193.自分でも何をしているか分からないが、楽しければそれでいいか。
自分でも何をしているか分からないが、楽しければそれでいいか。
確実に首を突き刺したと思った蹴りは間一髪で躱されて、代わりに私の体が後方に突き飛ばされる。
「おっと…中々、やるじゃない」
トン、トンと飛び跳ねて距離を取りながら、彼を煽る。
カシャカシャと床を滑る音…思った通りに止まれなかったが、なんとか止まって壁に手を付くと、これ以上に無い位目を見開いた男の子をジッと見据えた。
「惜しかったなぁ…でも、躊躇してる。そうやって躊躇してる間に、死んじゃうよ?」
「沙月…止めてくれ、まだ間に合うんだから」
「どうしてこんな愉しい時間を止める必要があるのさ。さぁさぁさぁ!」
壁に付いた手を押し出して男の子の方へ真っ直ぐ飛んで行く。
また一段と鈍くなった体の動きに、口元の笑みが陰ったが、それでも構わず爪を突き立てた。
一閃。
難なく突き返され、僅かに表情を曇らせる。
手加減してやるなんて言ったが、段々と重くなってきた体がそれを許してくれない。
「沙月!」
割と本気で刺しに行ったのだけども…彼には私の動きが全て読まれている様だ。
男の子の叫び声に何の反応も見せず、目を血走らせて次から次に腕を振って、蹴りを入れたが、全て軽々と躱される。
「この、畜生!」
ヒュッと振った右腕。
難なく弾き返された挙句、直後、私の眼前に竹刀の先端。
目を見開いた時には、眉間の間にそれが突き刺さった。
「沙月」
足の爪がよく滑る廊下だこと…
竹刀を受けた勢いで、足を掬われた私は派手に背中から転んで後頭部を打ち付ける。
「まだやるか?」
大の字に転んだ私の首筋に竹刀を突きつけた男の子。
私は曇らせた表情に笑みを浮かべて頷くと、そのまま足を曲げて蹴り上げた。
「当然!」
難なく躱され、その最中にヒョイと体を起こして立ち上がる。
「言ったでしょ、止めてみなって!爪が甘いんじゃない?」
「あぁ、分かったよ。馬鹿に付き合ってやるさ!」
その声と共に、今度は男の子の方から掛かってくる。
さっき以上に竹刀の振りが鋭くなり、何度か躱している内に、遂に彼の放った突きが私の首元を突き刺した。
「ぐげっ…!」
真面に食らって、変な悲鳴と共に呼吸が止まる。
更に追撃が来たが、腕を乱雑に振り回して距離を取った。
「おぉ…ケホッ!速い!速いねぇ!」
「言ってろ!必ず止めてやる!戻ったら覚えてろよ?」
距離を取った私の元に、素早く距離を詰めてくる男の子。
そこから先の竹刀捌きは、今の私だと、ちょっと目で追うのも大変…
目を見開いて、躱して、爪で弾いて、防戦一方。
「チィ…この!」
僅かに振りがブレた瞬間、右手で竹刀を思い切り弾き飛ばし、左手の爪を首元へ突き立てた。
「うっ!」
パッと竹刀を手放した男の子。
爪先を間一髪で躱して、腕を掴みあげ、私の体は宙に浮く。
「わっ!」
そのまま軽々と振り回され、パッと手を放される。
フワリと浮遊感、頭の翼を咄嗟に広げて体勢を整え床に接地…
クルリと振り返れば、男の子は落した竹刀を拾い上げ、素早く構えた。
「まさか、そんなことが出来るとは思わなかったな!」
カチャカチャと足元を探るように動かしながら声をかけると、蒼白になった表情をこちらに向けた男の子は、僅かに口元を歪める。
「言ったろ…付き合ってやるって」
「ねぇ、どうして私に本気になれたのさ?別に、逃げてもいいのに。そろそろ死ぬよ?」
そう言って、両手を合わせて爪を研ぐ。
これまでの諸々のせいでこびり付いていた血肉のカスがポロポロと零れて行った。
「…放っておけるか馬鹿。約束したろ?止めてやるって。止めてくれって言ってたよな?」
彼はそう言うと、奥歯を噛んで目を細める。
「抱え込まないで俺を頼ってくれ。何とかしてやる!そのせいで死のうが構うもんか!」
ムズ痒い事を言ってくれたものだ。
私は薄ら笑いを浮かべると、合わせていた手を放した。
「なら、頼ってあげる!」
そう言ってグッと身を縮める。
体の重さを考えれば、次で最後だ。
これ以上は、動く気がしない。
「1食分にしか頼りにならないけどね!」
爪が床の割れ目に食い込み、今まで以上に足に力が込められた。
ドン!と飛び出して、そのまま目指すは彼の首筋。
さっきまでの様に、大きく振り被らない。
さっきまでの様に、押さえた速度にはしない。
ただ、今できる限りの全速力で突っ込んで、ギリギリになって右腕を突き刺すだけ。
今度は、人間風情に捉えられる速度じゃない。
周囲の時の流れが一気に遅くなり、舞い散る埃1つ1つがしっかり目で捉えられた。
一閃。
構えも無しに振り出された右腕は真っ直ぐ彼の首筋へ。
目を見開いた彼は僅かに後退ったが、それも無駄な悪足掻き…
「?……」
首へ一直線に伸びた右腕…振り切っても僅かに届かない。
後退して思いっきり体を仰け反らせた彼は、寸でのところで爪を躱し、お返しとばかりに引いた腕をこちらへ突き刺してきた。
空を切って泳いだ右腕…咄嗟に左腕が出るが、その腕をすり抜けて竹刀が飛んでくる。
私の左爪は彼の顔を捉えていたが…勢いそのまま、彼の拳が私の首筋を突き刺した。
顎下を打ち抜かれ、意識を飛ばしながら、僅かに仰け反る私。
振るった左爪は彼の右頬に深い傷跡を残しただけで空を切り、気付けば首元を捕まれ抱かれる形で地面に倒れ込む。
そして、彼に引きずり込まれる形で床に転がった瞬間、私の額に何かが突きつけられた。
「つ、か、まえ…たぁ!」
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