、うん。ごめんなさい…なんだけどさ」
ジリジリとにじり寄ってくる彼女達。
目線の先には、注目を浴びてるせいか意識しなくてもヒョコヒョコと動く狐耳。
私は色々な"危機感"を全身で感じ取って…すぐにでも逃げたいのだが、ガッチリと周囲を囲まれて、逃げる手立ては無さそうだった。
「沙月、良かったじゃない。皆と仲良くなれそうで」
ガシっと私の肩を掴んで離さない千鶴が、私の耳元でボソッと囁く。
「その様で…良かったね…うん…何でも聞いてくれて良いから…さ、お手柔らかに…ね?」
周囲を見回しながら諦めた様に呟くと、周囲に募った女子たちが一斉に沸き立った。
「耳、私にも触らせて!」「あ、私も!」「そう言えば彼氏居るんでしょ!?」「え?ホント?」「え?彼氏!?どんな人!?」「もう一回妖になってよ!あの翼に包まれたいの!」
・
・
「で、何もしないってのに、その姿になってたと」
「あぁ、それでも暴れなかった。どう?修行の成果が出てたでしょ?」
ザックリ2時間近く。
生まれて初めての"防人女子会"で色々と話しまくって、なんなら姿を妖に変えてまで"交流"を深めた私は、すっかり疲れ果てた姿で本家に戻っていた。
私生活…主に正臣の事やら、防人としての仕事の事…妖の姿になったときの事…まぁ、色々と話した気がする。
「止めてくれなかったら、日付跨いでたよ」
「止めに行くにも勇気が必要だったけどもな」
「そりゃそうだ」
今まで交流できていなかった時間を取り戻すかのように、延々と盛り上がれそうだった私達を止めたのは、モト達男子。
最初こそ、ウダウダと文句を並べて引き伸ばそうとした女子一同だったが…
呆れ顔を浮かべたモトに現在時刻を言われて我に返り、今日の所は一旦"お開き"となったのだった。
「明日は異境でやる気か?」
「うん、広場なら何も無さそうだしね。そこまでやって…終わりで良いでしょ」
「だな。十分だろ」
異境から繋がる廊下、列の最後尾を歩きながら話す私達。
明日は朝9時に、さっきまでいた異境に集合。
そこで、いつかモトとやったように"呪符"を使った模擬戦をやるつもりだ。
そこまでやれば、防人元…防人の頭首から出された"お題"はクリアできそうに無いが、少しでも"足掻いた"という言い訳づくりには十分だろう。
「そうだ沙月、1つ聞きたいんだけど…」
そろそろ階段…これを降りれば、あとは各々の部屋に戻るだけ。
そこまで歩いて来た時、不意にモトが立ち止まり、真剣な顔を私に向けた。
「まさかと思うが、1人で夢幻回廊に挑もうだなんて、考えちゃいないよな?」
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