206.修学旅行の時の、ソワソワした感覚を味わえるとは思わなかった。
修学旅行の時の、ソワソワした感覚を味わえるとは思わなかった。
大人達が殆ど掃けた防人本家…その食堂に集まった私達は、学校生活だとか、日常の他愛の無い適当な話題で盛り上がっていると、不意に千鶴がこんな事をポツリと呟く。
「でもさぁ、私達こんなんじゃない?だから恋が出来なくって…良いなぁって思わない?」
防人特有の白菫色の髪を弄りながらポツリと一言。
防人は皆、表を歩く時はウィッグとかで"変装"している訳だが、それが恋の障壁になると彼女は言っているのだ。
まぁ、確かに、相手に隠し事をしながらとなれば、騙している様で悪い気がするのだが…
「それなら沙月が相談に乗ってくれそうだな」
千鶴の呟きを"ワザと"キャッチしたモトが、弄る様な笑みを浮かべてこちらを見やる。
私はそれに触れない様にしていたのに…右隣に居たモトをキッとした目で睨んだ刹那、私は真正面にいた千鶴からロックオンされていた。
「え?沙月!彼氏いるの!?」
食いつきが凄い千鶴に、驚いた顔を浮かべて私を見つめる男三人…
私は引き笑いを浮かべると、コクリと頷いて肯定して見せた。
「いいなぁ~、ね、どんな人?」
「どんな人って…まぁ、私よりも強い人?」
「どんな紹介してんだよ…」
千鶴の問いに答えた私、そしてそれに突っ込むモト。
私は着物の裾からスマホを取り出すと、アルバムを開いて正臣と写った写真を見せてやる。
「この人」
「へぇ…え?沙月、素じゃん!どういうこと!?」「マジか…」「ほぉ~…」「……」
その写真は私の家で撮った正臣とのツーショット。
私は変装すら施さず、髪色も、頬の傷すらもそのままの状態で写っていた。
千鶴達からして見れば違和感しか感じないであろう写真。
私は彼女達が"思っていた通り"の反応を見せてくれたことでニヤリとニヤつくと、スマホをテーブルの上に置いてネタバラシの時間だ。
「色々あってね、去年までは"騙してた"んだけど、バレちゃってさ」
「え?バレたって…防人の事を?」
「そう。元々幼馴染みたいなもんでね、防人の家だって事で気味悪がられてた時から仲良くしてくれてて…で、ひょんなことからバレたってワケ」
「ひょんな事って…でも、幼馴染かぁ…そういう人が居るのは羨ましいわね。私はホラ、この男共しか居ないから」
千鶴の言葉を受けて、僅かに顔を赤くする男三人。
私は苦笑いを浮かべて彼らの方を見つつ、防人特有の事情に同情してしまう。
きっと、彼らは日常生活じゃ"周囲から浮いている"のだろう。
防人の家系は、気味悪がられるのだ。
「私の場合は恵まれてたけど、大学に上がれば変わるんじゃない?家を出られるのは大学のうちだけだし…そこで出会いとかあるよ。きっと…」
「そうだけどさぁ、結局家に戻るなら大学行く意味ないなぁって。ねぇ、徳ちゃん?」
「そうだな。千鶴のいう通りでさ、なんかパンフとか見てもパッとしないんだよな」
「なるほど…そう言われてみればそうかも。大学行く意味無いっちゃ無いのか…」
「沙月、お前の場合は勉強したくないだけだろ?」
「それも…多分にあるね」
「…大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫大丈夫…赤点ギリギリばっかだけど、進級は出来るみたいだから!」
「……」「……」「……」「……」「……」
なんだかんだで、高校生らしい会話…と言えるのではなかろうか。
三条君だけ中学生でちょっと蚊帳の外感はあるけれど…頷ているから問題はなかろう。
「それにさ、俺、行くなら東京の方の大学かなって思ってたんだけど。この間、渠波根家で問題起きたじゃん?」
