201.時代にそぐわないものは、人をイライラさせるだけだ。
時代にそぐわないものは、人をイライラさせるだけだ。
それが、この"親戚一同の集まり"で私が得た知見と言える。
年末…12月26日の昼下がり。
例年通り防人本家に出向いて挨拶回りを済ませ、大人達が"集会"へと出向いた頃。
本家2階の隅にある役割が良く分からないスペースで、大層な来客用のソファに座ってボーっと窓の外を眺めていた私の耳に、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「沙月!」
私の名を呼んだのは、数か月ぶりに会うモトだ。
洛波羅元治…本州の防人家系と仲が悪い私達入舸家と、"割と普通に"接することが出来る数少ない防人家系である洛波羅家の1人息子だ。
「モト、家の中で見ないなと思ってたら、また異境に行ってたな?」
私は声の方を向いて手を振り返しつつ、しかめ面を浮かべる。
モトがやって来たのは廊下の向こう側…ソッチの方向には、"異境"へと繋がる扉しかないから、彼が異境からやって来たのは明白だ。
「まぁね。向こうでも挨拶周りしてたから」
「必要も無いだろうに。それに…」
飄々としたモトの態度。
私はジトっとした目を彼に向けつつ鼻を効かせると、モトからは"異境"特有の"妖の匂い"が強く付いてしまっていた。
「また少し、妖に近づいたな?」
声を潜めて一言。
「やっぱり?そうなってる?」
嬉しそうなモトの返答。
私ははぁ…っと呆れ顔を向けつつ、ソファの隅へ体を寄せる。
モトは、私の横にやってきてドカっとソファに沈み込むと、満足げな表情を浮かべてニヤリと笑った。
「耳飾りは必要だけど、仮面は要らない位に馴染めてきたんだ」
「自慢する事じゃ無いな」
「ちょっとでも沙月に近づきたいだけさ。それに…」
楽し気だったモトの様子が僅かに曇る。
私は眉を僅かに上げると、首を少し傾げた。
「それに?」
「分かるんだ。俺はそろそろ"限界"…人間なんだって。後少しで"妖力"が頭打ちになる」
モトは少し寂し気な感じでそう言い切った。
私はポカンと口を開けると、すぐにフッと鼻で笑って肩を竦めて見せる。
「十分過ぎる位、妖に"寄ってる"っての。強すぎる位だよ」
私がそう返すと、私達は口を閉じて、暫くの間黙り込んだ。
「……」
「……」
何とも言えない無言の空気。
モトと顔を合わせるのは、そう…私が"妖"と化した夏以来。
2人で鬼沙に挑んで、派手に暴れて…病院送りになって以来だった。
だから、話したいことも、話題も尽きないはずなのだが…
最初にした話題が"不味かった"のだろう。
私達の間には、何とも言えない微妙な空気が流れていた。
「やっぱここにいた!」
「ん?」「あ?」
そんな空気をぶち破ったのは、誰かも分からない人の声。
モトと二人揃って体を震わせて姿勢を正し、声の方へと振り向くと、私達が"寝泊りする"方から歩いてくる人影が見える。
その数四人、揃いも揃って私達と同年代の様だが…
正直、誰なのか分からない。
白菫色の髪のお陰で防人であることは分かるが…というか、防人以外この家にはいないのだが…何処の家系の子達だろうか?
「入舸沙月さんと…そっちは洛波羅元治君…だよね?」
先頭に立っていた、私と同年代位の女の子が尋ねてくる。
私より一回り大きくて、どことなくジュン君を思わせるボーイッシュな印象の女の子。
私とモトは顔を見合わせた後に彼女の方を向いて、コクリと頷いた。
「そうだけど」「君達は…?」
モトも知らない子達らしい。
困惑した顔を彼女達に向けると、彼らは皆気まずそうな、曖昧な笑みを浮かべた。
「ごめんね、急に。顔合わせた事って殆ど無かったもんね…私は二寺千鶴。後ろにいる三人は、小っちゃいのから三条成久、南大路徳之、雲丹亀龍弥っていうの」
二寺さんの紹介で、彼女の後ろにいる三人の男の子が軽く会釈して見せる。
私とモトも釣られるように会釈しつつ、彼らが"防人本家に近い"、"洛中"の家系である事に気付いて僅かに背筋を凍らせた。
「洛中の人が、俺達に何か…?」
顔を引きつらせて僅かにピクついたモトと、それを背中をつねって制する私。
この手の"ゴタゴタ"は嫌いだが、嫌でも意識してしまう。
"家同士のゴタゴタ"が体に刷り込まれてしまっているのだ。
「いやいやいや!…その!喧嘩しに来たわけじゃないの!父さん達と一緒にしないで!」
モトの一言に焦る様子を見せた二寺さん。
私達はその反応に怪訝な様子を見せたが、すぐに顔を見合わせて頷き合い、そして彼女達に顔を向けて頭を下げる。
「ごめん。つい…」「でも、こうなっても仕方がないでしょ?」
「まぁ…ね。今まで顔合わせしなかったのも親のせいだし…でも、もう、私達もいい年だしさ、私達の代で"ソレ"を止めたくて来たの!他意なんて無いのよ」
「そう、それなら…尚更ごめん」
会って早々気まずい空気になる私達。
私は二寺さんの後ろで言葉を発さない男共の方をチラリと見やると、彼らは僅かに驚いた顔を浮かべる。
二寺さんからもだが、こう…私とモトに対する畏怖の様なものを感じ取れた。
家柄的には彼らを畏怖する立場の私達だけど…きっと、私達の"妖力"のせいだろう。
「まぁ…交流会なら、こんな隅っこじゃなくて、部屋に戻ってからでも良いんじゃない?」
二寺さんや男の子達の"妖力"は、春先のモトと同じくらいで"とても弱い"。
感じる畏怖は"妖力の差"…それを感じ取った私は、彼らにそう提案すると、彼らは思ってもみなかったモノを着物の袖から取り出した。
「それなんだけど…交流ついでに。そこから入れる"異境"っていうのを見てみたいなぁって思ってるんだけど」
二寺さん達がそう言って取り出し、付けたのは、"お面と耳飾り"。
彼女は更に1枚の紙ペラを取り出して、それを私達に手渡してきた。
「ちょっと上から"お仕事"も任されててね…どう?二人さえ良ければ、これから異境に行けないかな?」
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