194.とりあえず、君がいてくれて助かった。
とりあえず、君がいてくれて助かった。
全てが終わった後で、正臣に声をかけるとすれば…こう言えばいいだろうか?
いや、偉そうだな…油断してやられて、派手に暴れてこんな目に遭わせて、合わせる顔も無いというのに。
「……どうなったんだろ」
目を覚ますと、保健室のベッドの上だった。
今は夕方…オレンジ色に染まった保健室の外ではウチの面々が忙しそうに"後始末"に追われている。
私の元に監視が居ない辺り、どうにかなったのだろうけども…どうなったかは覚えてない。
分かるのは、新品ジャージ一式を着せられてベッドに寝かされていたと言う事だけ。
ベッドの隣…椅子に座った正臣がうたた寝をしている以外に、人影は見当たらない。
気持ち良さそうに寝ている正臣の右頬には、血が染みた大きなガーゼが当てられていた。
「悪い事したな。それじゃ、済まないか…」
彼の頬をジッと見つめると、さっきの出来事が頭に思い浮かんでしまう。
とりあえず、覚えているのは…死体とグールと妖を始末した後に一戦交えたと言う事。
"元に戻る"呪符の効力で生気を吸われた彼と、呪符に当てられて段々弱体化していた私の一騎打ち…結果は見事に私の負け。
彼に呪符を突き当てられ、そこで意識を失ったから…
それから先の事は分からない。
目を覚ませば、夕方で、ベッドの上で、衣服も綺麗になっていた。
唯一、ブラが無いのが違和感だけど。
「起こしちゃ不味いよね」
ジーっと正臣を眺めていても、起きる気配は一切無い。
チャチな椅子の上で、足を組んで腕を組んで、器用に眠っている…
私は彼の頬のガーゼをジッと見つめると、取り換えてやろうと思い立ち、のそのそとベッドから降りた。
一旦裸足で保健室を歩き回る。
ベッドの左右を見ても、あったのはスリッパだけ…
そう言えば、上履きは"変化"したときに、靴下諸共破けたのだった。
「消毒液…これかな?」
適当に漁って、ガーゼやらテープやらをかき集めて、ベッドに戻る。
「……」
諸々を持って、正臣の正面へ。
ジッと眺めて、正臣の顔が僅かに揺れた所で、彼の頬に手を当てた。
「…っ」
手が触れると、一瞬、正臣が反応を見せたが、起きる事は無かった。
血濡れたガーゼをペリっと剥がすと、その向こう側に見えたのは、生々しい傷。
思ったよりは深くないが、もしかすると跡が残りそうな傷。
それを見て、私は思わず目を背けた。
「ごめんなさいじゃ、許してもらえないな、これ」
ボソッと呟きつつ、まだ僅かに流れている血を、消毒液を含ませたティッシュで拭う。
血で汚れていた患部が綺麗になったところで、ガーゼを貼り付けた。
「これでよしっと」
ひとまず、これでよし…
道具を片付けて、ベッドの上に戻った私だったが、これからどうなるのかも分からない。
正臣が起きるか、誰かが呼びに来るまでは大人しくしていようか。
ベッドの上に座って、ボーっと窓の外を眺めてみる。
保健室からの景色は、大して面白いモノでもなかった。
夕暮れ色に染まった空の下には、校舎の敷地を仕切る柵が見えて、その向こう側には住宅地が見えるだけ。
私は景色にすぐ見飽きると、自分の体に目を向ける。
真新しいジャージ上下に身を包んだ姿…そして、髪を掴んで引っ張ってみれば、見えたのは黒い髪。
この格好を不思議に思った私は、近場に見えた鏡の方へ向かって、鏡に自分の姿を映す。
眼鏡以外は"表の顔"になった私…髪は間違いなく、渠波根に取られたはずのウィッグだ。
「ボサボサだけど…」
唯一違うと言えば、セットが崩れてボサボサになっていることくらい。
頭を触ってみると、普段、私がウィッグのピンを留めている位置に、ちゃんとピンが留まっていた。
元通り…というのが正しいのだろうか。
傷も無く、体に違和感も感じない。
酷く感じていた空腹も無ければ、カフカに刷り込まれた"感覚"も何処かへ消えていた。
その辺りは、きっと一時的なのだろうけども…不思議と気分が良い。
「ん…」
鏡で自分の姿をジッと見つめていた所で、背後から正臣の声が聞こえた。
「あ、沙月…起きてたのか」
鏡の前でピタリと固まった私。
鏡越しに見ると、目覚めた正臣が腕を伸ばしながらこちらに顔を向けていた。
「沙月?」
名前を呼ばれると、ビクッと震えてしまう。
ただ、いつまでも振り返らない訳にも行かず…ゆっくりと振り向くと、正臣は私を見て僅かに笑みを浮かべて、顔を赤くした。
「大丈夫そうだな」
「まぁ…うん。なんとか…その、ごめんなさい。ちゃんと、覚えてるから…その…」
ガッチガチに固まりながらベッドに戻って腰かけると、正臣はニヤリと笑って何も返さず外を見て、再び私に視線を戻す。
「今、何時?」
「4時半過ぎ」
「そっか」
「その…傷、痛くない?」
言い出せなくなる前に傷の事を切り出すと、正臣は取り換えたガーゼに手を当てて、何でもなさそうな反応を見せた。
「換えた?」
「うん。痛みとか…無い?大丈夫?」
「大丈夫。案外浅いし」
「そう…他は?何か無い?痛みとか、折れてたりとか」
「してたらここに居ないっての」
質問攻めになってしまった私の額をコツンと小突いて正臣は笑みを見せると、一度目線を外して、再びこちらに目を合わせる。
「とりあえず場が収まったんだ。気にすることじゃないさ」
「…でも、ちょっとやつれてる?やっぱあの呪符が…強すぎるから、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。そりゃ、今まで飲まず食わずで今までだぞ?腹減ったな…大分…」
そう言って笑う正臣は、どこかやせ我慢をしている様に見えた。
その様子を見て、私はドッと溢れてきた感情の押さえ先が無くなってしまう。
「…!」
気付いたら、正臣に手が伸びていて、何も考えずに彼を抱き締めていた。
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「沙月~、いるんでしょ?そろそろ帰る準備してって沙絵さんが…え?あっマサ?2人共何して……って…ご、ごめんなさい!ノックしなかったから!…」
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