212.思っても無かった展開…なんだか合宿みたいな雰囲気になってきた。
思っても無かった展開…なんだか合宿みたいな雰囲気になってきた。
道場での"講習会"を一旦切り上げた私は、次の予定を決めて、皆に伝えてからモト達と合流し、食堂の方へと移動している。
「いきなり異境に行くだなんて。沙月がそんなこと言い出すのは、ちょっと意外だったな」
「まぁね。余り取りたくない手だけども…あの広場までなら良いかなって。さっき沙絵から片付いたって連絡来てたし」
「ふーん、広場ねぇ…あぁ、広場って、扉の前の広場か?」
「そう、そこなら…妖に手出しされることはないでしょ?それに、お風呂の後で派手に動きたくないからね」
今はちょっとした"自由時間"で、次の合流は夜の9時。
集合場所は、異境の扉に繋がる廊下。
次の"カリキュラム"は異境で"妖力"に慣れる事…その為に、私としてはあまり取りたくない一手を打つ事にしたのだ。
「どういう心変わりだ?まさかあのお題に挑むとか言い出すんじゃないだろうな?」
「夢幻回廊に近づく気は無いよ。ただ、皆、思ってたより余りにも"一般人"じゃない?」
「そうだったな」
「だからね、ちょっとした底上げさ。防人として…っていう」
「ふーん…尚更、どういう心変わりをしたんだか…」
「私はね、モトが思ってるより現実主義なんだよ」
私はモトの言葉を受けてそう言うと、少し後ろを歩く千鶴達…"洛中組"の方に目を向ける。
彼女達はモトにやられたせいで煤だらけだったが、どこか楽し気な様子で話し合っていた。
「ねぇ、千鶴。そっちってさ、防人として妖を隠したりすることはしてなかったの?」
「え?えぇ、そうね。してなかったかなぁ…呪符をこんなに使ったのもこれが最初!」
「あぁ、成寿位じゃないか?妖隠したことあるのは」
「僕だけ?」
「俺も無いから、多分そうだわ」
千鶴達の反応を見て、小さく頷いた私はモトの方に視線を戻す。
「ね?冷静に考えてみれば、私達ですら"こうなった"のは最近なんだし。おかしく無いさ」
「確かに、そりゃそうか…」
「異境に部屋を持ってるって事がどれだけ"規格外"か、分かったでしょ?」
私はモトにそう言ってちょいと肩を突くと、モトは苦笑いを浮かべて頷いた。
「っと、やっぱこの時間は並ぶねぇ…」
目的地だった食堂はもうすぐ目の前…
私達は一度雑談を止めると、食堂内通路に出来た"子供達の列"に並んで入り口でお盆を手に取った。
「こういう食堂があるってのもさ、今更に思うけど…変っちゃ変だよね」
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列に並んで、お盆に夕食を載せた私達は、他の子供達に紛れて空いた席を探し、空いていたテーブルに陣取った。
いつも通りの夕食…それぞれが箸を手にして料理に手を付け始める。
「ちょっと意外だったな」
「ん?」
食べ始めてすぐ、前に座った雲丹亀君が私の方を見て口を開く。
私がそれに反応して見せると、南大路君と三条君、そして千鶴がその声に頷いた。
「最初の印象が悪かったからな。初めて見た時は暴走状態って感じだったから」
「アハハ…それは、まぁ…その。はい。何も言えませんね…ホント、ゴメン…」
「で、次に噂を聞いた時もさ、ついに妖になった!って話でね。沙月、一部からは本気で消されそうだったんだよ?」
「それは知ってる。まぁ、今でも消されないのが不思議なくらいじゃない?」
「まぁね。あんな姿になってりゃ消されるよな…って思ったんだが、そういえばだ。どうしてあの姿を、素の俺等が"見えた"んだ?」
南大路君からの問いに「あぁ」と呟くと、箸で持っていたエビフライを食べてから答えた。
「人に化ける妖がいるでしょ?それと同じ。私は素で"人に化けられる"妖らしい」
「え?じゃ、沙月は人じゃないの?」
「そうじゃないそうじゃない。"妖になったら"って話。これはね、皆の一部にも居るはずだけど。"血が濃い"タイプだと、鍛えればこうなれるかもしれないってね」
さも当然といった風にそう告げると、聞いていた洛中組は、箸を持つ手をパタリと止める。
「モトは違う。だから丁度良いんじゃないかな。血が濃ければ"私みたくなる"し、そうじゃなければ"モトみたいになる"。差は、鍛えた行く末が妖になるかどうかで、大差は無いよ」
「それって…結構重大な事実なんだけど、そんなサラっと言って良かったの?」
「いいんじゃない。この先、嫌でも知る事になるだろうしさ」
驚いた様子の彼らに、私は飄々とした態度のままそう言うと、モトが頷いて合いの手を入れてくれた。
「俺もさ、去年から妖力付けようってやってるけど。そろそろ限界が見えてるんだ。だから、実際、俺は戦う方面には向いていないんだ」
「へぇ…あんだけ強くてか?」
「その辺はモトの努力。妖力自体は"弱くても"、それだけで決まるわけじゃない。モトの場合は剣道だとかで鍛えてるからね」
「なるほど…異境暮しのせいじゃないんだ」
「そ、さっき道場で見てた感じだと…二寺さんと、あと成寿かな。2人は沙月みたいになれると思う。龍弥と徳久は、多分俺の側だ」
「へぇ…なら、やりすぎちゃったら、私もああなっちゃうかもしれないんだね」
「ま、余程強い妖力を1度に注がれない限り"こうはならない"。私の場合は"裏切り者"の鬼のせいだから」
私はそう言いながら、脳裏に鬼沙の事を思い出して僅かに表情を曇らせる。
モトがそんな私の腕をちょいと突くと、私は口を閉じて肩を竦めた。
その様子を見ていた南大路君が苦笑いを浮かべると、僅かに間をおいてから口を開く。
「で、入舸さん。9時から何やるんだ?」
「早めにネタバレしちゃつまらなくない?」
「まさか、俺達は戦々恐々だよ。また異境に行くんだろ?」
そう言う彼の表情は、僅かに蒼白い。
不安がる事も無いのだが…何をするか分からないなら、確かにそう思ってしまうか。
「心配しないで。お風呂に入った後で、さっきみたいに煤だらけにしないから」
私は手をヒラヒラ振って彼の不安を一蹴すると、悪戯っぽい笑みを浮かべてこう言った。
「ただ、妖力に体を慣らしに行くだけだよ。見晴らしのいい場所から、異境の街の景色を見ながらね」
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