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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
192/300

192.まだ遊び足りないが、遊ぶ相手はもういない。

まだ遊び足りないが、遊ぶ相手はもういない。

宝石2つ、意識を失った男の子1人…並んだ机と椅子は滅茶苦茶に散らかり、中庭に面したガラス窓は全て粉々。

そこに唯一、意識を保っているのは、呆然とした表情を浮かべて立っている私。


「参ったな…やりすぎちゃったかな?」


惨状を見渡して一言。

やり過ぎたと思った所で、後の祭り。

腕に付いた死体と妖の血を払い落し、顔についた血を腕で適当に拭うと、蹴破った扉から外に出る。


多分、もうやる事がない。

だから、あとは漂うだけ…

どうしようかなんて、これっぽっちも思い浮かばなかった。


「……」


外に出て立ち止まり、胸に手を当てて、鬼沙が苦しんだ"感覚"に顔を歪める。

それは、あの妖特有の"手品"だろうか?

どんな状態からでも死体を復活させ…死体を支配下に置く力。

彼女にとっては、妖としての力を誇示する道具だったのだろうが…

死は死で受け流す私達にとっては、呪いも良い所だ。


空腹衝動の次は、これか…

殺してでも、自分のモノにしたくなる。

鬼沙はあの夜、これを堪えて私と戦った。

あぁ、流石は"お兄ちゃん"だ。

鬼の癖に、人から成り下がった妖怪の癖に、随分強大な精神を持ち合わせているようで…


「腹減ったな…」


立ち尽くしたまま、独り言をポツリ。

クルリと振り向けば、煤けた状態で寝転がる男の子の姿が目についた。

彼は気を失ったまま、目を覚ます気配がない。


「……」


彼を目に入れ、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

流石にそれだけは無い…やっちゃダメだ…ダメなのだろうか?

体はGOサインを出しているのだが…どこかで、私を止める私がいる。


それでも、口の中に湧いた涎は止まる気配がなく…

それを何度飲み込んでも、すぐに口の中が濡れてきた。


「何か…食べるもの…」


足が勝手に、教室の方へ動き出してしまう。

止めなければと思っても、乾くような空腹には耐えられない。

…さっき、変な死肉の血を飲むんじゃなかった。


「……あぁ、参った…参った」

「沙月!」


教室に足を入れかけた私の耳に、誰かの声がつんざく。

顔を歪めて足を止め、気だるげに声の方へと振り返ると、竹刀を手にした男の子の姿が目に映った。


「んー?なんだ、君か」


少々息切れした姿。

何とも言えない表情を浮かべ、どこか生気が抜けている様に見える男の子。

ボンヤリとしてきた頭に、彼の名前は浮かばないが、とても大事な人だった気がする。

私は呆然とした視線を彼に向けると、彼は少し離れたところで立ち止まった。


「…ど、どうなってるかは知らないけどさ。早く戻らないと……はぁ…と、取り返しが付かなくなるぞ!」


息を切らし、焦った様子の男の子。

私としては、別に戻らなくても良い気がする。

それよりも気になるのは、彼の体調だ。


「どうでもいいさ。どうでも。それより、どうしたの?随分疲れてる様に見えるけど」


まるで悪霊に支配されたかのようなグロッキーさ。

だが、彼から霊の気配は感じない。


「あぁ、あぁ!ワケアリでさ!」

「そう」


疲れに震えた彼の声。

顔中を覆った脂汗の原因に、ちょっと興味が湧いた。

だが、同時に…どこか私の体が少し重くなってきている様な気がする…


「ねぇ」


彼の方に体を向けた私は、両腕を振るいながら、彼の目をジッと見つめた。


「もう少し、遊ぶだけの体力は残ってる?」

「はぁ?何を言って…」


戸惑いの表情を浮かべた彼の方へひとっ飛び。

ヒュッと軽く右腕を振り下ろすと、彼は驚いて飛びのいた。


「沙月!ふざけてんのか!?俺だ!」

「いやぁ、分かってるって。至って真面目さ。だから、ちょっと賭けをしよう」

「…んな暇あるか!呪符ならある!見つけてきた!美術室で!真北が持ってたんだ!」


そう言って男の子はポケットから特異な意匠の呪符を取り出す。

それは、私をツマラナイ"人間"に戻すための特効薬。

彼がやつれていた理由はそれだったか。


だが、残念。

私はもう、突っ走るしかないのだから。


「戻りたくないんだって…そんなもの持って、身を崩すよ?」

「俺を心配してるなら、サッサと戻ってくれ…」

「嫌だね。ボーヤ、手加減してあげるからさ、今の私を止めてみない?…私が勝てば、アンタも、そこで転がってる子も私の餌…負ければ、私は元通り」


そう言って、再び距離を取った男の子に向けて、血だらけの両腕を振るって見せた。

飛び散る血、何かが壊れた様な笑みを彼に向けると、男の子は青褪めた顔をこちらに向けて、手にした竹刀を握りしめる。


「なんか体が重いと思えば、きっとその呪符だ。原因は、長引けば、分が悪いな」

「なんなんだよ…沙月…どうしたってのさ」

「私が聞きたいよ、どうなってんのさ?訳が分からない!アーッハハハハハハ!!!!」


私の笑い声が廊下に響き渡った。

ひとしきり笑った後で、こちらをジッと見据える男の子の方をジロリと見やる。


「余興には十分。腕の良い剣士だったものね?君は」


腕をダラリと下げて、バサッと羽を広げると、トン!と足を踏み出し男の子の元へ一直線。

なんの考えも無く右手の爪を振るうと、それはいとも簡単に弾き返された。


「沙月!こんなことしてる暇無いんだって!」

「ならば、止めてみな!」

「あーもう!戻ってこい!」


柔らかな竹刀で、硬い爪を弾き返された事に驚く間もなく追撃に出る私。

ちょっと動きが重い体を強引に動かし首筋を狙い続けたが、男の子に難なく返され続ける。


「この!」


ヒュッと右手を突き出し、一瞬で引っ込めた。


「くっ」


フェイント気味の動き、攻め調子になった男の子は、簡単に引っ掛かる。

クルリと回って足を蹴りだし、足の爪が彼の顔目掛けて突き抜けた。


「うぉっ……!」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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