200.こういう時の過ごし方を、互いによく分かっていない。
こういう時の過ごし方を、互いによく分かっていない。
日曜日、正臣と共にやって来たのは、小樽市内ではなく、札幌。
沢山の人の中で2人、2人きりで札幌に来た!とか、互いの格好が妙に気合が入ってたりしててちょっと意識して…とか、電車の中でソワソワしていた空気は何処かへ消え失せ、2人そろって人に酔っていた。
「こんなに人多かったっけ?」
「さぁ、何かあるんでないの?」
電車を降りて、さぁ何処へ行こうかとなる前に、駅中の喫茶店へ避難した私達。
運良く空いていた一番奥の席を宛がわれた私達は、少々暗い色をしたガラス越しに、駅中を行き交う人々を眺めてゲンナリとした表情を浮かべた。
「さて、これからどうする?」
コーヒーカップを手にした正臣に尋ねられるが、私にはこれからのプランが一切無い。
妖になった時みたいに、格好に引っ張られてくれれば何かかしら動けるのだろうけども…
頭の上から足の先まで穂花達のコーデに身を包んだ挙句、沙絵に良い様に薄化粧を施された私は、何もかもが普段と違う状況にすっかり舞い上がってしまっていた。
落ち着いた装いながらも、普段の私服以上に"カチッと"した格好の正臣をもう一度ジーっと見回した私は、少々目が泳ぎながらも、ふと思い当たった事を口走る。
「札幌って街中に観覧車無かったっけ」
「観覧車。あー…聞いた事あったっけ」
正臣は、僅かに顔を赤らめつつもスマホを取り出して調べ始めた。
すぐに探し物が見つかったらしく、画面を私に見せてくる。
「これか」
「そだね」
画面に映ったのは、商業施設の屋上に設置された観覧車。
「そこ行かない?」
「あ、あぁ。そうしよっか」
ココアが入ったコップを手に言った私に、正臣はどこか上ずった声で答えた。
「なしたのさ」
「いや、何でも。相変わらず高い所好きだなって」
「まぁ…確かに。正臣は苦手だったっけ?」
「そうでもないけど、観覧車乗るのなんて久々だから、どうかな。苦手になってたりして」
「マリーナベイのが消えて結構経つもんね。小学生の頃だっけ?一緒に乗ったの」
「乗ったなぁ…確か、沙月、足折って治りかけてた時だ」
そう言われて、私は僅かに口元を引きつらせる。
そう言えば、そうだったっけか。
「そういうの、ちゃんと覚えてるよね。言われるまで忘れてた」
「そりゃなぁ…ワケの分からない所から飛び降りたせいでしょ?俺も居た覚えあるし」
「そうだっけ?」
「無茶苦茶やる奴だったし。まぁ、今も変わらないけど、なんか印象に残るでしょ?」
砕けた笑みを浮かべる正臣に、私は口元を引きつったまま頷いた。
「ま、まぁ、とりあえずそこ行くとして…そっからどうする?」
「観覧車の中で決めよ」
そう言って、残ったココアをストローで啜って空にすると、伝票を手に取る。
正臣もコーヒーを飲み干して席を立った。
「なんか、カッコつかないな」
「暫くマネージャーでしょ?」
そのままレジに向かってお金を払って、再び人でごった返す外に出ると、私達の前をちょっと浮いた格好をした4人組が通り過ぎて行く。
「コンサートか何かあるんだろうな」
「なるほど。通りで」
派手な格好をした人達を避ける様に駅を出ると、地下ではなく地上を歩いて街中の方へ歩き出す。
「あ、そうだった。寒くない?」
「いや、大丈夫。晴れてるし」
「そうか」
地下よりは人が疎らな地上。
人に紛れて歩いていくが、行き先は正臣任せだ。
「正臣は何か見たいとか、無いの?」
「ん?んー…そもそも札幌に来るとも思ってなかったしなぁ…」
「それもそっか」
「沙月は?」
「誘っといてなんだけど、全く無い」
そう言ってクスッと笑うと、正臣も私に釣られて口角を上げる。
秋晴れの空の下、丁度良い気温の中、目的地の観覧車まではそこそこ歩くらしい。
散歩には丁度良い距離…なのだろうか?どこまで行くか分からないけど。
「そうだ。この間の、ありがとね。お陰で、今は普通」
歩きながら、流れで言えなかった事を言うと、正臣は浮かべていた笑みを深めた。
「全然。やっぱ予想通りだった?」
「今の所」
「ならさ、また、出来るよね?」
「出来るけど…危ないんだよ?」
少しだけ強張った顔を浮かべてそう言うと、正臣は「全然」と言って首を振る。
「あれくらい骨がある方が練習になるし」
「く、狂ってる」
「沙月に言われたくないな。それにさ」
「?」
「言ったじゃん、死んでも構うかって」
「ほー…」
正臣の言葉を聞いた私は、ポカンと口を開けて彼の方をジッと見つめた。
よくまぁ、歯の浮く台詞を自然に言えるものだ。
「この間のは冗談じゃなかったの」
「あんなとこで冗談言ってどうするのさ」
「それは…まぁ、自分に喝を入れるためだったり?私への煽りだったり?」
「煽りって、そんな自殺行為みたいなことしないって」
「いや、あそこで立ち向かってくるのも相当…」
正臣は続きを言いかけた私の頭をポンと小突くと、砕けた笑みを作った。
「…馬鹿じゃないの」
悪戯が成功したみたいな笑顔を浮かべた正臣に、ちょっとジトっとした目を向けて一言。
そう言ってから小さなため息をついた私は、正臣の腕を軽く小突いてやり返す。
「色々と言う割に、断らないんだね」
「まぁ…正臣だし」
クスッと口元を笑みに歪めてそう言うと、私はパッと彼の手を掴んだ。
「そこまで言うなら、死ぬまで付き合わせてあげる」
驚いて呆気に取られた様な正臣の手を引いてそう言った私は、僅かに彼の方に顔を寄せる。
「流れに流されるのも、悪くないよね?正臣?」
僅かに表情を消し、薄ら笑みを浮かべて一言そう言うと、正臣は顔を赤くしながら頷いた。
「皆まで言わせるなって顔してるけどさ、なんか、勘違いしそうなんだけど」
分かってるくせに、精一杯の足掻きを見せる正臣。
私は更に笑みを深めると、声を一段小さくして、ボソッと告げた。
「お願い。付き合って。世間一般的な意味で」
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