199.着せ替え人形で遊んだ覚えは、そう言えば無い気がする。
着せ替え人形で遊んだ覚えは、そう言えば無い気がする。
子供の頃を思い返せば、主に沙絵と八沙のせいで、時代劇に出て来る子供みたいな遊びしかしてこなかった。
おもちゃ売り場に置いてある、着せ替え人形だとかその類には…触れたことも無かったな。
触れてみたいなと思った事も無いのだけど。
「沙月、着替え終わった?」
「待って、ちょっと待って」
日曜日の午前中から、随分と酷使されている気がする。
マリーナベイに入っている服屋の更衣室、そこに缶詰にされた私は、次から次へと服を持ってこられて、それをいそいそと着替えては3人に見せる…と言う事を繰り返していた。
これで、4着目だ。
「はい…終わり…」
自分では先ず着ない意匠の服に袖を通した私は、シャっとカーテンを開ける。
目の前には、事の発端になったジュン君に、穂花に楓花と、何時もの面々。
3人は私の姿を真剣な表情でジッと見つめると、首を傾げた。
「違うわね」
「違うのです」
「これ系統じゃないか」
「ごめん、沙月、別なの持ってくるね」
「はいはい」
穂花にカーテンを閉められる。
クルリと振り返って鏡をみると、黒いウィッグと伊達眼鏡をかけた顔にはちょっと似合わない?意表返し気味な服を着た私が映った。
「まぁ、無いかなぁ」
似合わないと思いつつも、案外どうだろう?と思った、黒基調の派手めな服。
素の顔で、漁酒会の面々に紛れるには持って来いな格好だが、これを"表"の私が着るにはちょっとハードルが高すぎる。
パッと脱いで、着ていた物を畳んで…
ちょっと待つと、カーテンの向こう側に人の気配。
「持って来たのです」
「はーい」
ジュン君の声に反応した私は、カーテンから腕だけを出して衣服を受け取り、代わりに脱いだ物を渡した。
「今度こそなのです!」
「はいはい」
受け取った物をチラリと見やると、今度は眼鏡もかけ替えろとの事らしい。
かけていた野暮ったい伊達眼鏡から、ちょっとお洒落目?な眼鏡にかけ替える。
「ふむ…」
起毛がそこまで気にならなそうな、白いノースリーブのニットを着て…
その上から、随分と丈が短い気がする、紅茶色のチェック模様を持つジャケットを羽織った。
その下に穿くのは、腰の位置より少し高い所に来る長いデニムスカート。
一通り渡されたものを着て鏡の方をチラリと見やると、そんなに悪い気がしない。
「着たよ」
カーテンを開けて3人に見せると、私を見てすぐ、3人は一様に目を丸くした。
「おぉ…これは正解なのです」
「そうね」
「沙月の趣味にも合うんじゃない?」
高評価。
私としても、さっきまでの"如何にも"な感じが抜けていて、ちょっと良いと思ってしまう。
もう一度鏡を見て回って、3人の方を振り返ると、コクリと頷いた。
「これくらいなら」
「なら、決まりなのです!」
アッサリ決定…こういうのは、1度悩むと確実に買わない方向に行ってしまう。
私はカーテンを閉めて私服に着替え、さっきまで着ていた物をカゴに入れてレジに向かった。
高校生でも手が届きやすい価格帯のお店。
4点で5千円と掛かっていないのは有難い。
紙袋を手に提げて店を出ると、3人はすぐに私を別の場所へと連れて行こうと手を掴む。
「え?これで終わりじゃないの?」
「鞄と靴も、小物も揃えてみない?折角だし」
「そうそう、最近、働き詰めだったでしょ?」
「少しはお洒落に回すのです」
これで買い物も終わりで、後は適当に…
だなんて考えていた私の考えは一瞬で崩されて、私は3人にされるがまま、別のお店へと連れていかれた。
トータルコーディネート?とでも言えば良いのだろうか。
小物を売ってる店で、"いざという時に付ける"ピアス穴で付けられるピアスを買ったり…
クラッチバッグなるものを買ってみたりして、ようやく最後の靴屋さんへ。
「沙月、今、身長幾つあるの?」
「160ちょい?多分、161」
「ふむ…マサってどれくらいだっけ?」
「170は超えたでしょ」
「多分、175も無いのです」
「それなら、別にかさ上げしなくてもいっか」
適当にスニーカーでも…と思って物色している横で話し始める3人。
「?」
それを不思議に思いつつ、普段履いているような、軽くて動きやすい物を手に取って選んでいると、楓花が1足のスニーカーを持って来た。
「こんなのとか、合うんじゃない?」
「おっと、良いかも」
丁度探していたような意匠の、派手過ぎず、地味過ぎない黒と白のスニーカー。
それを手に取ってサイズを確認してみれば、丁度ピッタリ私の足のサイズにあっていた。
「サイズ合ってる?」
「うん。ドンピシャ」
そう言って、近場にあった椅子に座って試し履き。
紐を緩めて履いてみて、紐を締めてみれば、変にキツ過ぎずユル過ぎずで、丁度良い。
「どう?」
「良いのです。似合ってるのですよ」
「なら、これにしちゃおうかな。他のパッとしないし」
パパっと決めてしまう。
面倒くさい…のではなく、迷ったら最後の性分だから。
靴を脱いで陳列棚に戻すと、今履いていた靴の箱を探して引っ張り出し、レジで清算。
「……」
3時間ポッキリで、私の両手には紙袋が3つも提げられてしまった。
「さて、これでバッチリね」
「素材が良いだけあって、やりがいがあるのですよ」
少々疲れた顔を浮かべた私に対して、自分の買い物じゃないのに、妙に艶やかな3人。
店を出て、ちょっとだけスマホを弄っていた穂花がスマホから私に目を向けると、意味ありげにニヤリとした顔をこちらに向けた。
「さて、一旦お昼にしたら…もう少し見て回りたいところがあるのよね」
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