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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
伍章:境界線上の妖少女(上)
205/300

205.やりすぎだと言われるくらいが、丁度良いと学んできたんだ。

やり過ぎだと言われるくらいが、丁度良いと学んできたんだ。

私は沙絵の制止を素直に聞き入れると、カシャ!と爪に付いた血肉を削ぎ落し、そしてフーっと長い溜息を付いた。


「そう。掃除は楽だろう?後は鉄ゴミの掃除位しか残ってない」

「薬莢に銃弾。あとは通りの補償でしょうか。沙月様、"派手に"やりすぎですよ」

「それ位で良いのさ。変に希望を持たせるような真似をすれば…長引くからな」


私はそう言って口元をニヤリと歪ませると、沙絵の表情が僅かに強張った。


「沙絵」

「な、何でしょう?」


緊張した様子の沙絵の名を呼ぶと、彼女は僅かにビクッと体を震わせる。


「これも頼める?元々、この予定でコッチに来てたんだ」


私は沙絵の態度を見て僅かに悪戯心が芽生えるのを感じつつ、着物の裾に入れていた用紙を取り出して沙絵に手渡した。

そもそも異境にやって来たのは、単に"本家に近い"家が受けたおつかいの依頼を果たす為。


「これは…」


沙絵は血に濡れて、鋭い爪のせいで僅かに破れた用紙を受け取ると「あぁ」と言って目的の店の方へ目を向ける。


「分かりました。…と言っても、あの様子じゃ必要か分かりませんがね。とりあえず、沙月様は本家に戻りを」

「分かった。あぁ、いや、最後に一つ良いか?」

「何です?」

「向こうは今、どうなってる?」


沙絵との別れ際に尋ね事を一つ。

沙絵は私の問いかけに、少し考えるような素振りを見せてから…苦々しい表情を浮かべてこう言った。


「"外人共"が京都の街中で暴れて、それはもうてんやわんやですよ。警察沙汰も少々ありまして…子供達の出る幕はまだ無いですが、それでも、待機指示が出ています」

「なるほど、分かった。それじゃ…後は任せたよ」


沙絵にそう言って、私はバサッと翼を広げて宙を舞う。

妖になって"色付いた"異境を眺めて目を細め…周囲を適当に飛び回ってから、本家に繋がる"扉"がある方へと体を向けた。


「やれやれ…」


扉があるのは、少々小高い丘の上。

翼を羽ばたかせて、扉近くの大きな木の枝に止まった私は、一度自らの格好を見回して苦笑いを浮かべる。


「やりすぎ位が丁度良いか…」


飛んできた血飛沫で汚れた着物を見てポツリと一言。

そう呟いたのち、木の枝から地面に飛び降りた私は、スッと立ち上がると同時に右手を左の裾に突っ込んで、中に仕込まれていた呪符に念を込めた。


「……」


呪符に念が流れ込んだ刹那。

私の体は先程同様、金色の光に包み込まれて…

瞬きを幾つかする間に人間の姿に戻っていく。


「角だけは…まぁ、本家に行けば戻るだろうさ」


唯一の例外は、おでこに残った鬼の角…

それはさっき、異境には言った時に出てきたものだから、きっと本家に戻れば消えるだろう。

そう楽観的に考えた私は身なりを確認して、血以外に変な汚れが無いか…着物が破れていないかを確認した後で扉に手をかけた。


「…っと。角は…消えるよね」


異境から本家へ…どこか寒気を感じる本家の廊下に出た私は、誰もいない廊下を歩いて私達の家に割り当てられた部屋の方に体を向ける。

モトと再会して…二寺さん達と知り合う事になった隅っこのスペースも通り過ぎて、淡々と廊下を歩いていく私。


いつもならば、殺風景ながらも、何処かに人の気配というか…

"人の匂い"を感じ取る事が出来たが、今はそれらをほとんど感じない。


「ま、子供が出る幕は無いだろうけどもさ」


私は殺風景な様子を横目に見ながら廊下を歩き続け、階段を降りて…

ようやく辿り着いた"いつもの部屋"。

その部屋の襖を開けて中に入ると、荷物が少々雑に散らばっている様子が目に入ってくる。


「大分お急ぎだったらしい」


私は着ていた着物の帯を解きながら独り言をポツリ。

パっと着物を脱ぎ捨てて、体に付いた血をウェットティッシュで拭き取り、予備の着物に着替えた私は、再び溜息を一つ付いて窓の外に目を向けた。


「ここからじゃ分からないかぁ…」


窓の外から見えるのは、本家の敷地内…手入れが行き届いた庭園の光景だけ。

私は血濡れた着物を適当な袋に詰め込んで部屋の隅に放り投げると、モトを探すために部屋の外に出た。


普段なら部屋に引きこもる…のだけども、今回、本家には"大人達が殆どいない"。

さっき知り合った二寺さん達とも話したかったし…

"家同士のゴタゴタ"が無い中、この広い屋敷である自由に動けるのは滅多にない事なのだ。


(状況が状況だから、不謹慎だけどもね)


私は1人悪戯っぽい笑みを口元に浮かべながら、人気のない本家を適当にブラつき歩く。

モト達も待機してるはず…そして、彼らも"1人でいる"訳は無いと思うのだが…


(食堂あたりかな?)


適当にアタリを付けてモトを探す私。

本家の隅にある、無駄にだだっ広い食堂まで出向いて扉を開けた。


「!!」「わっ?」


開けた途端、中から人の声と…ガタッ!と物音が聞こえてくる。

とりあえず、中に誰かいるらしい。

私は表情を消して普段通りの顔を浮かべると、通路を通って食堂の中に入っていった。


「誰!?」「あっ」「あぁ…なんだ」


通路を過ぎて、大食堂の全容が見えるようになった時。

食堂の奥の席で蠢いていた人影が、私の姿を見止めて安堵の声を漏らす。

どうやら、私の予想は当たっていたらしい。


「お待たせ」


私はさっきと変わらない面子にそう声をかけて近づくと、皆は普段通り?の笑みで出迎えてくれた。


「お疲れさん」

「えぇ。モト、そっちは問題なし?」

「あぁ、沙月が一掃してくれたお陰でね」

「よかった。で…他所の子は?まさか子供達が私達だけって訳でもないでしょうに」

「さぁ。どっかにいるんじゃないか?…どんだけ子供が居るか知らないんだけどさ」


空いていたモトの隣に腰かけた私。

緊急事態と言えばそうなのだが…

"基本関係のない"子供達は、どこか修学旅行中の様なソワソワした高揚感を感じていた。


「ま、今だけは"自由"だな。二寺さんじゃないけど、"交流会"には打ってつけってね」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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