「あぁ、妖になったっていう裏切り者ね」
「そうそう。そのせいで親が関西の範疇にしろとか言ってきててさ…」
南大路君と千鶴の話をポカンとした顔で見つめる私とモト。
渠波根家の裏切り者…77号の妖に殺されて"眷属"とされた渠波根朱莉の事だ。
北海道で起きた事件がこんな所に影響を及ぼしているとは思ってもみなかった。
「そうなるんだ。それは…厄介だね」
私は本州の家系の"面倒くささ"に呆れ顔を浮かべながら同情してやる。
「沙月はそう言うの無さそうだよね」
「まぁ…その辺は自由だしなぁ。一線超えない限りは…だけど」
「良いなぁ…元治は北海道行ったことあるんだろ?実際どうなんだ?向こうって」
「俺に聞くのか。んー、コッチみたいな息苦しさは感じないな…沙月もこんなんだし」
「こんなんって何さこんなんって」
「妖と上手く共存してるな。ここじゃ一部除いて害獣扱いだろ?そういうのが無いんだ」
モトが北海道に関しての感想を素直に言って見せると、千鶴達は小さくため息を付いて私の方に目を向けた。
「イメージ通りだね」
「自由過ぎるって気がするけどもね」
「まぁそう言うな成寿。それで何も無けりゃ良いんだから」
「そうだな。何時か北海道にも行ってみたいって思ってんだけど…親がなぁ…」
四者四様の反応。
私は肩を竦めて見せると、少し"イメージが違った"彼らに同情心が芽生えていた。
ここに至るまで、まだ"警戒心"は抜けてなかったし、今も少し警戒しているのだが…
それでも、彼らが防人本家に"近い"家系で色々と雁字搦めになっているのが垣間見えた気がする。
「やっぱ本家に近いと大変なんだねぇ…」
しみじみと呟くように言うと、4人は苦笑いを浮かべて姿勢を崩した。
「だからさ、異境とかの存在も、最近まで知らなかったし…なぁ?」
「そうそう。沙月や元治君が入ってるって知ってビックリしたんだから」
「妖力の弱さはそれが原因だね。その様子じゃ、呪符にも殆ど触れてないんでしょ?」
「うん。殆どね…だからさっきはさ、実を言うと死ぬ思いだったんだよね」
「それでよくもまぁ…どう考えても、二寺さん達に頼むお使いじゃないよな。アレ」
「全くさね。通過儀礼にしちゃ、初見殺しも良い所」
込み入った話をして、更に仲を深めた私達。
話は段々と"防人らしい"ものになっていく最中、不意に食堂の扉が開かれる音が聞こえてきた。
「「「「「「……」」」」」」
一斉に黙って入り口の方に顔を向ける私達。
少々特殊な作りになっている食堂…扉の様子は見れないのだが、扉から繋がる通路の先を眺めていると、ひょっこり1人の子供が姿を表わした。
「これはこれは、随分と面白い組み合わせもあったものじゃな」
見た目にそぐわぬ声色…口調…その子供が"妖"であるとすぐに見抜いた私達は、僅かに身を屈めて"警戒"するが、子供はそれを見て豪快に笑い飛ばすのみ。
「あっはっはっは!警戒するでない。我は防人元の関係者ぞ。家に残ったガキ共を集めよとの令に従い、動いていただけじゃ」
子供はあっけらかんとした様子でそう言うと、僅かに妖力を滲みだす。
その妖力は、私でも僅かに鳥肌が立つほどに強く…私達は口元を引きつらせて怖気づいた。
「分かったじゃろ?」
私達が引いた様子を見れて満足したのか、子供は妖気を収めると、すぐに人懐っこい笑みを浮かべて…そして、私達にこう告げた。
「お前達、我についてこい。"防人元"が残ったガキ共に集合をかけておる。講堂まで行くぞ」
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