208.見ず知らずの者をまとめるなんて、やったこともないのだが。
見ず知らずの者をまとめるなんて、やったこともないのだが。
私は、私の周囲に集まった"同世代"の防人達を見て溜息をつくと、愛想笑いの一つでも浮かべようかと思ったが、上手く表情筋を動かせなかった。
「中学生以上が私のとこに来てるんだっけ」
「みたいだな。ざっと…1クラス分かな?」
「モト、何人いるか数えて貰える?」
「分かった」
サポートを頼んだモトが、私の代わりに集まった人の数を数えてくれる。
皆、私やモトの様に妖力が強いわけでは無さそうで、呪符の扱いにも苦労しそうな程。
私は用紙を見て、出された"お題"の難易度と、私達の戦力が噛み合って居ない事に何処か呆れた感情を感じつつ、頭を掻いてどうしたものかと考え始めていた。
「ね、お題ってどんなのが出たの?」
「これ」
千鶴に聞かれて、私は千鶴に用紙を見せる。
彼女の周囲を囲んだ"洛中"の3人衆も一緒に用紙に目を向け…
そして一様に顔を青褪めさせた。
「え…」「マジかよ」「……」
「これをやるのに、2日しか猶予が無いんじゃ…ねぇ、幾ら私が"妖"になったって無理でしょうよ」
そう言って苦笑いを顔に貼り付けると、丁度数え終えた様子のモトが私の方に顔を向ける。
「全部で39人だ」
「ありがと、もっといる気がしたけど…そんなものなのね」
集まった人の方に目を向けると、彼らは皆、私を見て僅かに目を背けたり…緊張した様子を隠せないでいた。
「ま、ウダウダ言ってても仕方がない。始めましょうか」
全員に聞こえるような声量でそう言うと、僅かにざわついていた様子が一気に静まり返る。
私に注目する面々…私は少し間を置いてから、"右手を着物の袖に入れてから"口を開いた。
「まずは…皆に尋ねよう。私が誰か知ってる?知ってる人は挙手!」
開口一番、私の事を知ってるか尋ねると、全員の手が挙がる。
私はその結果を見て僅かに口元を引きつらせながら、小さく頷いた。
「そう。なら、自己紹介の必要は無さそうだね。皆の事も知りたいけれど…一旦それは後。私達に出されたお題は"厄介"でね。まず、そのお題から発表しようか」
そう言うと、皆は更に静まり返る。
ゴクリと、生唾を飲む音が聞こえたような気がした。
「お題はね、ただ一つ。"屋敷中央の夢幻回廊を越えて、防人元と謁見する"…これだけ」
お題を言った直後、皆はワッと騒めき出した。
私はそれを収めることなく、ある程度はやりたいようにさせてやる。
夢幻回廊…それは、本家の中央に位置する"防人元"の棲み処。
そこは、彼が選んだ選りすぐりの"人妖"が警備する場所で、更には妖術によって"無限回廊"と化している難攻不落の要塞になっているのだ。
そこに、大した戦闘力も見込めない子供達で挑めと言うのは…
どれだけ無茶な事か、言わなくたって分かるだろう?
「ま、無理だね。真面に挑めばこの中の半分は死ぬだろうさ」
ひとしきり騒がせたところで、私はあっけらかんとした口調で言う。
「「「「「…………」」」」」
私の無責任すぎる言葉に静まり返る一同…
そのタイミングで、私は着物の中に仕込んだ呪符に念を流し込み、辺り一面を"真っ赤な光"で包んでやる。
「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」
皆が驚き、私から離れて距離を取った。
だが、それ以上の事は何も出来ない…私はその様子を見てニヤリと笑うと、この"お題"に立ち向かうための行動を示してやる。
「"この程度"の事でそうなるんだ。とてもじゃないが、弱すぎる。今はこんな危ないお題に挑める状況じゃない。それは皆も分かってるだろう?だが、お題に挑まないわけにもいかない。悲しい事に、私達にも立場とかいう下らないモノがある…そうだよね?」
呪符に込めた術を解除して全員に問いかけると、皆は何んとも歯切れの悪い様子で頷いてくれた。
全員が全員、同じ気持ちなのかは分からないが…少なくとも"感じている息苦しさ"は共有できそうだ。
「ま、全員が全員、同じ気持ちでいろなんて甘いことは言わないさ。だけど…ちょっとの間、私が"鍛えてやる"間くらいは…」
全員の方を見てそう言うと、私は"本命"の呪符に念を流し込み…
金色の光で身を包み込むと、"妖"の姿に変化を遂げる。
ハラハラと頭の上から落ちてくる何枚かの羽根越しに皆をジロリと見やると、ニヤッと口元を歪めてこう言った。
「仲良くやろうじゃないか。そう思ってるんだが、皆はどうだろうね?」
妖に変化した私を前に、皆はシンと静まり返り…そして僅かに顔を青褪めさせる。
まぁ、私を知っているという事は…"そういう事"なのだろう。
私は皆の静まり具合を見てフッと鼻を鳴らすと、何の異議も出てこない事を良い事に話を続ける。
「さ、時間も限られてるから早く動き出そう。今から10分後、2階の北東にある道場に集合だ。お面と耳飾りを付けてきて。それじゃぁ、一旦解散!」
皆に向けてそう言うと、私の周囲に集まった面々がゾロゾロと行動を始めた。
「モト、千鶴達も…ちょっといい?」
私は皆を見送った後で、私の元から動き出さなかったモトと千鶴達を呼び止める。
「どうした?」
「モト達には手伝いというか、準備を頼みたくって」
私は残った面々にそう言うと、着物の裾から"赤紙の呪符"を取り出してモトに手渡す。
今、手渡したのは、何の変哲もない"赤紙の呪符"…モトはそれを受け取ると、怪訝な表情をこちらに向けた。
「これが?」
「多分、あの子達は持ってないだろうからさ。大量に用意できないかな。確か…本家なら凄い枚数の予備が置いてあったと思うんだけど。千鶴、分かる?」
「あ、あぁ!分かる分かる。1階の倉庫にあるよね。大丈夫、任せてよ」
千鶴に話を振ると、彼女は僅かに驚いてから私の思った通りの反応を返してくれる。
私は"人としての"笑みを顔に張り付けると、モト達を見回して1つ、お使いを頼んだ。
「持ってこれるだけ持ってきて。"赤紙の呪符"位…使いこなせるようにならないとね。私は…ちょっと"用事"を済ませてから行くから、ちょい遅れるかも」
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