195.皆まで言わなくとも、そんなことは分かってる。
皆まで言わなくとも、そんなことは分かってる。
沙絵やら母様やら父様にまで、しつこいくらいにキッチリ絞られた土日を経た月曜日。
心ここにあらずといった状態で迎えた平日、私は午前中をずっと睡眠授業で乗り越えた。
「沙月、起きろ。昼だぞ…おい」
「んぁ…っ」
4時間目終わりのチャイムが鳴り響いて、昼休み。
前の席の正臣が、私の方を振り返って私の額をちょんと突いた。
「ん、ありがと」
「ありがと…じゃないっての。寝不足?」
「うん、そうとも言うし、言わないかも…」
「まぁ、そうなるか」
「お察しどうも……」
気だるげに体を起こした私は、正臣の顔をジッと見つめると、頬のガーゼが目に入る。
それを見て溜息をつくと、再び机に顔を埋めた。
「ダメだこりゃ」
呆れた様な、それでも強く出れない正臣の声。
そんな私達の元に、誰かが近づいてきて、私はガッと肩を掴み上げられた。
「ん?」
見上げれば、そこに居たのは穂花だ。
その周りには、楓花とジュン君…私は3人に目を向けた後で、正臣の方に顔を向けた。
「起きなさい沙月、それとマサも。ちょっと学食に行きましょ?」
いつも通りのお誘い口調なのに、どこか有無を言わさぬ迫力を感じる。
それは正臣も同じ様で、僅かに引きつった顔を浮かべた。
「え?俺も…?」
「えぇ。先約でもあったかしら?」
「いえ、全く」
どうやら逆らえる雰囲気じゃなさそうだ。
金曜日の事を思えば、仕方がないのだが…
正臣と顔を見合わせた私は、怠い体に鞭を打って、今日初めて席から立ち上がった。
・
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正臣と2人、妙に気まずさを感じながらの移動…
校内の景色に目を向ければ、あれだけの事があったというのに、校内は思ったよりも落ち着いている。
幾つかの扉は壊され、1つの教室に至っては完全に破壊され、表向きは人間の黒人が木端微塵になって死んでいて、体育館には意識を失った生徒や先生が倒れている状態だったのに…
そんなことがあったのに、何事も無かったかのように流れる日常の景色。
沙絵達が土曜日の朝までかかって"記憶処理"をしまくったお陰だった。
流石に無理がある面もあって、多少は怪談話みたくなってしまっているが…
大問題に発展しなかっただけで、奇跡のようなもの。
今の状況で、万事OK…それ以上の効果は、私達も望めるはずがなかった。
「今日はいつもと違うのです。沙月と正臣は並んで座るのです」
弁当を持って学食へ入って、"いつもの"席に陣取った私達。
ジュン君に言われるがまま、私と正臣は"上座"に座らせられて、逃げ道を塞がれた。
「さてさて、どうしてああなったのか、聞かせてもらうわね?沙月、マサ?」
逃げたいというか、穴があったら入りたい空気。
この学校で唯一"金曜日の事実"を知っている面々…
色々あった最後の最後、私と正臣が"抱き合ってた"場面を見たのも、目の前に居る3人だけだった。
そこから1段階上の出来事を見られたかどうかは…分からないが。
「どうしてって…どっから言うべきなんだ?」
「そうね、私達と別れた後かしら?どうしたってあの惨状になったのかしら?」
「それは…言いづらいけど、また、私が、ヘマしたから」
「ヘマ?」
穂花の返しに、私はコクリと頷くと、周囲を見回してから小声でワケを話す。
「またあの姿になったのさ。させられたってのが正しいか。で、抑えられなくなって…」
「すったもんだあったんだ。これ以上、そこは聞いてくれるなよ?」
「あ、でも、正臣の傷は私のせいで…」
「沙月、そこは言わなくていいだろ?」
「でも、変な風に取られても嫌だし…」
その様子を見ていた楓花が呆れた顔を見せると「分かった、分かったから!」といって間に割って入って来た。
「何がどうかは別として、マサ、あの格好の沙月を止めたってことね」
「まぁ、そうだな」
「命知らずね。下手すれば死んでたんじゃないの」
「まぁ…終わった事だよ」
正臣は不安な顔を向ける私を他所に、涼しい顔をしてそう言い切る。
「なるほどね…じゃ、その後、沙月が起きるまで付き添ってたと」
「なるほど、その流れでキスしたのです?」
若干残っていたピリ付いた感覚が抜けた後…ジュン君の一言で席の雰囲気は一変した。
「え、あの時、そこまで見てたの?」
顔を真っ赤にした私が尋ねると、3人はコクリと頷く。
「まぁね。事件そのものよりも、そっちのせいで、沙月の様子が変なんでしょうし」
「何があったかも気になる所ですが、それはオマケなのです。センシティブなのです」
「そうそう。沙月もマサも、朝からずっと様子がおかしすぎてね。教室中でチラホラ噂になってるし。ハッキリさせときたいなぁって」
こうもあっけらかんと言われると、どういう反応をすればいいのか分からない。
私と正臣は再び顔を見合わせると、正臣が恐る恐る口を開いた。
「ハッキリって、何を?」
「貴方達、ようやく付き合い出したの?」
「なんだ、やっとかみたいな物言いは…元々そんなんじゃないって。ねぇ?」
「そ、そうそう。あれは…こう、事故?というか、ね?」
「あぁ…あぁ、そう。雰囲気でさ?」
私達の弁解は、3人に響くわけも無い。
否定するのを諦めつつも、出来る限り誤魔化している所で、私はふと話題を逸らすネタを思いつく。
「そ、そうだ。ごめんね?色々とやってくれて。服とか、血とかその辺…アハハ…」
パッと思いついた話、というか、殆ど答えが出ていた疑問。
それを口に出すと、ピタリと4人の動きが止まった。
「え?私達はあの時まで学校に入っていないけど」
「えぇ、沙絵さんじゃないの?」
「いえ、沙絵さん、忙しく動き回ってたはずなのですよ?」
そう言って、私達全員の目が正臣に向く。
「なるほど、なら、通りで…」
「いや…その、悪いとは思ったんだけど…」
顔を真っ赤にしたのは、正臣だけじゃなくて私も同じ。
分かり易い位に冷や汗を流した彼とは対照的に、私は含みのある悪い笑みを浮かべて彼の腕を突く。
「まぁ…あのままでもねぇ…ベッドが使い物にならなくなったか…」
ニヤリと笑ってそう言うと、私は正臣の制服の裾を摘まみ、小声で囁いた。
「ありがと。でも、次があるなら、"ちゃんと全部"やってよ?」
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