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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
195/300

195.皆まで言わなくとも、そんなことは分かってる。

皆まで言わなくとも、そんなことは分かってる。

沙絵やら母様やら父様にまで、しつこいくらいにキッチリ絞られた土日を経た月曜日。

心ここにあらずといった状態で迎えた平日、私は午前中をずっと睡眠授業で乗り越えた。


「沙月、起きろ。昼だぞ…おい」

「んぁ…っ」


4時間目終わりのチャイムが鳴り響いて、昼休み。

前の席の正臣が、私の方を振り返って私の額をちょんと突いた。


「ん、ありがと」

「ありがと…じゃないっての。寝不足?」

「うん、そうとも言うし、言わないかも…」

「まぁ、そうなるか」

「お察しどうも……」


気だるげに体を起こした私は、正臣の顔をジッと見つめると、頬のガーゼが目に入る。

それを見て溜息をつくと、再び机に顔を埋めた。


「ダメだこりゃ」


呆れた様な、それでも強く出れない正臣の声。

そんな私達の元に、誰かが近づいてきて、私はガッと肩を掴み上げられた。


「ん?」


見上げれば、そこに居たのは穂花だ。

その周りには、楓花とジュン君…私は3人に目を向けた後で、正臣の方に顔を向けた。


「起きなさい沙月、それとマサも。ちょっと学食に行きましょ?」


いつも通りのお誘い口調なのに、どこか有無を言わさぬ迫力を感じる。

それは正臣も同じ様で、僅かに引きつった顔を浮かべた。


「え?俺も…?」

「えぇ。先約でもあったかしら?」

「いえ、全く」


どうやら逆らえる雰囲気じゃなさそうだ。

金曜日の事を思えば、仕方がないのだが…

正臣と顔を見合わせた私は、怠い体に鞭を打って、今日初めて席から立ち上がった。


 ・

 ・


正臣と2人、妙に気まずさを感じながらの移動…

校内の景色に目を向ければ、あれだけの事があったというのに、校内は思ったよりも落ち着いている。

幾つかの扉は壊され、1つの教室に至っては完全に破壊され、表向きは人間の黒人が木端微塵になって死んでいて、体育館には意識を失った生徒や先生が倒れている状態だったのに…


そんなことがあったのに、何事も無かったかのように流れる日常の景色。

沙絵達が土曜日の朝までかかって"記憶処理"をしまくったお陰だった。

流石に無理がある面もあって、多少は怪談話みたくなってしまっているが…

大問題に発展しなかっただけで、奇跡のようなもの。

今の状況で、万事OK…それ以上の効果は、私達も望めるはずがなかった。


「今日はいつもと違うのです。沙月と正臣は並んで座るのです」


弁当を持って学食へ入って、"いつもの"席に陣取った私達。

ジュン君に言われるがまま、私と正臣は"上座"に座らせられて、逃げ道を塞がれた。


「さてさて、どうしてああなったのか、聞かせてもらうわね?沙月、マサ?」


逃げたいというか、穴があったら入りたい空気。

この学校で唯一"金曜日の事実"を知っている面々…


色々あった最後の最後、私と正臣が"抱き合ってた"場面を見たのも、目の前に居る3人だけだった。

そこから1段階上の出来事を見られたかどうかは…分からないが。


「どうしてって…どっから言うべきなんだ?」

「そうね、私達と別れた後かしら?どうしたってあの惨状になったのかしら?」

「それは…言いづらいけど、また、私が、ヘマしたから」

「ヘマ?」


穂花の返しに、私はコクリと頷くと、周囲を見回してから小声でワケを話す。


「またあの姿になったのさ。させられたってのが正しいか。で、抑えられなくなって…」

「すったもんだあったんだ。これ以上、そこは聞いてくれるなよ?」

「あ、でも、正臣の傷は私のせいで…」

「沙月、そこは言わなくていいだろ?」

「でも、変な風に取られても嫌だし…」


その様子を見ていた楓花が呆れた顔を見せると「分かった、分かったから!」といって間に割って入って来た。


「何がどうかは別として、マサ、あの格好の沙月を止めたってことね」

「まぁ、そうだな」

「命知らずね。下手すれば死んでたんじゃないの」

「まぁ…終わった事だよ」


正臣は不安な顔を向ける私を他所に、涼しい顔をしてそう言い切る。


「なるほどね…じゃ、その後、沙月が起きるまで付き添ってたと」

「なるほど、その流れでキスしたのです?」


若干残っていたピリ付いた感覚が抜けた後…ジュン君の一言で席の雰囲気は一変した。


「え、あの時、そこまで見てたの?」


顔を真っ赤にした私が尋ねると、3人はコクリと頷く。


「まぁね。事件そのものよりも、そっちのせいで、沙月の様子が変なんでしょうし」

「何があったかも気になる所ですが、それはオマケなのです。センシティブなのです」

「そうそう。沙月もマサも、朝からずっと様子がおかしすぎてね。教室中でチラホラ噂になってるし。ハッキリさせときたいなぁって」


こうもあっけらかんと言われると、どういう反応をすればいいのか分からない。

私と正臣は再び顔を見合わせると、正臣が恐る恐る口を開いた。


「ハッキリって、何を?」

「貴方達、ようやく付き合い出したの?」

「なんだ、やっとかみたいな物言いは…元々そんなんじゃないって。ねぇ?」

「そ、そうそう。あれは…こう、事故?というか、ね?」

「あぁ…あぁ、そう。雰囲気でさ?」


私達の弁解は、3人に響くわけも無い。

否定するのを諦めつつも、出来る限り誤魔化している所で、私はふと話題を逸らすネタを思いつく。


「そ、そうだ。ごめんね?色々とやってくれて。服とか、血とかその辺…アハハ…」


パッと思いついた話、というか、殆ど答えが出ていた疑問。

それを口に出すと、ピタリと4人の動きが止まった。


「え?私達はあの時まで学校に入っていないけど」

「えぇ、沙絵さんじゃないの?」

「いえ、沙絵さん、忙しく動き回ってたはずなのですよ?」


そう言って、私達全員の目が正臣に向く。


「なるほど、なら、通りで…」

「いや…その、悪いとは思ったんだけど…」


顔を真っ赤にしたのは、正臣だけじゃなくて私も同じ。

分かり易い位に冷や汗を流した彼とは対照的に、私は含みのある悪い笑みを浮かべて彼の腕を突く。


「まぁ…あのままでもねぇ…ベッドが使い物にならなくなったか…」


ニヤリと笑ってそう言うと、私は正臣の制服の裾を摘まみ、小声で囁いた。


「ありがと。でも、次があるなら、"ちゃんと全部"やってよ?」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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