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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
幕間:その肆
200/300

200.こういう時の過ごし方を、互いによく分かっていない。

こういう時の過ごし方を、互いによく分かっていない。

日曜日、正臣と共にやって来たのは、小樽市内ではなく、札幌。

沢山の人の中で2人、2人きりで札幌に来た!とか、互いの格好が妙に気合が入ってたりしててちょっと意識して…とか、電車の中でソワソワしていた空気は何処かへ消え失せ、2人そろって人に酔っていた。


「こんなに人多かったっけ?」

「さぁ、何かあるんでないの?」


電車を降りて、さぁ何処へ行こうかとなる前に、駅中の喫茶店へ避難した私達。

運良く空いていた一番奥の席を宛がわれた私達は、少々暗い色をしたガラス越しに、駅中を行き交う人々を眺めてゲンナリとした表情を浮かべた。


「さて、これからどうする?」


コーヒーカップを手にした正臣に尋ねられるが、私にはこれからのプランが一切無い。

妖になった時みたいに、格好に引っ張られてくれれば何かかしら動けるのだろうけども…

頭の上から足の先まで穂花達のコーデに身を包んだ挙句、沙絵に良い様に薄化粧を施された私は、何もかもが普段と違う状況にすっかり舞い上がってしまっていた。


落ち着いた装いながらも、普段の私服以上に"カチッと"した格好の正臣をもう一度ジーっと見回した私は、少々目が泳ぎながらも、ふと思い当たった事を口走る。


「札幌って街中に観覧車無かったっけ」

「観覧車。あー…聞いた事あったっけ」


正臣は、僅かに顔を赤らめつつもスマホを取り出して調べ始めた。

すぐに探し物が見つかったらしく、画面を私に見せてくる。


「これか」

「そだね」


画面に映ったのは、商業施設の屋上に設置された観覧車。


「そこ行かない?」

「あ、あぁ。そうしよっか」


ココアが入ったコップを手に言った私に、正臣はどこか上ずった声で答えた。


「なしたのさ」

「いや、何でも。相変わらず高い所好きだなって」

「まぁ…確かに。正臣は苦手だったっけ?」

「そうでもないけど、観覧車乗るのなんて久々だから、どうかな。苦手になってたりして」

「マリーナベイのが消えて結構経つもんね。小学生の頃だっけ?一緒に乗ったの」

「乗ったなぁ…確か、沙月、足折って治りかけてた時だ」


そう言われて、私は僅かに口元を引きつらせる。

そう言えば、そうだったっけか。


「そういうの、ちゃんと覚えてるよね。言われるまで忘れてた」

「そりゃなぁ…ワケの分からない所から飛び降りたせいでしょ?俺も居た覚えあるし」

「そうだっけ?」

「無茶苦茶やる奴だったし。まぁ、今も変わらないけど、なんか印象に残るでしょ?」


砕けた笑みを浮かべる正臣に、私は口元を引きつったまま頷いた。


「ま、まぁ、とりあえずそこ行くとして…そっからどうする?」

「観覧車の中で決めよ」


そう言って、残ったココアをストローで啜って空にすると、伝票を手に取る。

正臣もコーヒーを飲み干して席を立った。


「なんか、カッコつかないな」

「暫くマネージャーでしょ?」


そのままレジに向かってお金を払って、再び人でごった返す外に出ると、私達の前をちょっと浮いた格好をした4人組が通り過ぎて行く。


「コンサートか何かあるんだろうな」

「なるほど。通りで」


派手な格好をした人達を避ける様に駅を出ると、地下ではなく地上を歩いて街中の方へ歩き出す。


「あ、そうだった。寒くない?」

「いや、大丈夫。晴れてるし」

「そうか」


地下よりは人が疎らな地上。

人に紛れて歩いていくが、行き先は正臣任せだ。


「正臣は何か見たいとか、無いの?」

「ん?んー…そもそも札幌に来るとも思ってなかったしなぁ…」

「それもそっか」

「沙月は?」

「誘っといてなんだけど、全く無い」


そう言ってクスッと笑うと、正臣も私に釣られて口角を上げる。

秋晴れの空の下、丁度良い気温の中、目的地の観覧車まではそこそこ歩くらしい。

散歩には丁度良い距離…なのだろうか?どこまで行くか分からないけど。


「そうだ。この間の、ありがとね。お陰で、今は普通」


歩きながら、流れで言えなかった事を言うと、正臣は浮かべていた笑みを深めた。


「全然。やっぱ予想通りだった?」

「今の所」

「ならさ、また、出来るよね?」

「出来るけど…危ないんだよ?」


少しだけ強張った顔を浮かべてそう言うと、正臣は「全然」と言って首を振る。


「あれくらい骨がある方が練習になるし」

「く、狂ってる」

「沙月に言われたくないな。それにさ」

「?」

「言ったじゃん、死んでも構うかって」

「ほー…」


正臣の言葉を聞いた私は、ポカンと口を開けて彼の方をジッと見つめた。

よくまぁ、歯の浮く台詞を自然に言えるものだ。


「この間のは冗談じゃなかったの」

「あんなとこで冗談言ってどうするのさ」

「それは…まぁ、自分に喝を入れるためだったり?私への煽りだったり?」

「煽りって、そんな自殺行為みたいなことしないって」

「いや、あそこで立ち向かってくるのも相当…」


正臣は続きを言いかけた私の頭をポンと小突くと、砕けた笑みを作った。


「…馬鹿じゃないの」


悪戯が成功したみたいな笑顔を浮かべた正臣に、ちょっとジトっとした目を向けて一言。

そう言ってから小さなため息をついた私は、正臣の腕を軽く小突いてやり返す。


「色々と言う割に、断らないんだね」

「まぁ…正臣だし」


クスッと口元を笑みに歪めてそう言うと、私はパッと彼の手を掴んだ。


「そこまで言うなら、死ぬまで付き合わせてあげる」


驚いて呆気に取られた様な正臣の手を引いてそう言った私は、僅かに彼の方に顔を寄せる。


「流れに流されるのも、悪くないよね?正臣?」


僅かに表情を消し、薄ら笑みを浮かべて一言そう言うと、正臣は顔を赤くしながら頷いた。


「皆まで言わせるなって顔してるけどさ、なんか、勘違いしそうなんだけど」


分かってるくせに、精一杯の足掻きを見せる正臣。

私は更に笑みを深めると、声を一段小さくして、ボソッと告げた。


「お願い。付き合って。世間一般的な意味で」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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